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過去の浜辺を歩く(墓碑銘)

過去というのは、海辺を振り返ってみると延々と続いているお墓だ。
暖かいとか冷たいとかいうほどでも無い、光源のはっきりしない僅かに冷えた穏やかな日差しと波の、その波打ち際にずっとお墓が並んでいる。

ずっと続いていた「今」が「過去」になる時というのはやっぱり区切りがあって、これまでは一緒だったけれどこれからは別々だね、と確かめ合って砂に埋葬していく、という事だと思う。その意味で過去に「なる」のではなく「する」と言った方が正しいかもしれない。丁寧に選んだ墓碑銘を刻む。

例えば失恋も卒業も友だちが遠くへ行ってしまうことも、そうやって区切りをつけていけば、いつでも振り返った時に花を添えて優しく思い出すことができる。

緩やかな放物線で終わった物事は地面に落ちた跡もそっと埋葬されて、でもいつでも会いに行けるのだ。

全ての過去を理想通り優しく埋蔵することはできないけれど、でも、私にとって過去は、たいていは海辺に優しく並ぶ墓碑銘たちで、それは例えば幸福と呼んでも良いものだと思う。

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