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不老不死は実現するか        ~電脳世界への招待~

K.S.R.C ResearchReport FileNo.010012
オリジナル公開日 1999/4/28 報告
  報告者:KS

 前回のリサーチ(FileNo.010011)において、不老不死の可能性をレポートした。が、それはあくまでも医学的側面からのリサーチであった。
 今回は、別の側面から不老不死の可能性をレポートすることにしよう。

 人間の脳は移植することが出来ない。なぜなら、脳こそがその人、全てであるといえるからだ。もし、脳が損傷を受けた場合、われわれは即、死を覚悟しなければならない。
また、脳細胞は他の体細胞と異なり、生まれてからは増えることがなく、減る一方なのである。この点を解決しない限り、不老不死は実現できないのだ。

 では、どうすればよいのか。

 その答えは、脳の移植である。

 先程、脳は移植できないと申し上げたが、確かに、人から人への脳の移植は不可能だ。だが、脳で持っている情報及び機能を外の何かに移行することが出来れば・・・その移行対象となるのが、コンピュータである。
 ここで重要なことは、いわゆる「精神のダウンロード」ではなく、脳の移行をしなくてはならないということである。
 脳の移行とは、脳そのものをコンピュータと置き換えることであるのだ。

 人間の脳の最小構成単位はニューロン(神経細胞)と呼ばれる特殊な細胞である。そして、脳は実に140億個ものニューロンからなっているのである。
 では、この140億個ものニューロンからなる脳をコンピュータに置き換えることが果たして可能なのだろうか。

 話を単純にするために、最小単位での比較を行ってみることにする。コンピュータの心臓部であるCPUの内部の演算素子は、現在、大規模集積回路LSIでは、4mm~5mm角のシリコンチップ上に数万個のトランジスタが乗っている。超LSIに至っては、10mm角のシリコンチップ上に数百万個の素子が乗っている。人間の脳のサイズなら数十億は軽く詰め込むことが可能だろう。この分野は技術の進歩が速いため、素子の個数でコンピュータが人間の脳を上回るのは時間の問題と言える。
 むしろ、問題なのは数ではなく、素子間の接続方法である。人間の脳ではニューロンからニューロンへ情報を伝達することにより、神経回路(ニューラルネットワーク)が形成されている。ニューロンの接合部をシナプスと呼ぶが、人間の脳では1個のニューロンにつき、約1万個のシナプスがあるというのだ。したがって、コンピュータに脳と同じかそれ以上の働きをさせるためには、システムとしての脳、すなわち神経回路をうまくシミュレートできるかがネックになるのだ。チップを相互につないで物理的に神経回路網をシミュレートするよりは、ソフトウェア的にシミュレートする事が現実的であろう。
 ソフトウェア的に神経回路網をシミュレートすることも、現在の技術の延長線上で充分可能だと思われる。

 では、具体的に脳の移行の手順を探ってみよう。

 まず、脳のある一部分をコンピュータに置き換える。比較的簡単だと思われる視覚情報処理の部分あたりからコンピュータでシミュレートさせるのだ。そのコンピュータはもちろん脳に埋め込める位のサイズにする必要があるが、場合によっては無理に埋め込めなくても良いであろう。そうして、視覚情報処理は完全にコンピュータに処理させ、脳のその部分を切除する。
 同様に、次は聴覚処理部分、その次は言語中枢、記憶保存部・・・というように徐々にコンピュータと脳を入れ替えていくのだ。すると、最終的には、脳は完全にコンピュータと入れ替わってしまうのだ。

 さて、こうして脳が完全にコンピュータに置き換わってしまえば、あとは様々な可能性の未来が待っている。

 まずは、この壊れやすい肉体を捨てることから始めるべきであろう。有機物であるこの肉体を捨て、無機物からできたボディに移行するのだ。もちろん、それは人の形をしている必要はない。空を飛びたければ羽を付けたり、また、海に潜りたければスクリューを付けるのも良いだろう。はたまた、ナイトライダーのKITTのようにクルマになることも可能だ。

 それだけではない。もっと速く考えたければ自分のCPUをバージョンアップする事も可能だし、記憶容量を増やすことも簡単にできるのだ。
 しかも、嫌な記憶は完全に消去可能である上に、全く別の記憶を外部から取り入れることも可能なのだ。インターネット等のネットワークに接続すれば、自分自身がネット上の全てのデータを検索可能になるのだ。

 それが実現できている未来では、さまざまな記憶が店で売られていることだろう。その記憶を自分にダウンロードすれば、経験なしに体験した過去を得ることが可能となるのだ。
 ゲームにしても、今考えられるものとは全く違ったゲームが可能となる。ゲーム自体を自分の脳であるコンピュータ内で行うため、現在のバーチャルリアリティの比ではない、超リアルな体験が可能となるのだ。もっも、これにより、虚と実の区別がつかなくなる危険性はあるが。

 いいこと尽くめのようだが、実は逆の恐怖の方が大きい。
 記憶の操作がとても簡単になってしまうため、犯罪が増加するだろう。しかも、記憶を操作された人は、記憶を操作されたこと自体に気がつかない可能性が高い。また、洗脳の恐怖や独裁者の出現も考えられる。殺人もスマートに行われる。脳をフォーマットしてしまえばそれで終わりだからだ。当然、そのあたりのセキュリティは万全を期すのだが、それでも他人の脳にアクセスする人は出てくるだろう。また、移動手段や入出力装置を外され、脳(コンピュータ)だけにされた場合は、唯そこにいるだけの存在になってしまう。その場合、その人は・・・考えるのはやめよう。
 
 しかし、一番の問題は、脳の全てをコンピュータで置き換えた人間を、果たして人間と呼んで良いのかという点だろう。脳をコンピュータで置き換えられるほどの未来においては、完全なロボットも可能であるはずである。その両者の区別はつける事ができるのであろうか。
 また、コンピュータであれば完全なコピーも可能であるから、クローンが生まれやすい。その場合、どちらがオリジナルなのか誰に判断できるだろうか。おそらく、判断できまい。
 いや、そんな未来では、クローンこそが子孫を残す唯一の方法になっていることだろう。


<解説>

減る一方の脳細胞

 脳を構成しているニューロンの数は、20歳頃がピークで、その後は一日に10万個から50万個もの割合で減少していく。しかも、ニューロンは再生することはない。

精神のダウンロード

 精神のダウンロードとは、脳の情報(記憶や感情等)をコンピュータにコピーすることであり、これでは自分と同じ記憶と考え方をするコンピュータが出来るだけであり、自分自身はそのままである。

KITT

 ナイト2000。通称キット。ナイト財団が開発した意志をもったコンピュータを内蔵したクルマである。
Knight Industry Two Thousandの略。

唯そこにいるだけの存在

 これに近いのが、「銀河鉄道999」で、メーテルによって終着駅である惑星メーテル(原作ではプロメテウスだったかな)に連れてこられた少年達の、成れの果ての姿「意識をもったネジ」であろう。銀河鉄道999の機械人間はまさに、脳を完全にコンピュータに移行した人間の姿である。
 主人公の星野哲郎は、限りある命の大切さとすばらしさを、様々な経験の中で実感するわけだが、実際に永遠の命を手に入れることができる世界になった場合、あなたは限りある命を選ぶことができるだろうか・・・

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