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遊星より愛をこめて

K.S.R.C ResearchReport FileNo.200102
オリジナル公開日 2001/7/9 報告
報告者:KS

 1960年代、ゴジラ、ガメラをはじめとした怪獣映画に子供達は夢中になっていた。
いや、子供達だけではなく大人達でさえもその空想特撮映画に夢中になっていたのだ。
そういった空想特撮映画の流れはちょうど普及し始めたTVにも波及していったのである。

 すなわち、「ウルトラQ」のスタートだ。

 ウルトラQは優れた空想特撮番組であったが、その内容はアメリカの人気番組「トワイライトゾーン」の日本版と言う感じであり、オリジナリティと言う点では今一歩という感が否めなかった。

 しかし、それに続く「ウルトラマン」では巨大ヒーロー物という一ジャンルを形成することに成功したのである。
「ウルトラマン」に登場する敵は主に怪獣であった。これは前作「ウルトラQ」の中で怪獣が出てくる話は人気が高かったことを受けているのである。
 怪獣とウルトラマンの戦いはそれまでにない興奮を視聴者に与えることに成功した。
それはゴジラでの怪獣プロレスと時代劇での勧善懲悪の融合の結果と言えるだろう。

 その結果、「ウルトラマン」は番組として大成功を納め、その後もシリーズ化されているのはご承知の通りである。

 その大ヒット特撮番組「ウルトラマン」の後番組としてスタートしたのが「ウルトラセブン」であった。

 ウルトラセブンとウルトラマンにはいくつかの相違点が存在する。

①サイズの違い
 ウルトラマンは身長50mの巨人という設定でありその大きさは変化しないのに対し、ウルトラセブンはその大きさをミクロからマクロまで自由自在に変化することが可能である。
 これにより、物語に幅を持たせることが可能になったのだ。
(ウルトラセブンが人間の体内に入る話、第38話「悪魔の住む花」等)

②人間体の違い
 ウルトラマンは科学特捜隊のハヤタ隊員の身体を借りているに過ぎないのに対し、ウルトラセブンは誰かの身体を借りているわけではない。完全にモロボシ・ダンという人間になりきっている。
 ウルトラセブン(モロボシ・ダン)は薩摩次郎という若者の姿を借りていたのだ。
セブンが地球へやって来て初めてあった地球人、それが薩摩次郎だったのだ。
登山中に仲間を救うためにザイルを切った青年。その姿と魂をモデルにダンは作られたのだった。(第17話「地底GO!GO!GO!」)

③敵の違い
 実はこれが一番大きな違いである。
ウルトラマンでは主に怪獣と戦っていたが、ウルトラセブンでは地球を侵略してくる宇宙人と戦っているのだ。
 巨大な怪獣は迫力があるが現実には存在しないことが明らかだ。
 それに対し人間と同じ大きさの宇宙人は「もしかしたら・・・」という身近な恐怖のような物を視聴者に与えることに成功している。

 ウルトラマンの後番組でありながらもこういった違いを武器に、物語の幅と深さを広げ”日本特撮史上屈指の名作”と言われているウルトラセブン。

 そんなウルトラセブンであるが、唯一放送禁止となっている話が存在することをご存じだろうか。
その話こそが第12話「遊星より愛をこめて」である。

 ウルトラセブンが最初に放送された当時(昭和42年)には放送禁止ではなかったのだが、その後の再放送の途中から放送禁止にされ、まるで元から存在していなかったかのように”欠番”とされ今日まで至っている。

 では、そのストーリーをご紹介しよう。

タイトル画面

 遙か彼方のスペル星で核実験が行われた。その結果スペル星人は被爆し白血病になってしまったのだ。
 その治療のためには、新鮮な血液が必要となるのであった。
 そこで、地球の女性の血を狙ったスペル星人。
人間になりすまし、女性に接近。そして血液採取用の腕時計をプレゼントと称して渡し、女性の血液を奪っていたのだった。
 が、その腕時計を女性の弟がつけたことから女性の血より子供の血の方が有効なことが判明し、急遽、子供を狙うことになる。
しかし、セブンの活躍でスペル星人は撃退されたのだった。

スペル星人を投げ飛ばすセブン

 さて、問題となったのは、スペル星人は被爆していたことなのだ。
被爆していたため通称「被爆星人」と呼ばれてしまったのだ。

 それを快く思わなかったのが被爆者の団体である。
被爆者を怪物扱いしているように受け取れ、差別であると主張したのだ。

 しかし、その「被爆星人」のネーミングは放送当時にはなく、後から出版された怪獣本によってつけられた物である。

 物語そのものには被爆者に対する差別のようなものはなく、むしろ反核をうたった作品としてとらえることが出来る。

 ウルトラセブンの話の中には第26話「超兵器R1号」という軍拡に対してのストレートなアンチテーゼ作品があるが、この「遊星より愛をこめて」もそういった意味を持った作品として制作されたことは明らかだ。

 反対していた被爆者団体は、もう既に解散してる上、制作者側も反核というメッセージを持って制作していた訳であるから、もうそろそろ”欠番”を解除してもいいのではないかと思うのだが・・・。

 少しでも問題になりそうな物は完全に否定してしまうという態度は、いい加減やめてもらいたいものである。


<解説>

血液採取用腕時計

 腕時計に仕込んだ装置で少しづつ血液を採取しているスペル星人。
意外と回りくどい。いや、逆に言えば、意外と気が弱いということか。
 現実社会ではキャトルミューティレーションで家畜が殺されて血液を抜かれる事件が起きており宇宙人の仕業かと騒がれているが、そのような事件を30年以上も前に予測していたのかもしれない。

被爆星人

出現シーン
目からビーム

 これが被爆星人ことスペル星人である。
全身の至る所にケロイド状のやけどがあるが、このことが実際の被爆者に直接繋がるかと言えば、そんなことはないと思うのだが。

ストーリーみどころ

 スペル星人に対してアイスラッガーを投げるセブン。この回のアイスラッガーは水面を水切りをするのだ。

左上にあるのが水切りをするアイスラッガー

アイスラッガーが水切りをするのはセブン全話の中でもこの回だけである。
その後はスペル星人を真っ二つ。

真っ二つ

<2022/5/21筆者追記>
アイスラッガーで真っ二つにされるのはメトロン星人のイメージもあるが、メトロン星人の出てくる「狙われた街」は第8話。この「遊星より愛をこめて」はその後の12話である。
監督はともに実相寺昭雄氏。さもありなん。

ラストのダンのセリフ

ラストシーン

「地球人も他の星の人も同じように信じあえる日が来る。M78星雲の人間である僕がこうして一緒に戦っているではないか。」

欠番の理由

この回の脚本を書いたのは佐々木守氏。彼は「差別を受けてる人の言うことは全て正しい」というスタンスのため、今現在も欠番として扱われている。


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