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ぼくのライブエイド研究4

世界でいちばんマシなライブエイドを見た国はどこ?

前回の続き、ライブエイド当日生中継に関して、さらに深く突っ込みます。

1985年7月13日土曜日、ロック史上最大のチャリティコンサート、ライブエイドは、イギリス・ロンドンのウェンブリー・スタジアムに8万人、アメリカ・フィラデルフィアのJFKスタジアムに10万人の観客を集めて行われました。(と言われますが、英語版のwikiによると、正確にはイギリス約72,000人、アメリカ89,484人だそうです。ほんとに数えたのかな?)

もちろんいちばん幸せだったのは、その会場で生のライブを体感した、約18万人の人々だったと思いますが。

では、前年のロサンゼルス五輪の衛星中継で使った衛星よりも多い、14個の衛星を使って、全世界で140カ国で15億人が見た、とも言われる(英語版のwikiだと、150か国で推定19億人になってるけど、これは他の資料と比べても少し盛ってる気がする)テレビのライブエイド生中継を見て、いちばん幸せだったのは?

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それはフランスの方々だったようなのです。私が見た海外のサイトの情報によると。(ちょっとソースのURL、失念しました。またいつか突き止めます。)

ヨーロッパ全土には、イギリスBBC制作の映像が配信されていましたが、BBCは国営放送ですからCMがない。アメリカや日本のようにCMで中断やカットもなく、ほぼライブがまるごと見えた。

しかしBBCでは、普段放送してる音楽番組のキャスターやDJが、演奏の合間に司会をやったり、アーティストへのインタビュー映像を挟んでいましたが、単なる有名人、コメディアンとかスポーツ選手などとキャスターのトークなんかも折り込んで、そのせいで、うっかり演奏の中継が途中になったりするミスも平気でたくさんやっているのです。せっかくCMが無いのに! 日本のフジテレビ中継より雑で残念な部分もあった。

幸い、フランスではそれも放送せず、ただステージ上からの中継映像だけをもらって、何の説明もなくベタにずっと流していたらしいです。フランスは英語圏文化に理解が薄いからか? 自国の司会者によるトークや、自国アーティストの演奏などを挟むこともなかったと。なのでヨーロッパのファンからは「フランスがいちばん「クリーンフィードな」中継が楽しめていた」と言われてるようです。そもそも国として関心がなかったのかもしれませんが!

ぼくも映像では確認できてないんで、いつかフランスで当時、ライブを全編録画していた方がデジタルでネットにアップしてくれるのを待ちたい〜。ご存知の方はダビングください。海賊DVDでも出たら買いたい。テロップもなく、ステージで延々とセッティングしてる様子なんかも入ってるんだろうなあ。。

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↑ コレは原版制作のイギリスBBCによる、ライブの合間の感じ。
他に検索してたら、当日の打ち上げパーティの動画みたいなのもアガっていたんですが、ほんとにBBCの裏方さんたちぽい人しか写ってなくて、アーティストとかいなかったw

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↑ ドイツ版放送のスタジオ。BBCのトーク部分を生かしてるパートもあるけど、教育番組ふうのセットで真面目な学者みたいな人たちがアフリカの飢餓について討論している。ドイツらしい〜。

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↑ BBキングの中継のとき出てきたオランダ版放送のスタジオ。やっぱ、これくらいが音楽番組らしい、ポップさがあっていいね。

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↑ オーストラリアはいちばん気合入ってて、独自の大きいライブもあり、放送席もトーク用と募金専用スタジオに分けてる。

グローバル・ジュークボックスとは?

主催者のボブ・ゲルドフは最初にライブエイドを思いついたときから、コンサートをやるだけでなく、世界に衛星中継することを考えていたようです。有名なアーティストがヒット曲だけを何曲か演奏したら、すぐ交代する、歌番組のような構成でオールスターを集める、世界じゅうをジュークボックス状態にしよう、という考え。

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そのためにはバンドのセットチェンジ時間を節約するために、ステージを回り舞台にして、終わったら、はい次、と交代するようにして、なおかつ、イギリスが終わったら、すぐ次はアメリカを中継、と交互にアーティストが登場するとか。結局、準備時間がなさすぎて、回り舞台も出来ず、チェンジもあまり上手く行ってなかったですが、まあ、しょうがないよね。スケールが大きすぎました。

この衛星中継の舞台裏などについては、この動画の中でたぶん一番詳しく語られています。youtubeの設定で字幕オン、自動翻訳・日本語にすると理解が深まるよ! 2010年に制作された3時間のドキュメンタリー番組 Live Aid Against All Odds  (part 2/2)はコチラ。

80年代の時代を振り返る構成でもあるので、ライブエイドに関わってないアーティストの曲がBGMに使われたりもしてて変なんだけど、ゲルドフをはじめ多くの重要関係者がインタビューに答えていて、直前までバタバタしてた事情がよくわかる。

他にライブエイド当日の舞台裏がわかるものとして、イギリス制作の2本の再現ドラマがあります。

When Harvey met bob (2010)このリンクはyou tubeではありません。
ライブエイドに至るまでのボブ・ゲルドフを描いた1時間半ドラマ。
あんまり似てない。ちょっと神経質そうなキャラに描かれてる。すぐイライラしてプロモーターのハーヴェイゴールドスミスとずっとケンカしてる様子。
スポンサーやテレビ局との交渉。「アメリカはマイケルやスティーヴィーが出るよ!」と言いながら、裏では「マイケルもスティーヴィーも来てくれないよ!」とイラつく。
ポール・マッカートニーが出てくれるかどうかが大きい問題で、本人に直接交渉に行く。このポールが全然似てないw 最後はボブが燃え尽きた、あしたのジョーのようになってドウゼイまで行かず、レット・イット・ビーで終わる。

Urban Myths : Backstage At Live Aid (2018)
ライブエイドの舞台裏を描いた再現ドラマ? 20分くらい
シャーデーとミッジ・ユーロ(ウルトラヴォックス)役の人は似ているし、物語の中心ぽい。
エルトン(太り過ぎ)、ボウイ、フレディ役の人は似てない。
ゲルドフ役の人はちょっと、たくましい感じ。
やっぱりドウゼイノウまで行かないで、ステージに向かうとこで終わる。

「Urban Myths」というのはイギリスで何年も続いてる再現ドラマシリーズらしくて、有名人やスポーツ選手の伝記ものとか、音楽でもジミヘンやシド・ヴィシャスの再現ドラマとかあるらしい。興味のある方は検索してみてください。

アメリカの80sアイコン美少女!

それではアメリカ版生放送について、まずMTVから。当時はまだ開局して4年目のロック・ポップ専門チャンネル。若者が作る若者のためのステーション、という活気に満ちている。ベテランのアーティストはみんな「伝説のオジサンたち」という扱いです。

このMTVでメインキャスターを務めていたのがマーサ・クインという小柄で華奢な、目のクリクリしたカワイイ女の子。若干23歳くらいでMTVで番組を始め、ライブエイドのときもまだ26歳くらいだけど、しゃべりが達者で声もかわいいし、どんな大物にも物怖じせず、堂々とインタビューしている。小生意気な感じもチャーミングです。

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日本でも憶えてる人は多いと思う。アメリカでもいまだに80年代の象徴のように愛されてるみたい。本業は女優みたいですが、まあまあ今でもテレビには出てるようですが?

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ライブエイドでも、会場の客席内に野外ブースを設けて、最初から最後まで16時間、元気に出ずっぱりで、まったく疲れも見せないハイテンション。アーティストの演奏中も、彼女のノリノリぶりをカメラで抜かれたりしている。途中、休憩のためか別のキャスターが出てくると、見てるこっちもテンション下がる〜。。

ポールの「レットイットビー」2:45くらいの大事なとこで、マーサの顔がずっとアップで抜かれてる萌えポイント! MTVならではの特典。ポールのファンなら激怒だったでしょうね。もちろん公式DVDなどでは見れません。

ただ、MTVでもキャスター同士のおしゃべりで演奏が欠けたりする、雑なスイッチングは多々あって残念。そして何より、ぼくはMTVはケーブルテレビなんだから、CMとか入らないんだろう、と勘違いしてたんですが、見てみたら実はむしろ地上波よりCMも多かった! それでカットされた楽曲も多い。やっぱり日本のフジ中継同様、ずいぶん視聴者に叩かれたりしてたみたいですよ。

長嶋茂雄も世界にデビュー!

これがライブエイドの公式Tシャツ(のレプリカ)のバックプリントですが、一番下にメインスポンサー4社のロゴが入ってます。左から、日本のNTTのような、アメリカ最大の通信会社AT&T、自動車のシボレー、カメラフィルムのコダックペプシコーラ

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まあチャリティイベントなので、収益はすべて寄付。しかし製作費・運営費だけでも莫大なお金がかかるので、ここはスポンサーになっていただく大企業があるのはありがたいですね。アメリカでは、MTVでも、地上波ABCでも、この4社のCMがやっぱりたくさん中継に入ってたんですよ〜。それ以外にも、ほんとに様々な企業のCMが入ってた。時代背景、空気を感じる、という点では面白い、貴重な資料にも思えますが。

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一番メインのAT&Tとか、あえて控えめに、自社の広告でもなく、提供クレジットだけで、あとはアフリカの飢餓を救おう、というテーマの映像が流れるんですが、同じものが何度も繰り返し流れるとさすがに飽きるし、そのために演奏が途切れてしまうのもなんだかな〜。まあCMはセットチェンジとかの合間に流す予定だったんだろうけど、不確定要素の多いバタバタで、タイミングも難しかったろうね。

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さらに募金の案内映像で、サリー・フィールドというアカデミー賞女優さんも出てきますが、これも同じ映像が繰り返し使われる。

そして様々な有名人・文化人からの、地球を救おう、のメッセージ映像。フジの中継でも、バート・ランカスターやカーク・ダグラスなどの俳優や、学者のカール・セーガン、日本代表でソニーの盛田会長や、長嶋茂雄(巨人を辞めてた時期で、アフリカにも取材で行ってたらしい)とかも世界に配信されましたが、アメリカ放送版では、もっと誰だかわからない偉い人の映像がたくさんあった。

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そんな映像が演奏の合間に盛り盛りだったことを考えると、アメリカの人々も、実は日本で中継を見てた人よりも、ちゃんとライブエイドを見れてなかった感じなんですよ〜。。

アメリカABCの2バージョン、ミステリー!

日本のフジテレビ中継を見ていた人も、アーティストの登場前に、アメリカのスタジオから司会者が前フリをやる映像が再三流れてたのを憶えているでしょう。やっぱ地上波ですと、オジサンが司会者ですね。

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しかし、ぼくはその最近ネット上にアガってるアメリカABC地上波中継の映像と、フジで見たはずの司会者が微妙に異なってるのが謎だったんですよ。そして、調べたところ、ABCは「アメリカ国内向け」と「ヨーロッパ以外の全世界中継向け」の2つのバージョンを、JFKスタジアム内に2つのブースを設けて、番組を作ってたらしい。ややこしいですね。

マリリン・マックーさんは、あの「アクエリアス」のヒットで知られるフィフス・ディメンションのメンバーでもあった有名歌手ですが、この日はやはり歌手としての出番はなく、司会者としてABCの中継に登場してました。さらにMTVの取材にも答えています。MTVは地上波側の出演者もみんな、ちゃんと取材してるとこは感心。

「シンジケートとワールドワイド」多くのゲスト・キャスター、特に女性陣が、アメリカ国内放送と、世界向けと2つのブースを行ったり来たりしながら、ときどきステージに立って前説もやったり。大忙しだったみたいですよね〜。。

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ちょっと誰が司会者として画面に登場していたのか、表にしてみましたので、見てみてください。まあワールドワイドのほうは日本の中継だけを見て判断してるので、実際はもう少し出番が多かったかもしれません。

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ローランド・スミスは逸見さん的なニュースキャスター、ジョージ・シーガルは愛川欽也か西田敏行的な役者で司会者、みたいな立ち位置の人みたい。途中シーガルがワールドのほうにも出ていた。プライムタイムのディック・クラークは、内容に限らず、いつもこの時間に司会をやってる人、久米宏か古舘伊知郎みたいな感じかな? 自身でも番組制作会社を経営して、音楽番組も手がける大物。

シンジケートというのがアメリカ国内向けローカル、てことですけど、これが仕組みのよくわからないところで、アメリカの地上波は基本、ローカル局の編成は自由になってるようで、ほんとに全米に同時に同じ番組が流れるのはプライムタイム、夜8時から11時だけらしい。ですのでライブエイド中継も地上波は、朝から夕方までは全米の3分2くらいのABC系列局で、バラバラな時間帯でやってたみたい。しかも夜6時から8時はニュースとかの時間で、生中継は止まってた。

その間は地上波しか見てない人は見れてないんですよ。大事なアーティストがたくさん出てたのに。しかし、ザ・フーやデヴィッド・ボウイやエルトン・ジョンやマドンナなんかは、録画ダイジェストになっても、生中継より、8時以降のプライムタイムに映ることのほうが宣伝的には重要と、アーティストのマネージャー側は考えていたとか。

それらも踏まえて、前回も紹介しましたが、イギリスBBC、アメリカABCとMTV、日本のフジテレビを並べて、ぼくの作ったライブエイド・タイムテーブルを見ていただくと、誰が何時にどこに映ってたのか、アメリカ用のCMを入れないABCワールドワイド版を基本にしたフジの放送(日本は1時間ディレイでしたが)が、英米のアーティストをバランスよく放送できてた、と理解できます! ↓

ライブエイド・タイムライン

電波の状態が悪くて中継が途切れてしまうのも、日本の衛星のせいだと思ってた方もいるでしょうが、並べて見ると、だいたい世界で同じとこで途切れている。あれもフジのせいではないんですよ〜。英米の人も困ってた、のもよくわかる。よっぽどヒマな方はご覧になってください!

南こうせつの名誉は、ぼくが守る!

ライブエイド、始まる前のイギリス側ステージの最大の話題は「ビートルズ再結成が実現するかも」というもので、当初からトリはポール・マッカートニーという話は当然として語られてましたが「ジョンの息子、ジュリアン・レノンが参加して、一緒にビートルズナンバーをやるかも」「リンゴやジョージも来るんじゃないか?」という噂も、雑誌やスポーツ新聞に載ったりするようになった。

しかし、ジュリアンは当時ソロデビューしたばかりでヒット曲はあったので、出てもおかしくないけど、親の七光りはやだ、みたいな話もインタビューで語ってたし、やんないだろうな〜。と、みんな思ってました。ジョンが亡くなって、まだ5年しか経ってない時期だし。ジョージやリンゴだって、このタイミングで再結成は難しいだろう、というのがロックファン大方の見方だったと思うんですが。

しかし当日のフジテレビ生中継でメイン司会を、フジテレビアナウンサーの中でも最大のスターだった逸見政孝さんと共に務められた、フォークの大御所で洋楽にも一番強いと言われた南こうせつさんは、番組の冒頭から、しきりに「今日はついにビートルズが再結成するらしいですよね!」とニコニコ顔で語られるのだった。

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番組中、何度も何度も「いや〜ほんとにビートルズ出るんですかね?」「楽しみだな〜、ジョージもリンゴも来るんだよね」と言ってたんですが、やっぱり、ポールはソロで出演して「レット・イット・ビー」を歌った。まあ、こうせつさんは少しガッカリ顔だったけど「まだアメリカのライブも続くし」と切り替えていた。

これに関しては当時の視聴者から「あんなにビートルズ出るつってたのに、こうせつを信用してダマされた!」とか「再結成あるわけないのに、こうせつが一人で早トチリして、はしゃいじゃって。バカみたい」みたいな、ひどい叩かれ方をしてしまっていた!

その印象がいまだに残ってる感じで、当時の感想を語る人はほとんど「あの南こうせつはないよね」みたいな言い方されるんですが。でも、こうしてアメリカでの当時の放送を全部見た、ぼくにはわかる! こうせつは悪くない!

アメリカABC放送でも、番組冒頭から「今日はロンドンにジュリアン・レノンも来てるようですね!」MTVでも「リンゴ・スターとジョージ・ハリスンがウェンブリーに向かってるようです。ビートルズ・リユニオンが実現しますよ」と、あいまいな情報をキャスターたちが語っているんじゃよ。やはり番組中何度も。本国のBBCでは言ってないのに。しかしアメリカの情報が入ってたフジのスタジオで、こうせつさんがそれを信じてしまうのは当たり前だと思う! 信じたほうがうれしい情報でもあるしね。

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アメリカのステージに、ブルース・スプリングスティーン、スティーヴィー・ワンダー、マイケル・ジャクソン、ダイアナ・ロスなど、結局来なかった人たちが「来るようですよ」「出るかもしれません」と、こうせつさんや逸見さんが言ってたのも、日本のフジテレビが勝手に「釣り」でコメントしてたワケでなく、アメリカ側のテレビで先に言ってたんですよ。みんな確定した情報もなくバタバタした状況で。

だから、そのへんも日本側中継の「洋楽わかってない人たちの、適当な進行にダマされてた」とか思わないでほしい! やっぱ欧米より日本のテレビマンは誠実じゃないのかな。こうせつさんも、あの日の司会を黒歴史とか思わないで、もっと誇らしく思い出していただきたいと思います!

そして次回は! ついに、その「誰が出なかった」問題に

突っ込んでいきたいと思います! 諸説ありすぎて本人のインタビューを読んでも信用できないような、来るつっといて来なかった人、オファーを受けても断った人、出たかったのに出れなかった人。一番面白い説をなるべく採用する判断で行きたいと思う。お楽しみに!

2021年4月13日 かとうけんそう

■ ぼくより詳しい方がいらっしゃったら、間違いの訂正、情報提供、あらたな補足ください! いつでもフィードバックして、また文章を修正・追記します!


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