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狂言『二人袴』島田洋海社中

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狂言大蔵流 茂山千五郎家 島田洋海社中でお稽古し、2022年5月に披露した 狂言『二人袴』を私見にてご案内してござる
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狂言『二人袴』の七 

和ろうてござるか~ ようやく二人袴も最終回となってござる これまでのお話はこちらにまとめてござる 願わくば「狂言『二人袴』は聟入りのお話、さて室町時代の聟入りとは」 より読うでもらえればさいわいでござる 前後に裂けた袴をそれぞれ前に当てて舅の元へ出た兄弟 めでたく盃事も済んだところ 酒が入って陽気になった弟(聟)は舅に喜ばせる報告があると申す 次は舅から聟に舞をひとさし舞うてほしいと云われ焦る兄弟でござる 舞いは正面向きだけではできませぬ、どうしても袴の後ろがないと知れ

狂言『二人袴』の六 ようやく三人対面でござる

和ろうてござるか~ これまでのお話は狂言『二人袴』としてまとめてござるによって そちらをご覧くだされますよう願いまする 聟(弟)と兄の入れ替わりも三度をすぎるとそろそろ次の展開でござる 舅から二人一緒に出ないと盃事(聟入りの儀式)ができぬによって 二人一緒に出るよう云われた二人は・・・ 袴が一つしかないため、弟も兄も自分が履くと云って引き合いまするところへ、舅に云われ太郎冠者が急かしにやってきて 「早う出させられいと申しまする!」 の声に驚く兄弟は互いに袴を自身の方へ強

狂言『二人袴』の五 兄弟行ったり来たりでござる

和ろうてござるか〜 狂言『二人袴』の紹介が途中でござった 最初は狂言の聟入りのお話から、名乗りまで 続いて兄が弟をなだめすかして聟入りへ向かわせるところ 三話目ではようやく弟を連れて舅の家へとやってきていざ対面へ、でござる そして前回四話目では聟が舅と対面するも束の間 兄が来ていることが知られて呼びに行くことになってござる 兄ではないと云うように弟に言い含めたはずでござったが 太郎冠者が知っていたと知り出ずにはおかれぬ、と諦めた兄 弟一人で挨拶させるつもりだったため自身

狂言『二人袴』の四 ようやく聟は舅と対面でござる

和ろうてござるか〜新婚の弟を連れてその弟の妻の父親、すなわち 舅さまの邸宅へ この兄と弟は色違いの段熨斗目と申す着物を着付け 正装に履く袴は弟の分のみ携えてまいりまする さて舅宅へ着き弟に袴を履くように言い付け 兄は案内を乞うて弟の元へ戻りまする 袴を着けるのも一苦労でござる 弟はこの間に袴を着けようとはするものの 普段は履かない長い袴に驚き、腕を通したり体に巻きつけたりと 履き方が分からぬ様子 戻って来た兄に「履かいておくりゃれ」と投げ出し 「ムサとしたことを…」と

狂言のことばは知らずとも分かるモノが多ござる『二人袴』の三

和ろうてござるか〜弁慶の人形やエノコロ(イヌ) 饅頭を買う約束を取り付けた上にも 奥さんの実家へ兄に付いて来てくれと云う聟 一人で行けと云いつも、ごねる弟に押し切られ 仕方なしにも付いて行くことにした兄は まあまあ弟に甘いお兄ちゃんでござる 大事な袴を弟の腰に結わえて道行でござる ここで弟を先導しながら兄 「聟入り、と申すものはツ〜ッと晴れいなモノで  垣からも、窓からも、ただ目ばかりじゃによって随分、臆せぬようにさしめ」 すなわち 聟入りと云うものは晴れがましいモノだ

狂言『二人袴』の弐 兄は弟の婿入り支度に手を焼いてござる

和ろうてござるか〜今の世とは異なる聟入りのお話はすでにしてござるが 要するに自分の妻の父親(舅)に挨拶に行く儀式のことでござる ただ一人で行く場合もござるが この二人袴では、付き添いが要るのでござる 演者の歳格好に合わせて 聟が息子、付き添いが父親であったり 聟が弟、付き添いが兄であったりしまする 思えばわたくしは親子の二人袴は観たことがないようでござる さて舅が名乗り、太郎冠者に用を言い付けて本舞台の後ろ方へ座したならば いったん場面転換でござる 聟と兄の家に舞台

狂言『二人袴』は聟入りのお話、さて室町時代の聟入りとは

和ろうてござるか〜わたくしは十八年前の二〇〇四年に結婚いたいてござる 結婚の前にはお妻様の御両親に挨拶に伺うてござるが 狂言の中では結婚した男は、結婚した後、日を改めて 妻の父親の元へ挨拶に向かうようでござる すなわち義理の親の顔もまたお家の様子も知らず 新婚生活を始めているようにござる 聟入りとは妻の家に養子になることにあらず つまとなる娘の親から見た夫を婿(むこ)と申すが現世の通例でござるが 狂言では‘聟’という字を遣うてムコでござる また聟に入るとは、妻の家に婿