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新たな3D血管モデルの開発

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けむ論文紹介(スペース)42

タイトル
Adaptable haemodynamic endothelial cells for organogenesis and tumorigenesis
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2712-z

【感想】

 これまでの血管モデルは人工的(半透膜など)であるが故に、共培養する組織との相互作用やそれによる変化もない。これは血管の生理的な役割を調べるのにとても都合が悪い。今回の新たな血管モデリングは、血管内皮細胞をリセットすることで、自己適応的に3D血管新生するため、より生体血管を模倣している可能性があり、オルガノイドとの相互作用能も有するのでこれまでとは一線を画す有用な血管モデリングといえる。

ETV2は成熟血管内皮細胞での発現が低下する因子であるということで、レンチウイルスで入れてETV2を発現導入しても4週後の血管内皮細胞安定化期においては本来と同じようにETV2の発現レベルは低下していく。Overexpressionの実験系に不安を感じていたが、In vitro細胞においても綺麗に発現制御が上手くものだなと感心した。またSupplemental Videoは血管内皮細胞の血管新生や組織相互作用のダイナミックさに感銘を受けたので是非見てほしい。ETV2によってリセットされたR-VECsがオルガノイドにダイナミックに接触し血管を形成する様子はとても美しかった。

【概要】

 血管内皮細胞(ECs)は組織ホメオスタシスに必要であり、血管新生因子を提供する細胞として知られている。ECsは組織ごとに異なる特性に適応する必要があり、これら適応不全は組織の線維化やガン化に寄与する。しかし、ECsが組織ごとのヘテロ性、傷害組織や腫瘍組織にどのように適応性獲得しているのかについてのメカニズムは未だ分かっていない。
 ECsとその他の細胞との相互作用を研究するために多くのCultureモデルが使用されてきた。足場Culture、組織チップ(organ-on-chip)、3Dバイオブリンティング、腫瘍オルガノイドなどである。organ-on-chipで用いられている人工的な反透過性生体マテリアルや低ボリュームマイクロ流路装置は生体構造とは当然異なるために制約もあり、血管内皮細胞は細胞の自由度を持たず、組織実質やガン細胞と直接的に相互作用することはない。また、Matrigel(基底膜マトリックスは、ラミニン(主成分)、IV型コラーゲン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン/ニドゲンおよび数々の成長因子を含む)のような非生体分子の使用は臨床との乖離を生み出す。このような問題から、環境に適応した血管を生み出し、拡散力をもつECsとなるためのCulture実験系が必要と考え、ヒトECsの遺伝子的なリセット技術を開発した。これらの実験系はECsの血管多様性を明らかにし、治療における組織再生メカニズムを明らかにする上で重要である。
 ETV2は血管新生期にECsで発現している因子であるが、血管新生初期の段階で失われていく。成熟したECs(VECs)においてETV2を再活性化させることで、胎児期用の血管内皮細胞にリセットすることができることを発見した。これらReset-VECs(R-VECs)は、組織に自己適応し、ヒト血液を輸送能を有し、脱分化組織内(通常オルガノイドや腫瘍オルガノイド)に分岐血管を張り巡らすことができる。R-VECsはこうした3D血管ネットワークを構築できるという。R-VECsは生体内に投与しても血管構造を数か月(5か月まで検討)保っており、in vivoでの血管構造変化を研究する上でも重要な実験系になる可能性を秘めている。

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