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ガン細胞転移におけるクラスター内シグナル機構の発見と重要性

タイトルは、
『Regulation of Collective Metastasis by Nanolumenal Signaling』
Nanolumenal Signalingによる凝集性ガン細胞転移の制御

https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(20)31087-4

【感想】
面白いと感じた点
・ガン細胞クラスター形成は物理的な外部からの隔離空間“nanolumina—intercellular compartments”を内側に生み出し、そこでは“Nanolumenal Signaling”、具体的に今回はEpigen-Egfrの増殖シグナルが駆動しているということを発見した

・クラスター形成ではボール状(nest like)なものが特に“Nanolumenal Signaling”を持っており、この構造体はガン細胞種で異なるがEpigen発現と相関していた

原発巣から流出したガン細胞がクラスター形成したものだと“Nanolumenal Signaling”を有するので、転移しやすいという理解で間違ってはいないのかな。血行性転移の検討のみだったので、転移経路によっては必ずしもボール状が転移しやすいとも限らないのかもしれない。
転移研究はとても複雑で読むのが難しかった。

疑問点
・Epigenのノックダウン時にAdhesion geneとMatrix metalloproteinaseが発現増大していたが、Epigen自体はクラスター形成に関与しているのだろうか。もし関与しているのであれば、“Nanolumenal Signaling”はクラスター形成時に生み出され、さらにクラスター形成を加速させるようなアクセラレーションの機構を有しているということだろうか。

・実験的にはガン種によって転移のしやすさなどがあるようだが、クラスター形成のしやすさと転移しやすさの因果があるのだろうか。


【Introduction】
Nanolumenal Signalingとは何か?という疑問、治療において問題視されているガン転移の機構に関わる論文なので紹介させていただく。転移機構にも様々あるみたいだが、今回はガン細胞クラスターの転移に着目しているようだ。ガン組織から放出されたガン細胞クラスターは血中などにのって全身を巡り、遠くの器官でコロニー化する。これらの転移機構はシングルセル転移に比べてあまり分かっていない。
 クラスター形成によって、ガン細胞は様々な変化と利益を得る。幹細胞様の変化、NK細胞からの免疫逃避、放射線への抵抗性、代謝ストレスへの抵抗性などである。多くの研究でクラスター形成の阻害、つまり細胞間接着因子の抑制によってガン転移が減少することが示されているようだ。しかしこのクラスター内の下流シグナルとしてどのようなシグナルメカニズムが引き起こされているかについてはほとんど明らかにされていない。


【Abstract】
 Collectiveガン細胞転移は、凝集性をもった転移で複数のガン細胞がクラスターを形成した転移と定義されている。様々な細胞接着遺伝子の崩壊によってクラスター形成とコロニー化効率は激減するが、そのクラスター化によって引き起こされる下流シグナルメカニズムは未だにほとんど分かっていない。マウスとヒトの乳がんモデルを用いて、転移コロニー化を支えているガン細胞クラスター化は“collective signal”を産み出していることを発見した。ガン細胞クラスター内ではEpigenが産生され、それは“nanolumina—intercellular compartments”内で濃縮されていた。“nanolumina—intercellular compartments”は、細胞間接着によってシールド・隔離され、microvilli様突起に整列した構造体である。
Epigenのノックダウンによって転移outgrowthが強く抑制され、クラスターを増殖状態からcollective転移状態へとスイッチさせた。Basal-like 2 Triple-Negative Breast Cancerのセルラインから離れたガン細胞クラスター内“nanolumina—intercellular compartments”ではEpigenの発現が増大し、nanoluminaのシールド機構が形成され、そしてnanolumenal接着崩壊次第では成長阻害が引き起こされた。一方で、mesenchymal-like, triple-negative breast cancer cell linesではnanoluminaのシールド機構の崩壊とともに、Epigenの増大などは観察されなかった。
これらの結果から、“nanolumina—intercellular compartments”はクラスター内で増殖因子Epigenなどがクラスター外に流出することを防ぎ、それら構造体内でのシグナル伝達“nanolumenal signaling”を治療ターゲットにすることで、悪性乳がん転移への新たな治療戦略を生み出せる可能性がある。

【結果】
Figure1
Single-cellに比べてクラスター化ガン細胞がより肺に定着した。
クラスタリング時に発現上昇する遺伝子を網羅解析し、それらのノックダウンは肺への定着を抑制した。中でもEpgenが劇的に効いた。
方法)ガン種;MMTV-PyMT tumor organoids由来(乳がん)
Nod scid gamma (NSG) immunocompromised mice へのTail vein assay

Figure2
Epigenのノックダウンによって変化する遺伝子を網羅解析した。
その結果、migrationに関わる遺伝子群(Adhesion, epithelial-mesenchymal transition (EMT), Matrix metalloproteinase)が増大しており、3D cultureでmigration distanceが大きくなった。一方で、増殖能はEpigenのノックダウンにより低下した。
方法)ガン種;MMTV-PyMT tumor organoids由来(乳がん)、3D culture

Figure3
免疫染色によりEpigenはcell-cell間に存在している可能性が示唆された。
さらにEpigenのノックダウンガン細胞と通常ガン細胞の接合体(mosaic cluster)により、
Outgrowth能がレスキューされていた。
方法)ガン種;MMTV-PyMT tumor organoids由来(乳がん)

Figure4
TEMによりEpigenはクラスター内“nanolumina—intercellular compartments”に存在することが示された。
方法)transmission electron microscopy (TEM)

Figure5
strand-like/protrusive
nest-like/non-protrusive
転移した様々な組織でのEpigenの発現を確認し、nest-like/non-protrusive
タイプのガン組織において高いEpigenの発現がみとめられた。
Stroma: がんの微小環境を構成する浸潤マクロファージ
Biotin処置ではガン周囲のstromaにその発現が認められたが、ガン細胞クラスター内には認められなかった。strand-like/protrusiveタイプのクラスターがよりBiotinのガン細胞クラスター内への浸潤を許した。
これらの結果から、nest-like/non-protrusiveタイプのクラスターが“nanolumina—intercellular compartments”をより強固に隔離している可能性が示された。

Figure6
乳がん患者のCTCクラスター診断とMalignant ascites?
Malignant ascitesとガンの関係が分からなかったが、TEMによってヒトのガン細胞クラスターにおいても“nanolumina—intercellular compartments”とEpigenが確認された。

トリプルネガティブ乳がんのうちbasal-like 2のグループとEpigenの発現に相関がみられた一方で、mesenchymallike (M-like)のグループではEpigenの発現レベルは低かった。
three BL2, epigen-high cell lines (HCC70, CAL851, and HDQP1)と
three M-like, epigen-low cell lines (MDA-MB231, MDA-MB-436, and BT549)の間で
形態的な違いをTEMで調べると、three BL2, epigen-high cell linesで“nanolumina—intercellular compartments”の構造体がみられた。

Figure7
BL2においてEpigenをノックダウンすると、転移が起こりにくくなった。
IFNgへの暴露は“nanolumina—intercellular compartments”を破壊し、転移を抑制した。

【学習】
遺伝子導入ポリオーマ中型T抗原腫瘍性タンパク質(PyMT)
PyMT発現はMMTVプロモータあるいはエンハンサーによって乳腺に限局
MMTV-PyMT
Stroma: がんの微小環境を構成する浸潤マクロファージ
CTC cluster診断システム:がん細胞集塊 (クラスター CTC)
循環がん細胞(CTC)
malignant ascites 腹水
トリプルネガティブ乳がんのタイプ;
basal-like 1 (BL1), basal-like 2 (BL2), mesenchymal-like (M-like), and luminal androgen receptor (LAR)

【テクニカル】
sulfo-NHS-biotinを用いた nanolumen permeable assay

ヒト乳がん患者由来のガン細胞クラスターの利用
Tumor cell clusters were collected from a breast cancer patient recruited to an institutional review board (IRB)-approved study at Fred Hutchinson Cancer Research Center

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