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膵臓ガンは末梢神経由来のセリンを利用して生き延びる

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けむ論文紹介(スペース)44

タイトル
Neurons Release Serine to Support mRNA Translation in Pancreatic Cancer

https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(20)31322-2

【感想】

 ガン細胞のエネルギー代謝と適応獲得はすごいと感じる論文だった。PDACは低栄養環境で生き延びるために、腫瘍内微小環境のストローマ(線維芽細胞やマクロファージ)から放出される代謝物を取り込んでエネルギーする術を身につけていることがこれまで知られていた。今回は、ストローマではなく末梢感覚神経からのセリン(必須アミノ酸)を利用する機構のようだ。驚くべきは、セリンの感知システムだ。ガン細胞周囲のセリン不足を感知するために、セリン不足によって生じる翻訳バイアスを利用している。翻訳バイアスはセリンをコードする6つのコドンのうち2つ(TCCとTCT)がセリン不足によって翻訳が滞ってしまうことで生じるらしい。これによって、NGF産生能を高め、末梢神経の伸長を促すことで、腫瘍組織内に神経軸索をガイダンスし、そこで放出されたセリンをエサにする。まるで、ガン細胞がセリンをよこせと言わんばかりに末梢神経を誘っているというわけだ。ガン細胞恐るべし適応能力だ。

【概要】

PDACは低栄養環境、繊維形成性、高い神経支配を持つという腫瘍微小環境にある。神経細胞はPDACのガン形成を促進するような神経成長因子などを放出しうるが、末梢神経軸索から放出されるもので、エネルギー代謝に関わるようなアミノ酸などの寄与については報告されていない。PDACはセリン・グリシン不足になった際に、末梢神経軸索からのセリンをエネルギーにし、細胞外セリン依存的なPDACは成長する。セリン不足時には、6つのセリンコーディングコドンのうち2つ(TCCとTCT)の転移RNA不足となり、翻訳が滞ってしまう。これはセリン不足を感知するためのセンサー機構で、これによって引き起こされる翻訳バイアスはPDACのNGF産生・放出を高める。続いて放出されたNGFは末梢感覚に作用することで軸索伸長を腫瘍内にガイダンスし、そこで放出されるセリンをエネルギー源にして細胞外セリン不足を乗り越えようとする。これと一致して、マウスの食事からセリンとグリシンを取り除くと、細胞外セリン依存的なPDACは成長を遅くなりPDAC腫瘍組織への神経伸長が高まった。またTrk阻害剤、LOXO-101の用いることで、神経伸長を抑制するとPDACの成長は弱まった。これら神経―ガン細胞間の代謝的相互作用は低栄養環境におけるPDACの成長を手助けするためのガン細胞適応反応と考えられる。

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