見出し画像

ガン細胞老化による血管リモデリングは膵臓ガン化学療法を助ける

【感想】

腫瘍組織内の血管リモデリングは奥深い。TGF-βシグナル抑制による血管リモデリングと今回の化学療法による老化誘導の血管リモデリングは別物と考えられる。血管リモデリングにも多くの形が存在するようなので、血管形成メカニズムの多様性は重要な研究領域になっていくと感じた。
今回の研究の懸念は、老化誘導血管リモデリングという現象がガン細胞の血管内逃避機構を誘導しているのではないかということ。この場合、転移が亢進してしまうなどの問題はないのだろうか?
化学療法やTGF-βシグナル阻害など、広範な血管リモデリングの多様性・多機能性についての研究があると説得力が増して面白い気がする。

本論文ではガン種について二種用いた

①膵臓ガン自然発症マウス; KPCflox GEMM
②膵臓へのPDACオルガノイド移植モデルマウス; KPCmut organoid transplant models

トラメチニブとパルボシクリブの併用処置(T/P)はPDACにおいて血管リモデリングを誘導する

T/P処置後の腫瘍組織免疫染色から血管内皮細胞・ぺリサイトの増加と血管透過性の向上が示された。

CD31:血管内皮細胞
PDGFRβ:ぺリサイトマーカー
VCAM-1:血管内皮細胞活性化マーカー

T/P処置はガン細胞で老化関連放出フェノタイプsenescence-associated secretory phenotype (SASP) を誘導し血管透過性を高める

・In vitroのT/P-処置 KPCmut PDACでのcytokine arrayからSASPに関連するサイトカイン(NF-kB関連因子)の上昇がみられる。
⇒T/P処置はSASP誘導しているかも

・In vivoにおいてp65ノックダウン(shRNA)により血管内皮細胞の増殖が抑制される。
⇒SASP誘導が血管内皮細胞の増殖に重要
p65: NF-kB炎症パスウェイに関与する因子で老化に関与

・VEGFR-2を抗体(antibody DC101)で除去すると血管リモデリングが阻害された。
VEGFはSASP因子の一つで、血管リモデリングに関与する因子。

T/P処置によって腫瘍組織内へのゲムシタビン取り込み量が増えて、生存確率が向上した

・ゲムシタビン(C14放射標識体)を追跡。T/P処置により腫瘍組織内にゲムシタビンが効率的に入り込む。これはp65-shRNAにより抑制された。

・T/P処置により、ゲムシタビンによる抗腫瘍効果が高まり、生存確率も向上した。

T/P老化誘導はT細胞の活性化とExhaustionを招く

CD4及びCD8陽性T細胞を抗体除去してもT/P処置による生存確率向上は変化させなかった。
①T細胞においてPD-1, 2B4, CTLA-4発現率が高まった:Flow cytometry=”Exhaustion”
②ガン細胞や血管内皮細胞、CD45陽性細胞でPD-L1発現率が高まった:Flow cytometry

T/P老化誘導と免除チェックポイント阻害により抗腫瘍効果が高まる

T/Pと免除チェックポイント阻害(PD-1抗体:RMP1-14)処置を
二週間に渡って併用投与した。
免除チェックポイント阻害単独投与に比べて抗腫瘍効果が高まり
生存確率においても改善が認められた。

おまけ
T/P処置によるMHC-1の発現上昇

T/PのMEK阻害やCDK4/6阻害はMHC-1の抗原提示能を上昇させることが知られているようで、それでCD8陽性T細胞が活性化しているのかもしれない。
そこで、T/P 処置KPCmut PDAC細胞にOVA抗原を発現させて、OT-1 T細胞と共培養したところT細胞の活性化が高まった(INFγやTNFα発現T細胞)
⇒T/PによってMHC-1の発現が高まったこと、それによりT細胞活性化を導くことが示唆された

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?