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痒みを抑制する一次求心性神経集団: VGLUT3-lineage

https://www.jneurosci.org/content/early/2020/09/03/JNEUROSCI.0091-20.2020.long

タイトルは、
VGLUT3-低閾値機械性感覚神経を介した、触刺激による痒みの脊髄抑制

【背景】
非侵害性の機械刺激(こする刺激など)は低閾値機械受容器(LTMRs)の活性化させ、痒み感覚の抑制を引き起こすとされているが、この抑制機構についての神経回路メカニズムについてはこれまで分かっていなかった。著者らはこれまでにも数多くin vivoにおける脊髄後角神経のsingle-unit recording研究を行っており、Scratchingを介した脊髄後角での神経活動抑制などについて研究されている。

Single-unit recordingを用いて、ヒスタミン非依存的な起痒物質であるクロロキン投与によって活性化が引き起こされる神経細胞に対して、Cotton刺激やブラシ刺激(非侵害性刺激:LTMRs)、カプサイシン投与(侵害性刺激: C線維)した際の神経応答性を観察した。クロロキン投与後においてはCotton刺激中やブラシ刺激中に神経活動が増大し、刺激を辞めた途端に活動がbaselineまでおさまっていた。興味深いことに、ブラシの中でも太いもの(Thick)ではbaselineよりも神経活動がおさまっていたように見える。
※これは、Thickブラシが侵害性刺激を含んだ結果なのだろうか?それとも異なる要因が絡んでいるのか?(引っ掻き刺激に少し近い刺激ということだろうか)。

ヒスタミン非依存的な起痒物質による興奮伝達が、Cotton、ブラシ刺激後に抑制される現象、“脊髄神経抑制”が観察された。
この“脊髄神経抑制”に重要な役割を果たしている一次求心性神経集団はなんだろうか?

・QX314+flagellinによるAβ-LTMR fibers神経の活動抑制
QX314+flagellinの共投与は、Aβ-LTMR fibers神経(TLR5発現神経)の活動電位抑制により触刺激の伝達を抑制する実験系として知られている(Zhen-Zhong Xu et al, Nat Med, 2015)。
QX314+flagellin共投与によって、Cotton刺激やブラシ刺激による神経興奮は抑えられることを確認されたが、ブラシ(Thick)刺激後にみられる“脊髄神経抑制”は観察されたため、Aβ-LTMR fibers神経の関与は低いように思える。

・VGLUT3-lineage感覚神経の抑制制御(ハロロドプシンを導入)
ブラシ(Thick)刺激後にみられるbaselineよりも神経活動がおさまる現象、“脊髄神経抑制”がVGLUT3-lineage感覚神経の抑制制御に消失した。VGLUT3-lineage感覚神経がブラシ(Thick)により刺激された結果、脊髄神経抑制が起こっていることを示唆
※もともとブラシ(Thick)刺激後の抑制幅を観るのが大変そうな実験なので、実験的に捉えるのが難しいそう。

・VGLUT3-lineage感覚神経の興奮制御(チャネルロドプシンを導入)
触刺激の伝達に重要とされているVGLUT3-lineage感覚神経に着目し、この神経集団がCotton、ブラシ刺激後にみられる脊髄神経活動抑制に関与するかを検討した。
オプトジェネティクスの中の興奮制御ツールであるチャネルロドプシンをVGLUT3に発現させた動物を用いてVGLUT3-lineage感覚神経の興奮操作を試みた。
光刺激によるVGLUT3-lineage感覚神経の興奮は、Cotton、ブラシ刺激を模倣し、クロロキン応答神経細胞の興奮を引き起こし、“脊髄神経抑制”を模倣できることを確認した。
重要なこととして、クロロキン投与後にみられる引っ掻き行動はこれらVGLUT3-lineage感覚神経の興奮により、抑制された。このことはVGLUT3-lineage感覚神経が痒み感覚に対して抑制的な回路を形成していることを示唆している。
※動物行動として捉えられていることが意義深い

加えて、近年着目されている痒みの脊髄抑制回路、KORとNPY1RについてどちらのVGLUT3経路がどちらを辿るかを検討し、KOR経路と結論づけている。

【まとめ】
痒みの脊髄抑制回路を伝達してくるものとして、一次求心性神経のVGLUT3-lineage神経集団を見出した。

【感想】
記録している細胞群は抑制性の介在神経集団であることが推測されるが、これらの神経サブセットについて今後が楽しみ。
Aβ-LTMR fibersが関与する可能性が低いこととVGLUT3-lineage神経のすみ分け。
刺激の種類で、Cotton、ブラシ(Thin)、ブラシ(Thick)の中でもThickにおいてのみの現象だったので、これらのメカニズムについて楽しみ。ブラシ(Thick)選択性の高い集団などがいるのか?それが今回のVGLUT3-lineage神経なのだろうか?

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