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グルココルチコイドシグナルは、ガン細胞へのCD8陽性T細胞の攻撃性を弱める

タイトルは、
内因性グルココルチコイドシグナルはガン組織微小環境におけるCD8+T細胞の分化・発達を抑制している
『Endogenous Glucocorticoid Signaling Regulates CD8+ T Cell Differentiation and Development of Dysfunction in the Tumor Microenvironment』

https://www.cell.com/immunity/fulltext/S1074-7613(20)30358-7

【感想】
がん組織の微小環境の研究はとても面白いと思う。以前 “ガン細胞オートファジー機構によるMHC-1分解が免疫逃避に関わる“という論文紹介をしたが、
その際に、Twitterのコメントで膵臓ガン組織微小環境における線維芽細胞(Cancer associated fibroblasts; CAFs)は、ガン細胞によってオートファジーが促進され、分解によって生じたアラニンをエネルギーとしてガン細胞に与えているという論文を紹介していただいた。このようなことを考えていると、ガン細胞は周囲微小環境を変化させることで、自身が生存していきやすい環境を作り上げている(あるいはそのように変異したガン細胞が生き残って増殖していく)のかなと考えさせられる。

今回はそんなガン組織微小環境内でのグルココルチコイドシグナル(GS)に関する発見で、ガン組織内に浸潤してくる CD8陽性T細胞へのGS反対が遺伝子発現を変化させ、ガン細胞が攻撃されにくいようなT細胞時変調させていることを報告した論文だ。このようなガン細胞がエフェクターT細胞に攻撃されるのを防ぐシステムが存在すること治療を考える上では重要だ。

実験の中で免疫チェックポイント阻害薬とグルココルチコイドシグナル抑制の実験がされており、免疫チェックポイント阻害薬との併用により強い抗腫瘍効果を達成している。ガン細胞の論文紹介していく中で思ったのだが、免疫チェックポイント阻害薬との併用でどのように変化するのか、免疫チェックポイント阻害薬とメカニズム的な関わりはどうなのかというのが今の研究トレンドの一つなのだろうか。

ガン細胞は自身の生存のために、マクロファージに何かしらのシグナルを送ることでグルココルチコイドシグナルを亢進させているのだろうか。今後マクロファージのグルココルチコイドシグナルが本来もつ意義やその駆動メカニズムが明らかになることで、がん組織微小環境におけるグルココルチコイドシグナルを標的とした治療薬が期待できるかもしれない。

【Abstract】
 ガン組織微小環境におけるCD8陽性T細胞フェノタイプ変化を知ることはガン細胞を治療する上で重要な知見をもたらす。まずガン組織内に浸潤してくるナイーブCD8陽性T細胞はガン細胞傷害性エフェクターT細胞へと分化していくが、このエフェクターT細胞はガン細胞への傷害性が低い状態で分化してしまう。そのシグナルメカニズムとしてグルココルチコイドシグナルを同定した。ここでグルココルチコイド受容体をCD8陽性T細胞でノックアウトすることで、攻撃性を有した機能的なCD8T細胞への分化が誘導された。またエフェクターT細胞への分化を抑制することで知られているTCF-1という分子はGR-cKOにより発現が抑制されておりエフェクター分化能の改善が示された。GRシグナルが引き起こす転写活性制御とCD8陽性T細胞での遺伝子プロファイル変化が一致していた。
グルココルチコイドシグナルのソースとなるグルココルチコイドは単球マクロファージの可能性が遺伝子欠損マウスおよび薬理学的な手法により示された。免疫チェックポイント阻害薬とグルココルチコイドシグナル抑制の併用が免疫チェックポイント阻害薬単独に比べて強い抗腫瘍効果を示した。
以上より、内因的な(単球マクロファージ由来)グルココルチコイドがガン組織浸潤CD8陽性T細胞の分化を抑制し、傷害性の低いT細胞へと変化させていることが示唆された。

【結果】
Figure1
まず、ガン細胞(MC38-Ovadim colon carcinomaとB16F10 melanoma)において、未分化CD8陽性T細胞が分化誘導されていくにつれて、グルココルチコイド受容体(GR)の発現が濃度勾配的に増大していくことを見出した。

Figure2
グルココルチコイドシグナルは、エフェクターT細胞分化時に免疫チェックポイント機構への感受性が高め、傷害性の弱い遺伝子プロファイルをもったT細胞を生み出す。

・naıve CD8+はGlucocorticoid(GC)存在化でanti-CD3/28により刺激されると、炎症サイトカインIL-2, TNFa, IFNg陽性CD8陽性T細胞の誘導が抑制され、免疫抑制サイトカインIL-10陽性CD8陽性T細胞が誘導されていた。
・免疫チェックポイント機構については、Tim3とPD1、Lag3陽性CD8陽性T細胞の誘導が促進され、TIGIT陽性T細胞が抑制(どういう意味か不明)
・ヒトCD8陽性T細胞でも同様の結果が得られた
・mineralocorticoid receptor (MR)をT細胞でcKO (E8i-Cre+ Nr3c1fl/fl mice)すると、これらのGC誘導の遺伝子変化が誘導されない。

Figure3
In vivoでfig2の現象がおこるのかを検討
E8i-Cre+ Nr3c1fl/fl mice;T細胞選択的なGRノックアウトマウスを使用

・E8i-Cre+ Nr3c1fl/fl miceでは、MC38-Ovadim及びB16F10 melanoma移植後のガン細胞の成長が抑制された
・fig2でみられたようなCD8陽性T細胞での遺伝子発現変化は、E8i-Cre+ Nr3c1fl/fl miceでは、起こっていなかった。加えてエフェクター分化誘導するTCF-1発現も減弱しており、GSによってエフェクター分化が促進されている可能性が示された。
これらのことから、in vivoにおいてもガン組織内CD8陽性T細胞に対してGS経路がT細胞の遺伝子変化を引き起こすことを示唆している。
・免疫不全(T-cell B-cell欠損)Rag-/-に対して、WTあるいはE8i-Cre+ Nr3c1fl/fl mice由来のCD8陽性T細胞を入れた場合でも、E8i-Cre+ Nr3c1fl/fl mice由来のCD8陽性T細胞が傷害性の高い遺伝子発現をもっている(IL-2, TNFa, IFNgが高い、Tim3、PD1が低い)。ちなみにGSによって、CD4陽性T細胞は変化しないようだ。

Figure4
ルシフェラーゼレポーターアッセイと網羅的な遺伝子解析から
グルココルチコイドシグナル変化遺伝子とCD8陽性T細胞の各状態(dysfunctionalとfunctional)の遺伝子プロファイルが一致していた。

・免疫チェックポイント遺伝子(Tim3, PD-1, Lag3, Tigit)や抗炎症性サイトカイン(IL-10)遺伝子をGCが転写促進することをルシフェラーゼアッセイにより明らかにした。
・GCで刺激したCD8陽性T細胞から網羅的な遺伝子解析を行った結果、同様の遺伝子プロファイル変化が引き起こされていた。すなわち、
dysfunctional Tim3+PD1+CD8+ TILsで高いものは、GC刺激によって発現増大した遺伝子がOverlapし、
functional Tim3-PD1-CD8+ TILsで高いものは、GC刺激によって発現減少した遺伝子とOverlapした。

Figure5
マクロファージにおけるグルココルチコイド産生(おそらくグルココルチコイドのソース)が一連のグルココルチコイドシグナル変化に重要であった。

・プレグネノロンはがん組織で発現増大していた(グルココルチコイドの前駆体、いくつか他のホルモンの前駆体でもある)。
・コレステロールからプレグネノロンを合成する酵素(Cyp11a1)に着目し、
マクロファージでのmRNA発現が他の細胞に比べて極めて高いことを示し、そこでマクロファージでのCyp11a1 cKO(Cyp11a1fl/fl LysMcre+マウス)を用いた。このマウスでは、MC38-Ovadim tumor cellsの成長が抑制され、CD8陽性T細胞での遺伝子プロファイルが攻撃的なものとなっていた。
・コルチゾールの合成を抑制するメチラポンの処置によっても、同様にMC38-Ovadim tumor cellsの成長抑制及びCD8陽性T細胞の遺伝子プロファイル攻撃的となった。

Figure6
グルココルチコイドシグナル抑制は、免疫チェックポイント阻害薬anti-PD-1との併用により抗腫瘍効果を増強させる。
グルココルチコイドシグナルは、免疫チェックポイント阻害薬anti-PD-1とanti-CTLA4による抗腫瘍効果を阻害する。

・MC38-Ovadim tumor cellsの成長が、免疫チェックポイント阻害薬単独の効果に加え、さらに抑制される。
E8i-Cre+ Nr3c1fl/fl mice にanti-PD-1処置する
・MC38-Ovadim tumor cellsの免疫チェックポイント阻害薬による抗腫瘍効果が減弱する。
anti-PD-1とanti-CTLA4、グルココルチコイドの共処置

Figure7
グルココルチコイドシグナルとIL-27シグナルが共闘して、がん組織微小環境内におけるCD8陽性T細胞の遺伝子プロファイルを変調させている。

【学習】
MC38-Ovadim colon carcinoma;MC-38 Cell Line derived from C57BL6 murine colon adenocarcinoma cells.

B16F10 melanoma;B16F10 (ATCC® CCL-6475™) is a murine melanoma cell line from a C57BL/6J mouse

Ovalbumin (abbreviated OVA) is the main protein found in egg white

T-cell immunoglobulin and mucin domain 3(TIM-3);TIM-3は、細胞傷害性T細胞、Treg、NK細胞およびDCを含む抗原提示細胞などに発現する免疫チェックポイント受容体
免疫チェックポイントマーカー:TIGIT
LAG-3(Lymphocyte-activation gene 3);免疫チェックポイント受容体であり、T細胞による免疫応答を抑制することができます。

【テクニカル】
mineralocorticoid receptor (MR)をT細胞でcKO E8i-Cre+(Nr3c1fl/fl mice)

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