見出し画像

細胞膜内タンパクのムーブメントについて


勉強するきっかけ

@eleldai
いつも有益な論文情報を発信してくださる"える"さん。

えるさん『このレビュー、私はまだ読んでいないので、ぜひ読んで紹介してください(笑) 』
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0092867419304040

私『いつもは、ガンー免染、ガンー血管とか
何かしらの相互作用に注目して勉強していますが、
一方で、細胞自体の代謝、受容体トラフィッキング
細胞内シグナルなどの機能について
かなり知識不足で。。。
良い機会になりそうですね。』

というTwitter上で会話がきっかけとなって、膜内タンパクのムーブメントについて、勉強してみました。実際にTwitter上で紹介されていたように、膜内タンパク(GPCRやチャネル)間の相互作用というのが近年、着目されていると感じたというのも大きな理由です。

膜の流動性

膜の流動性、これは膜を構成する脂質とそこに発現しているタンパク質が動くということ。リガンドが結合した際のエンドサイトーシスなどの現象からも膜の流動性は想像できる。近年のシングル分子トラフィッキングやナノスケールでの蛍光相関分光法(Fluorescence correlation spectroscopy:FCS)などの新たなテクノロジーの発展により、膜の流動性とその制御機構について少しずつ明らかになってきたようだ。当然ながら、膜流動のダイナミックさと細胞シグナルの複雑さが合わさり膜の流動性を制御する詳細なメカニズムをあまり明らかにされていない。

Plasma membraneのヘテロ性

 膜上には様々なドメインがある。クラスリン被覆小孔やウイルスBuddingのようなナノメートル構造をもつものから、免疫シナプスや細胞間接着構造などのマイクロメートル構造までそのドメインの大きさと種類は様々である。これらドメイン機能を獲得するために膜構造は正確に制御されなければならない。例えば、コネクソン接着構造であれば膜が動くことは得策ではないし、リガンド受容体結合時には周囲の膜流動性を高めることでこれらの複合体が細胞内に取り込まれていかなければならない。そして、これらの膜の局所流動性変化は非常に短いタイムスケールを持っている。
 これらの膜流動性のヘテロ性を可能にしている一つとして、脂質ラフトは長年考えられてきた(Science.2010 REVIEW. Lipid Rafts As a Membrane-Organizing Principle)。
脂質ラフトは高密度の脂質、コラゲナーゼ、スフィンゴミエリン構造体で、そのサイズは10-100nm、一過性に発生する。物質の膜トラフィッキング、シグナル伝達、クラスタリング(集めること)などを助けると考えられている。

脂質ラフトと受容体活性

C型レクチン受容体は脂質ラフト上でナノクラスターを形成していることが知られている。C型レクチンはカルシウム依存性の踏査結合活性を持つタンパク質の総称で、C型レクチン受容体は膜貫通型受容体のC型レクチンである。C型レクチン受容体:CLEC-2(NK細胞), P-selectin(血管内皮細胞), DC-SIGN(樹状細胞)
DC-SIGN(樹状細胞)はナノクラスターを形成することでウイルスのキャプチャーを高めることが知られている(J. Biol. Chem., 287 (2012), pp. 38946-38955)。こういったナノドメインからマイクロドメインにクラスター化する現象は、膜上での受容体流動性の重要性を物語っている。ただ、この脂質ラフトはどのようにして制御され、どのようにして受容体クラスタ-形成を促進しているのかは残念ながら分からなかった。
膜内タンパクに関しては、F-actinというPlasma membrane直下に張り巡らされた細胞骨格フィラメントは膜上のタンパクはクラスター形成をサポートすることが知られている(Nature Communications volume 8, Article number: 14347 (2017))。しかし、このアクチンについても受容体を結びつけるアダプタータンパクなどの相互作用の有無についてはまだ議論が続いているようだ。

”Picket fence”による膜流動性の低下

 細胞外マトリックスは、細胞種によって大きく異なるようで、あまり情報が載っていなかった。コラゲナーゲンやフィブロネクチン、ヘパリンスルホン酸プロテオグリカン、糖タンパク質など様々ある。CD44は細胞外のpericellular hyaluronic acidに結合し不動化すると、マクロファージのFc受容体の膜流動性を低下させる(Cell, 172 (2018), pp. 305-317)。CD44はPicket(杭)としての役割を持ち、”Picket fence”という考え方があるようだ。Picketは膜の流動性を制限する膜内タンパク質として重要なのかもしれない。

膜のトポグラフィー(地形)変化

 骨格タンパク質が欠けた部分では細胞膜がいびつな形になるらしい。これはPlasma membraneとactomyosinの接合がなくなることによる。こういういびつな構造において膜上タンパクは基質から遠ざかってしまう。また細胞膜内のアクチンがPicket fenceとの相互作用を弱めるため、膜流動性が上がっている可能性がある。

GPCRのシングル分子及びGタンパクのトラフィッキング

ナノクラスター化は分子を拡大させるため、Picket fenceによる敷居(分画)外への移動を制限される。実際にこうした分画された部位でのシグナル伝達様式は確認されており、Hot spotと呼ばれている。近年ナノサイズ抗体を用いたシングル分子トラフィッキングが可能となり、Gタンパク共役型受容体(GRCR)のシングル分子トラフィッキングとGタンパクトラフィッキングによりGRCRとGタンパクがどのようにして出会うのかが解析されている(Nature volume 550, pages543–547(2017))。これらは活動依存的に1秒間におよんで複合体を形成し、さらにPlasma membrane上にHot spot(クラスリン被覆小孔や細胞骨格分子によって定義されている)を見つけ、そこでGRCRとGタンパクが好んでカップリングする。これらは、細胞膜上の特定のスポットでGRCRシグナル伝達が起こっていることを示唆している。

まとめ

 膜上のタンパク質は様々な要因で移動が制御されている。細胞膜構造のヘテロ性は非常に重要な考えで細胞種や機能部位(接している環境)によって大きく異なることが予想される。細胞膜には杭となるタンパク=”Picket”として機能しているものが細胞外マトリックスと相互作用することでPicket fenceという分画化をしているというモデル(仮説)があることを学んだ。また細胞膜の内側には、細胞骨格アクチンやMicrotubuleなどの膜内タンパクの動きを制御する分子がある。これらの骨格の機能変化は膜の形状を複雑化し、それによって膜内のタンパクの動きは自由になったりするようだ。このように細胞膜内タンパクは細胞膜内外からの複雑な制御、さらには細胞膜の構成成分である脂質の密度(脂質ラフト)、膜内タンパク間相互作用などによって複雑にコントロールされているのだろう。
 電顕技術やimaging技術の向上が脂質でのタンパクムーブメントに関して様々な仮説が立てられているが、まだまだ時空間的な課題が多いという印象を受けた(あまりハイジャーナルな論文が引用されていない)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?