立ち消えになった映画企画から沖縄の芸能史に迫る貴重な1冊
企画があがりながら幻に終わった作品を通して、沖縄の映画、芸能、当時の世相に迫る新書「外伝 沖縄映画史 幻に終わった作品たち」(ボーダーインク)が発売された。
同書は、映画史を研究する世良利和(せら・としかず)氏が、2016年7月から2018年の9月まで沖縄タイムスに連載していた「幻の沖縄映画史」をベースに加筆修正を加えた1冊。戦前・戦中、米軍統治下、本土復帰後と時代に沿って、42編の話がまとめられている。
幻に終わった作品を時代順に紹介していくだけでなく、青春スターだった大日方傳(おびなた・でん)、アメリカの俳優で映画監督のジョン・ウェイン、小林旭と浅丘ルリ子の沖縄滞在秘話、大島渚、松田優作など、新旧の著名人のエピソードも記載され、読者を飽きさせない。
戦前の沖縄にあった映画館のことやそのパワーバランスがあり、沖縄戦で貴重な資料が失われて経過を追えず、米軍統治下では日本の映画会社が沖縄ロケを行う際には米軍の顔色をうかがわざるをえなかったなど、沖縄ならではの事情が作品の製作や公開に大きな影響を及ぼしていたことが分かる。
そして、“映画の製作企画というのは頓挫しやすい”と「はしがき」の言葉にあるものの、沖縄を舞台にした作品の企画でこれほど立ち消えになったものがあるとは、と驚きを隠せない。
いろいろな事情で日々状況が変わるであろう映画業界のことについて、これだけの証言や資料、写真を手配したことに対する世良氏の苦労に思いを馳せながら、ページを繰りたい。
「外伝 沖縄映画史 幻に終わった作品たち」
発売中 1,200円(税別) ボーダーインク
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