死花①

親友が死んだ、それも目の前で、目の前で飛び降りた。笑顔で手を振りながら

「今、最高の気分だよ、俺。世界で俺が1番幸せな人間なんだってそう疑いなく思える。後悔も...うん、ない。最後にお前に会えたしな、ありがとう。酷な思いをさせてるのかもな、ごめん。でもこれが俺の希望だったんだよね、幸せを求めた結果だ。だから、許してな。俺は最高の死を求めてたんだよ、そしてようやくそれを決断できたんだ。だから見守っててくれ。俺の死に様は輝いていたってそうみんなには言ってくれよ、それじゃまた。」

そう言って飛び降りた。

靴が擦れる音がして、風を斬る音がして、そして大きな音がした。下から大きな悲鳴があがったのが聞こえてくる。僕の頭の中は思考を停止させて、ただただ目の前で起きた現実に困惑していた。さっきまで楽しくお酒を酌み交わしていた親友が死んだ。しかし、僕の本能は防衛的にほんの数秒前まで生きていた命が、もう無いという現実を、そう簡単に理解させまいとしている。

冷たい風が僕の身体を避けながら進む。静かなはずの夜の街から遠く、サイレンの音が鳴り響いている。街は騒然とし、どこか興奮に近い熱を放っているように見える。知覚、聴覚、はたまた触覚までもが、一連の情報を逃すまいと過敏に反応し脳に訴えかけている気がしていた。

何か間違ったことが、起こっていることは分かっていた。でも、あいつの顔は晴れやかだった。直感に反していることが起こっていることが怖い。常識と現実が全く上手く一致しない。

あいつの最後の笑顔はなんだったんだろうか。死、とはあんなにも希望に満ち溢れているものなのだろうか。幸せな死を求める、それは、どうゆうことなんだろうか。僕が見たことの無い世界が、そこにはあった。僕は呆然と目の前の暗闇を見つめ、立ち尽くしていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?