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サプライチェーン崩壊を防ぐ!リスク回避の戦略【BCP編】

サプライチェーンにおけるリスク管理は、企業が直面する様々な挑戦に対処し、長期的な成功を確保するための基盤となります。
したがって、経営戦略の中核としてリスク管理を位置付け、継続的な改善と評価を行うことが重要です。
サプライチェーンが複雑化し、相互依存性が高まる中で、小さな障害が大きな影響を及ぼす可能性があります。
SCMの観点から行うべきリスク管理を「BCP(ビジネス継続計画)」と「変化対応力」の2つに大別し、今回は「BCP(ビジネス継続計画)」についてと書いていきます。

経営のリスク管理

サプライチェーンマネジメント(SCM)におけるリスク管理の重要性は、近年のグローバル経済や自然災害、パンデミックなどによって、より一層際立っています。
まず、経営においてどういうリスク管理をすべきかについてまとめます。

1.事業継続性の確保

 リスク管理は、予期せぬ事態が発生した際に、事業活動を継続し、顧客への納期遅延やサービスの品質低下を防ぐために不可欠です。
適切なリスク管理により、企業は事業の中断を最小限に抑え、迅速に正常な運営に戻ることができます。

2.競争優位性の維持:

サプライチェーンにおけるリスクを効果的に管理する企業は、競争相手よりも迅速に市場の変化に対応し、顧客の信頼を獲得することができます。
これにより、競争優位性を維持し、市場での地位を強化することが可能になります。

3.コスト削減:

リスク管理は、サプライチェーンにおける非効率や無駄を特定し、対策を講じることで、コスト削減にも寄与します。
例えば、代替サプライヤーの確保や在庫レベルの最適化は、予期せぬコスト増加を防ぎます。

4.ブランド価値の保護

サプライチェーンの問題は、企業のブランドに悪影響を及ぼす可能性があります。
リスク管理により、品質問題や納期遅延などの事態を防ぎ、企業のブランド価値を保護することが重要です。

5.法規制との遵守

グローバルなサプライチェーンは、多様な法規制や基準に従う必要があります。
リスク管理を通じて、法的要件を満たし、罰金や制裁のリスクを避けることができます。

SCMと災害リスク

日本は言うまでもなく地震大国であり、ひとたび大きな地震が起これば、サプライチェーンが寸断されてしまうことは過去の事例から明らかです。
災害への備えというのは、企業の存続に関する重要事項として捉える必要があります。

東日本大震災 トヨタの事例

2011(平成23)年3月11日午後2時46分、宮城県三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の巨大地震が発生しました。
死者・行方不明者1万9,009人(2012年3月11日、警察庁調べ)となった、未曾有の大災害です。
地震発生から数十分後には巨大津波が東日本沿岸を次々と襲い、とりわけ岩手、宮城、福島3県の被害は甚大となった。
津波と地震による電源喪失などにより、東京電力の福島第1原子力発電所では緊急炉心冷却システムが停止し、原子炉内での水素爆発などによって放射性物質が放出され、日本の原発としては最悪の事故につながりました。

トヨタも大きな被害を受けた企業になります。
直接的な被害として、自動車工場としては3拠点設備が損壊し、販売店では全壊12店舗を含む約450店舗に被害がありました。
工場の損壊からの復旧に当たり、一番問題になったのは部品・原料の確保でした。
トヨタですら、オンラインで結ばれ、実態を正確に把握しているのは、せいぜい2次サプライヤーまでで、それ以上のサプライヤーについては被災状況の把握も難しい状況でした。
特に塗料やゴム、化学薬品などの素材の調達が難しく、その分だけ、影響を受けた部品点数が増大しました。
また、複数社購買を進めてきたつもりで、そのさらに購買先は同じ仕入先だったということも判明しました。

最後まで調達のボトルネックとなっているのが電子部品だ。
自動車制御用マイコンで世界シェア約4割を占めるのはルネサスエレクトロニクスですが、その那珂工場(茨城県ひたちなか市)は復旧までに時間がかかりました。

震災から3か月たった6月3日の段階でも、国内工場の車両生産を通常の5割程度の稼働レベルだったということで、トヨタというような大企業であっても、断絶したサプライチェーンを復旧するというのがいかに難しいかというのを表していると思います。
こういった災害時に原料が入手できない、工場が稼働できないといったときに、資金がショートしないようにする、すぐに代替策が実行できる、という備えが重要になってきます。

中国の輸入規制

東日本大震災の災禍の爪痕は長く尾をひきました。
福島第一原発の冷却のために発生した汚染水を、多核種除去設備(ALPS)で処理した処理水を海洋放出にあたり、中国から大きな反発を受けました。

中国は、日本産の水産物の輸入を全面的に停止したうえ、反日的な世論も一時、異例のエスカレートを見せました。
処理水の海への放出が始まったのを受けて、中国政府は直ちに、日本産の水産物の輸入を全面的に停止すると発表しました。
処理水の放出計画はIAEA=国際原子力機関によって、「国際的な安全基準に合致している」との評価を受けたものですが、中国側はいまだに「核汚染水」という言葉を使って、日本側を批判しています。

前年に日本の水産物が輸出された国と地域は、中国がもっとも多く22.5%。次いで香港が19.5%。これらを含めて40%以上に上ります。
中国向け水産品の最大の輸出金額になるのが「ホタテ」で、北海道と青森県が主産地の国産ホタテのうち、中国1国におよそ28%、香港と合わせると35%が輸出されていました。
ホタテは、中国で加工された後、まとまった量がアメリカやヨーロッパにふたたび輸出されていました。
このホタテを含む水産物すべてが輸出不可能となってしまい、行き場を失ってしまったホタテは、大量の在庫となってしまいました。

サプライチェーンの再構築の例

このホタテの輸出先・加工拠点として期待されているのがベトナムです。
ベトナムは、輸入原料をベトナム国内で加工して第三国への輸出する製品に対して、輸入関税・付加価値税を免除する「保税加工」に力を入れてきました。

強気な外交路線を続ける中国に対するリスク分散先として、ベトナムやタイに注目が集まりましたが、水産物輸出についても脱中国が加速していくでしょう。

JETRO=日本貿易振興機構がベトナムで企画した視察・商談会には、北海道や宮城県などから12の水産加工会社などの担当者が参加しました。
参加した北海道の水産加工会社の代表は「今まで中国に9割以上輸出していたものが無くなる中、少しでも消費や加工の可能性があれば検討していきたい」と話していました。

能登半島地震

2024年1月1日に最大震度7を記録した能登半島地震も、大きな被害を生み出しました。
企業の約2割(21.9%)が地震の影響を受けたと回答しました。特に、仕入れ(調達)に影響があった企業が38.7%と最も多く、販売(サービス提供)や取引先の被災も大きな問題となっています。
被災地では石川県の65.3%を始めとする北陸3県で「影響あり」との回答が多く、宿泊業や生活関連サービス業など観光産業への打撃が大きいことが分かります。
政府・日銀は支援策を決定していますが、物価高や人手不足などの問題も重なり、復旧には時間がかかっています。
被害が甚大であった珠洲市では、3月上旬時点でようやく断水は解消されたが、まだ飲料水としては利用できないという状況です。
今後、少子高齢化が進む日本の中で、災害後のサプライチェーンの復旧がどうしても時間がかかってしまう地域というのは出てきてしまうでしょう。

そういった復旧されるのかどうかについても踏まえて、サプライソースの選定を行うこともBCPとして重要になってくるということで、注意が必要になると思います。

SCMとBCP

サプライチェーンマネジメント(SCM)とBCPは、現代の企業が直面するリスクを管理し、事業の持続可能性を保つために密接に関連しています。
SCMは、原材料の調達から最終製品の顧客への配送まで、企業のサプライチェーン全体を最適化しようとすることです。

SCMは部分最適でなく全体最適を目指すものが重要なコンセプトです。
この「全体最適」というのは、1つはサプライチェーン全体での最適化であるということ、次に「空間的に」最適であるということと、最後に「時間的に」最適であることを指すと思います。
つまり、短期的な最適化ではなく、リスクマネジメントを含めて中長期的な最適化を目指すのだということです。

BCPとは何か?

BCP(ビジネス継続計画)とは、自然災害、事故、感染症の流行など、予期せぬ事態が発生した場合に事業活動を継続するための計画です。
事業のリスク評価を行い、重要業務の優先順位付け、代替手段の確保、復旧計画の策定などを含みます。
その目的は、事業の中断を最小限に抑え、復旧を迅速に行うことにあります。

BCPの策定

ではBCPの策定は具体的にどういうことをすればよいのでしょうか?
2023年3月に内閣府が出しているガイドラインでは、BCP策定で大きく「業務拠点」「調達・供給」「要員確保」の3つの戦略と対策が重要であるとまとめられています。

BCPの戦略と対策

1.業務拠点に関する戦略・対策:
拠点の被害抑止・軽減、多重化・分散化、他社との提携、在宅勤務やサテライトオフィスの利用を通じて、災害時のダメージを最小限に留め、迅速な復旧を目指す。被害レベルに応じて異なる対応を計画し、耐震化や防火対策などの予防措置を講じる。

2.調達・供給の観点での戦略・対策
在庫の見直しや分散化、調達先の複数化、供給先との連携強化、代替調達の簡素化によって、供給継続性を確保。供給網の脆弱性を減らし、事業継続計画(BCM)の実施を支援する。

3.要員確保の観点での戦略・対策
重要業務を支える人材の代替育成、応援体制の整備、調達先のBCM支援、従業員の安全・健康に配慮した対策を実施し、テレワークや時差通勤などの柔軟な働き方を促進する。

内閣府のBCP対策時で目指すべき操業復旧の図

BCPを踏まえたサプライチェーンの構築

では具体的にどういうサプライチェーンを構築すればよいのでしょうか?
拠点を分散すること、調達先を複数化すること、連携し・脆弱性を把握しておくこと。
サプライチェーンを管理できる人材を育成し、余剰人員をもつことや、テレワークを進めておくことです。

これらは、つまりは生産性をあえて落としたり、コストをかけておくということです。
在庫を持つことも、短期的にはコスト圧迫要因ですが、災害時にはすぐに生産再開できたり、迅速な復旧への強みになります。
こういったように、BCPの観点においては、短期的視点でコスト・利益最適化を考えるのではなく、災害発生時の損失最小化も含めた中長期でのコスト・利益最適化を考える必要があります。

というわけで今回は、SCMの観点から行うべきリスク管理について、「BCP(ビジネス継続計画)」をとりあげました。
次回は「レジリエンス」という切り口で書いていきたいと思います。
それでは次回もよろしくお願いします。


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