アメリカ起源からグローバル進化まで!SCMの歴史を徹底解説【後編】
サプライチェーン・マネジメント(SCM)の歴史は、単なる物流の進化ではありません。
前記事では、第二次大戦後の物流管理の進化から、1982年にキース・オリバー(Keith Oliver)がサプライチェーン・マネジメントという言葉を提唱した背景、コンピューターの発達に伴うSCMの進化についてまとめました。
そして2000年以降、テクノロジーやマーケットが急激に変化する中で、サプライチェーンもまた大きく変わっていきました。
本記事では、そんな激変するサプライチェーンと、SCMがどう発展してきたのかについてまとめていきます。
2000年以降の重要な出来事
スマートフォンとEコマースの普及
2010年まで、一般的に「買い物」といえば、「実際にお店に行って実物を見て買うことを決め、支払いをし、自分で持って帰る」という行動を指していました。
それが、スマートフォン・オンラインショッピングが普及したことで、「自宅にいながら、画像や他人の評価・コメントをもとに買うことを決め、支払いをし、後日物が届くのを待つ」ことに変わりました。
これらは、流通のあり方を根本的に変えることになり、多くの実店舗を閉店に追い込んだと同時に、広告、物流、金融など多岐にわたる産業に大きな影響を与えています。
この変化は、スマートフォンとEコマースが爆発的に普及した10年~15年に急激に起きたことですが、少し掘り下げてみていきます。
2000年代初頭
携帯電話はすでに普及していましたが、主に通話と簡単なテキストメッセージングのために使用されていました。
インターネットの普及に伴い、AmazonやeBayなどのオンラインマーケットプレイスが登場しました。しかし、当初は消費者のオンラインショッピングに対する信頼が低く、成長は緩やかでした。
スマートフォンの普及によるオンライン市場の普及
AppleがiPhoneを発表したのは2007年のことでした。
続いて2010年代に、Android OSを搭載したスマートフォンが登場し、iPhoneと競合しました。
これにより、スマートフォンはさらに一般化し、価格帯も多様化しました。
インターネットアクセス、アプリ利用、マルチメディア機能など、携帯電話の使用範囲が大幅に拡大しました。
米調査会社ガートナーの調査で2022年の出荷台数は、
・スマートフォン 12億3000万台
・パソコン 2億6800万台
・タブレット 1億3300万台
圧倒的にスマートフォンの比率が高いことがわかります。
つまり、オンライン市場の発展には、スマートフォンの普及が重要だったということが言えるということです。
また、コロナパンデミックにより、非接触での買い物が急増し、Eコマースの市場はさらに拡大しました。
これまでは実店舗でしか買い物をしなかった人たちも、オンラインでの買い物を経験し、その利便性の高さを実感し、コロナ終息後もオンラインショッピングを続けることになりました。
中国の発展と米中対立
2001年の中国のWTO加盟は、中国の"世界の工場"としての地位を確立させる契機となりました。
その後経済成長を続けた中国は、2010年に日本を抜き世界2位の経済大国になります。
これは中国が「世界の工場」であると同時に、「巨大な消費市場」になったということです。
このことは当然、グローバルなサプライチェーンの流れを大きく変えることになりました。
中国の都市化の進展に伴い、国内外の企業が中国市場を重視するようになり、消費財の供給網が中国向けに拡張されました。
そして、中国の台頭を深刻に懸念し始めたアメリカと、世界の覇権を狙う中国との軋轢が生まれることになります。
2018年に米国のトランプ大統領が中国製品に追加徴税を表明し、米中貿易摩擦が始まりました。
そして、トランプ政権からバイデン政権へ変わった今でも、中国の軍事力増強や情報・技術の流出を懸念して、先端半導体分野の貿易制限を行っており、対立の解消に目途が立っていません。
リーマンショックとコロナ渦でのサプライチェーンの変化
2008年に起こったリーマンショックは、グローバルなサプライチェーンに深刻な影響を及ぼしました。
この経済危機により、世界中の企業が資金繰りに苦しみ、多くの生産活動が停滞しました。
国際貿易の減少は、サプライチェーンの混乱を引き起こし、生産計画の見直しやコスト削減が迫られる状況になりました。
また、信用不安により、サプライヤーとの取引条件が厳しくなったり、資金調達が困難になるなど、サプライチェーン管理に新たな課題が生じました。
このようにリーマンショックは、グローバルサプライチェーンの脆弱性を浮き彫りにし、リスク管理の重要性を再認識させる契機となりました。
2020年に新型コロナウィルスが世界中でまん延しました。
2022年8月までに感染者数は累計6億人を超え、人々の消費行動を大きく変えることになりました。
そして、グローバルサプライチェーンの脆弱性を浮き彫りにしたのです。
2021年2月、世界でコンテナ不足が大きなニュースとなりました。
アメリカで、いわゆる“巣ごもり需要”が急拡大したため中国からの輸入が増え、一方で港の側では作業員・ドライバー不足でさばききれず、港に大量のコンテナが積みあがるという事態でした。
それが一転、2023年2月には中国の港に「空きコンテナの山」が積みあがる、ということが話題になりました。
コンテナ不足からのコンテナ製造を増加したところに、2022年にロシアのウクライナ侵攻、中国の景気悪化で国際貿易の低迷がWパンチで襲ったのです。
このように、グローバルにサプライチェーンが複雑になることによって、ある国での変化が、全体に与える影響が非常に大きくなってしまうことが顕在化しました。
2023年12月には、イエメンの武装勢力が紅海で商船を攻撃しつづけていることにより、コンテナ船の航路を変更せざるを得なくなり、航海日数の延長やコスト増、それに伴う船舶スケジュールの混乱につながっています。
こういった混乱は、サプライチェーンが偏在・集中していると非常にリスクがある、ということを示しています。
テクノロジーの進歩とSCMの変革
上記のように、世界のマーケットの状況で、グローバルなサプライチェーンが大きく変容していったのが2000年以降の流れです。
そして、このサプライチェーンをマネジメントするための技術もまた、大きな進化を遂げました。
クラウドコンピューティングやビッグデータの登場により、企業はリアルタイムで在庫を管理し、需要の予測を行うことができるようになりました。中でも大きな
IoT(モノのインターネット)の登場
IoT(Internet of Things、モノのインターネット)とは、日常のさまざまな「モノ」(製品、機器、センサーなど)をインターネットに接続することです。
モノ事態が互いにデータをやり取りすることで、自動的に操作したり、情報を収集・分析することが自動的に行われます。
例えば、自宅の照明やエアコンをスマートフォンから遠隔操作したり、工場の機械が稼働状況を自動で報告したりすることができます。
このIoTはSCMにとって非常に強力なツールとなります。
例えば、トヨタでは「ジャストインタイム」や「自働化」にIoTを組み合わせることで、さらなる生産効率の向上と品質管理の強化を図っています。
生産プロセス、設備の稼働状況、材料の入出庫・在庫管理の可視化、運搬・加工プロセスの自動化を行い、あらゆる生産性を向上させました。
これらは、すべてモノがインターネットにつながることで、リアルタイムなデータ管理に基づいて、工程管理を自動化できたことで実現しました。
AI(人工知能)と機械学習の活用
人工知能もまた、SCMをサポートする重要なツールになっています。
例えば、コンビニの商品の発注量計算にAIが活用されています。
人が3000~5000のアイテム数の正確に販売予測を立てて適正な発注量を計算することは、非常に困難な仕事です。
天候やイベント、商品の改廃など複数の要因を加味し、短時間で発注量を決めるには、熟練が必要になります。
AIは意思決定をサポートし、作業員ごとの能力のばらつきを一定程度抑える役割をします。
これは、過剰在庫や欠品の防止のためだけでなく、労働時間や教育時間の短縮にも役立ちます。
サプライチェーンの管理として、発注・在庫管理は非常に重要な業務プロセスになります。
AIと機械学習を利用することで、過去のデータから需要のパターンを分析し、より正確な需要予測を行うことができるようになりました。
ブロックチェーン技術
ブロックチェーン技術をサプライチェーンに導入することで、取引記録の改ざん防止や透明性の確保が可能になり、パートナー間の信頼関係を強化しました。
信頼性は、ビジネスにおいて非常に重要なファクターで、どんなに便利でコストが削減されても、精度が低ければ実用化は進みません。
ブロックチェーン技術によるデータセキュリティの向上は、今後のIoTやAI活用の拡大を強力に後押しすることになると考えられます。
まとめ
ここまで、2000年以降のマーケット面での大きな変化と、テクノロジー面での発展についてみてきました。
最後に、新型コロナウィルスまん延前と後という比較で、大きくどういう変化があったのかを見ていきます。
コロナ以前 集中化による最適化
集中化: 多くの企業がコスト削減を目的として、製造拠点やサプライヤーを特定の国や地域に集中させていました。特に中国は、多くのグローバルサプライチェーンにとって「世界の工場」としての役割を果たしていました。
効率性重視: ジャストインタイム生産などの効率を重視した運用が一般的で、在庫を最小限に抑えることでコスト削減を図っていました。
グローバル化: 製品の部品や原材料は世界中から調達され、完成品は世界中に輸出されるなど、サプライチェーンは高度にグローバル化していました。
コロナ以後 効率性ではなく「持続可能性」
パンデミックによる生産停止や物流の混乱を経験した企業は、リスク分散のために製造拠点やサプライヤーの地理的な分散化を進めています。
また、地域内で完結するサプライチェーンや、国内生産の重要性が見直されています。
効率だけでなく、柔軟性や回復力を持ったサプライチェーンの構築が重視されるようになりました。レジリエンス(回復力)の重視予期せぬ事態にも対応できるよう、安全在庫の確保などが見直されています。
そして、世界はよりデジタル化が進み、テレワークの普及やオンライン商取引の増加など、新しい行動様式への移行が加速しています。
IOT・AI・自動運転などのテクノロジーは、コスト削減にも使われますが、リスク最適化としても展開が進んでいくことでしょう。
以上、サプライチェーンマネジメントの歴史について、2000年からコロナ直後までの流れを見ていきました。
これからも、SCMについていろいろと書いていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?