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SCMの上流課題。調達先をどう選定するか?

SCM(サプライチェーン・マネジメント)とは、原料の調達から販売までの全過程を最適管理することです。
今回は、一番上流の「調達」について、SCMとしてどういうことに気を付ける必要があるかをまとめていきます。


調達先の選定の基本要素

サプライヤーの選定要素

サプライチェーンマネジメント(SCM)における調達先の選定は、サプライチェーン全体の効率性、効果性、および持続可能性に直接影響を及ぼす重要な要素です。調達先の選定において考慮すべき主要な要素は以下の通りです。

1. 品質:調達先が提供する製品やサービスの品質は、最終製品の品質に直結します。品質基準や品質管理体制が整っている調達先を選定することが重要です。
2. コスト:製品のコスト構造において原材料や部品のコストが占める割合は大きいため、コスト競争力のある調達先を選定することが重要です。
3. 納期:市場の要求に迅速に対応するためには、調達先からの確実な納期の遵守が求められます。また、需要の変動に柔軟に対応できる調達先の選定も重要です。
4. 持続可能性:環境保護や社会的責任の観点から、持続可能な供給を行う調達先を選定することが、企業のブランド価値を高める上で重要になっています。
5. 技術力:新しい技術やイノベーションを提供できる調達先との連携は、競争優位性を確保する上で重要です。技術的なサポートや共同開発が可能な調達先の選定を考慮することが望ましいです。
6. コミュニケーション:調達先との円滑なコミュニケーションは、供給チェーンの透明性を高め、問題が発生した際の迅速な解決につながります。信頼できる関係構築が可能な調達先を選定することが重要です。
7. リスク管理:自然災害や政治的不安定性など、外部環境の変化によるリスクに対して、調達先が適切なリスク管理体制を持っているかも評価の対象となります。


調達活動とSCMの位置づけ

バランスを取るのがSCMの役割

上記要素はそれぞれ重要ですが、すべてを兼ね備えているサプライヤーなど存在しません。
どこから調達するのかについては、総合的に評価して
ある種リスクを負いながら選定する必要がある、という認識が重要です。
サプライヤーの方も営業活動の中で自社の悪い面を見せないように売り込みをかけてきますが、それをちゃんと見逃さない眼力が試されます。
そして、強み・弱みを押さえたうえで付き合うということが重要です。

カントリーリスクは深堀しておく

今後、調達先がどこの国に拠点があり、その原料はどこの国で製造されたものなのか、さらにその主要原料は何で産地がどこなのかについてを把握しておくことは重要になります。
2023年11月、イエメンの親イラン武装組織フーシ派が、紅海を航行する船舶への攻撃を繰り返し、貿易に深刻なダメージを与えました。
紅海が通れず、喜望峰を大きく迂回するルートを通らざるをえなくなることで航海が2週間も伸びることとなり、運賃上昇とスケジュールの混乱が相次ぎました。

このような事態が起こった時に、自社の何にどれくらい影響が及ぼされるのかを把握しておく必要があります。
つまり、サプライヤーに対する普段の情報収集力や、イレギュラー時の迅速なコミュニケーション力が問われることになります。
そういったことができる調達先をえらぶことは、SCMの重要な課題です。

調達先選定のポイント

常に複数の調達先候補を持つ

SCMは、リスクコントロールや持続可能性が重要なテーマとなります。
ですので、基本的には調達先は複数持つことが原則です。
調達先を1社に絞ることで、マスメリットが出たり、優遇価格・優遇対応をもらえるメリットもありますが、デメリットとして緊急時の安定調達力という面では弱くなりがちです。
災害大国ニッポンにおいて、リスクコントロールを無視した調達先選定は、ハイリスク・ハイリターンを狙った経営スタイルといって良いでしょう。
単一の調達先に依存すると、その調達先が直面する問題(自然災害、政治的不安定、生産遅延など)がサプライチェーン全体に大きな影響を与えるリスクがあります。
SCMとしては、リスク分散と柔軟性の確保が重要ですから、常に複数の調達先候補を持つのが妥当と思います。

変化対応しているかを見極める

良いサプライヤーを見つける過程で、そのサプライヤーが市場や技術の変化に柔軟に対応しているかどうかに着目することが必要です。
その会社の経営陣がどういう意識で会社を動かしているのかというのを、商談や訪問を通じて情報収集していきましょう。

工場・倉庫・研究開発センターなどを現地・現物を視察すると、どういった新規設備やシステムを導入しているのかがわかります。
当然お金をかけている分野というのは、今重視している=本気で取り組んでいるところになりますので、そこでその会社の方向性を確認することができます。

また、サプライヤー選定においては、社会の要請に対して責任ある対応をしているかを見ておく必要があります。
法律の順守は当然ですが、環境保護や社会的責任、男女雇用の機会均等、フェアトレードなどについて旧態依然とした経営をしている会社は、問題を起こす可能性は高いと判断すべきです。

商談や視察においては、ミクロな製品・サービスという面と、マクロな経営方針、変化対応力といった面の両方を確認することが重要です。

情報共有できるかを確認する

SCMとは、歴史的には「サプライヤーとPOSデータを共有してリアルタイムの需要動向を把握し、生産・物流・在庫の最適化を通じて、サプライチェーン全体のコストを下げる」といった課題解決からスタートしました。
今後も、POSデータに限らず、サプライヤーとのリアルタイムな情報共有はSCMの主要なアプローチであると思います。

一方で、リアルタイムに情報共有するということは、
・自社にとって不都合な情報も送信されてしまうリスクがある=精査する時間がない
・信頼できるサプライヤーでないと、情報流出のリスクが出てしまう
というデメリットが発生してしまいます。

ですので、当然守秘義務契約などは必要になってきますが、信頼ができるサプライヤーと取引を行うことが重要になってきます。

昨今ではインターネットでサプライヤーを見つけることが簡単にできますし、実際に会わなくてもメールやテレビ会議で商談をすますことは簡単に可能な時代です。
それはうまくいく場合においては、非常に生産性が高い方法であります。
その代わり、またリスクも抱えたやり方であると言えます。
会社や顧客の情報、販売情報は貴重な会社の資産です。
これを他社に垂れ流されてしまっては、すぐに模倣されたり対策されたりで競争に勝てることはできなくなるでしょう。
ですので、サプライヤー選定には必要なコストをかけて、実際に製造・サービスの現場を確認するというのは必要なことです。

SCMを進化させる調達先

世界トップクラスのサプライヤーをチェックする

サプライチェーンマネジメント(SCM)において、世界におけるトッププレイヤーのサプライヤーを定期的にチェックし、評価することは、企業が競争力を保持し、市場での成功を確保する上で非常に重要です。

1. 技術革新の取り込み
世界のトッププレイヤーは、技術革新においてリーダーの役割を果たしがちです。これらのサプライヤーと連携することで、最新の技術やプロセスを自社のサプライチェーンに取り込むことが可能となり、製品の品質向上や生産効率の向上が期待できます。

2. 市場トレンドへの適応
トッププレイヤーは市場の変動に対して敏感であり、新しい消費者のニーズや市場トレンドをいち早くキャッチします。これらのサプライヤーとの関係を通じて、市場の変化に迅速に対応し、競争優位性を維持することができます。

3. グローバルネットワークの構築
世界のトッププレイヤーは、しばしば広範囲にわたるグローバルネットワークを持っています。これらのサプライヤーと協力することで、新しい市場への進出やグローバルなサプライチェーンの構築が容易になります。


世界におけるトッププレイヤーのサプライヤーを定期的にチェックし、適切に評価することは、企業が市場の変化に柔軟に対応し、持続可能な競争力を確保するために不可欠です。
グローバル化が進んだ昨今においては、やはり英語で、海外のトップサプライヤーとつながる必要があります。

日本語で対応できるところは選択肢が圧倒的に少なくなってしまい、そこでの情報収集には限界があります。というか有害ですらあります。
自分たちが楽に手に入れる情報は、競合もまた楽に手に入れられる情報ですので、競争力の源泉になりえません。

強みを強化し続ける

一番重要なのは、自社のサプライチェーンを絶えず強くしていこうとすることだと思います。
それに真摯に向き合おうとすると、世界の中のトップ企業の動向をダイレクトにコンタクトして収集することは、非常に重要です。
新聞・雑誌・メディアを通した情報収集というのも、結局競合が手に入れられるものですし、タイムラグがありますし、何より本当に自社にとって価値がある情報まで掘り下げて確認されていないということです。
自分たち自身で世界のトッププレイヤーの動向を押さえることについては、コストをつかってやるべきことだと思います。

また、これらは経営陣が自ら率先してそういう動きをすべきなのが理想ですが、そうではない場合でもSCMに必須な業務としてやっていくのがよいと思います。

弱みを打ち消し、サプライチェーンを途切れさせない

鎖は引っ張ると一番弱いところが切れます。
サプライチェーンも同様で、何かトラブルがあった時に、自社のサプライチェーン上の一番もろいセクション・部門で顕在化します。
SCMにおいては、この弱点補強という視点も常に持ち続け、サプライヤーをうまく使って課題解消を行っていく必要があります。

そのためには、まず自社の弱みがどこにあるのかを冷静に認識しておく必要があります。
そして、サプライヤーの力を有効活用するという視点で、調達先を検討する要素として意識していくことが求められます。

まとめ

今回は、SCMにおける調達先の選定についてまとめてみました。
SCMにとってサプライチェーン全体のコスト削減は大きな課題ですが、一方でリスクヘッジに取り組むことが企業の存続で重要になってきます。
通常仕入先の選定はプロキュアメントを行うバイヤーの部門がやっていることだと思いますし、SCM的観点からいうと、その選定基準にちゃちゃいれをするような形になることも多いかと思います。
ですので、リスクコントロール面での経営方針を明確にし、それに沿うようなかたちで中長期的にサプライソースの統合・分散など図っていくことが重要かと思います。

今後もSCMに関する記事作成を行っていきますので、よろしくお願いいたします。


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