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SCMにおける貿易管理について

サプライチェーンマネジメント(SCM)における貿易管理の重要性は、グローバル化が進む現代経済において特に顕著です。
SCMは、製品の設計から最終的な顧客への配送に至るまでの一連のプロセスを最適化し、管理することを目指します。
これには、調達、製造、物流、情報フローの管理が含まれますが、貿易管理は、国際的なサプライチェーンにおいて中心的な役割を果たし、効率的な商品の流れを確保する上で不可欠な要素となります。


自社で貿易に取り組む意義

1.コスト削減

貿易管理を自社で行うことにより、関税、輸送コスト、保管コスト、手数料などの貿易関連コストを最適化することができます。
通関・輸出入業務をフォワーダーや乙仲に依頼するとマージンがかかりますし、そこでかかる費用も最善であるかわからなくなります。
また、貿易におけるリスクもそのマージンに入ってきますので、そういったコストについて、自社でやることで安く済ませることができます。

2.自社での在庫の確保

円安の状況と相まって、国際的な日本企業の購買力の低下が問題視されています。いわゆる買い負け、という状況です。
国内に輸入された在庫を買い集める場合、必ずしも必要量を確保できるかが不透明になっていると言えます。
貿易管理を自社で行うことにより、自社で在庫を早い段階から抑えることにより、欠品・ショートを防ぐことができます。

3.原料の国際市場へのアクセスと競争力の強化

貿易管理を自社で行うことにより、原料国の情報が入ってくることになります。
これにより、早くから原料国の状況に対応することができたり、よりよいサプライヤー選定を行うことができ、企業の競争力の強化につながります。
直接原料の品質・産地を特定しながら購入ができますので、商品価値としてアピールすることが可能になります。

国内のサプライヤーからの調達に頼っていると、その情報にタイムラグがはいってきたり、サプライヤーの不都合な情報は入手できなくなってしまいます。
そういった面で、自社で貿易管理を行うことについて、ビジネス機会をつかむチャンスであると言えます。

結論として、SCMにおける貿易管理の重要性は、コストの削減、効率の向上、リスク管理、法規制への遵守、市場アクセスの拡大といった複数の側面で明確にされます。これらの要素は、企業が持続可能な競争優位性を確保し、グローバル市場で成功するために不可欠です。

貿易における取引条件の選択

サプライチェーンマネジメントというと、すべてを垂直統合して自社ですべてを行うことのように思われる方もいるかもしれません。
これは明確に誤りで、SCMとは、サプライヤーとの企業間連結を含む最適化というのが本来の趣旨になります。
むしろ他社との連携を前提とした全体最適化を意味します。

そこで、貿易についてもすべて自社で行うことではなく、サプライヤーとの貿易取引であったり、フォワーダーを利用して輸出入を行うなども柔軟に選択していく必要があります。
貿易取引において、原料サプライヤーからどういう条件で購入するかというのは非常に重要になります。
ここで、重要になってくるのがインコタームズの選択です。

インコタームズ(Incoterms)について

インコタームズ(Incoterms)は、国際商業会議所(ICC)によって定められた国際貿易取引における取引条件の国際ルールです。インコタームズは、買い手と売り手の間で商品の配送条件を明確にし、貨物の輸送中のリスクや費用負担の所在を定義します。以下に、2020年版のインコタームズで定義されている主な取引条件を紹介します。

  • EXW(Ex Works...指定場所) 売り手の責任は、自社工場や倉庫で商品を用意することまでです。輸送の手配や費用負担は買い手が行います。

  • FCA(Free Carrier...指定場所) 売り手は、指定された場所で貨物を買い手の指定する運送人に引き渡します。

  • FAS(Free Alongside Ship...指定積出港) 売り手の責任は、商品を輸出国の港の船側に搬出することまでです。

  • FOB(Free On Board...指定積出港) 商品が輸出国の船の甲板を越えた時点で、リスクが買い手に移ります。

  • CFR(Cost and Freight...指定目的港) 売り手は、商品の運賃を目的港まで支払いますが、海上でのリスクは商品が船に積まれた時点で買い手に移ります。

  • CIF(Cost, Insurance and Freight...指定目的港) CFRに加えて、売り手は商品の輸送中の保険も負担します。

  • CPT(Carriage Paid To...指定目的地) 売り手が貨物の運賃を指定目的地まで支払いますが、輸送中のリスクは別途定められます。

  • CIP(Carriage and Insurance Paid to...指定目的地) CPTに加えて、売り手は輸送中の保険も負担します。

  • DAP(Delivered At Place...指定目的地) 売り手は、指定された目的地で貨物を輸入通関手続きなしに配送します。

  • DPU(Delivered at Place Unloaded...指定場所で荷卸し後引渡し) 売り手の責任は、目的地での貨物の荷卸しを含めます。

  • DDP(Delivered Duty Paid...指定目的地) 売り手は、輸入国の関税を含むすべての費用を負担し、貨物を目的地で引き渡します。

インコタームズを利用することで、貿易取引におけるリスクや費用、義務の所在を国際的に共通の理解の下で明確にすることができます。
取引の際には、適切なインコタームズを選択し、契約書に明記することが重要です。
また、インコタームズでの契約については、所有権の移転タイミングと、リスク負担のタイミングが違うということをよく理解する必要があります。

リスクとコストのバランスの評価

国内でサプライヤーから原料を購入するより、自社でコンテナ単位で貿易取引をする方が圧倒的にコストは安く済みます。
これはなぜかというと、2つ大きな理由があります。
1つめは当然国内サプライヤーの利益分の差額をなくせることなのですが、
2つめが重要で、貿易取引はすごくリスクが高い取引だからです。

リスクには、為替リスクがあり、つぎに貨物のダメージのリスクがあります。

為替リスクヘッジ

貿易取引における為替リスクヘッジは、通貨価値の変動による損失を防ぐための重要な手段です。為替レートは、多くの要因によって日々変動するため、特に国際貿易を行う企業にとっては大きなリスク要因となります。以下に、為替リスクをヘッジするための代表的な手法を紹介します。

1. フォワード契約(先物契約)
フォワード契約は、将来の特定の日に、あらかじめ決められた為替レートで通貨を交換する契約です。これにより、企業は為替レートの変動から保護され、将来のコストや収益を確実なものとすることができます。

2. オプション契約
為替オプションは、特定の期間内または特定の日に、決められた為替レートで通貨を購入または売却する権利を与える契約です。オプション契約は権利であるため、市場の為替レートが契約時のレートよりも有利な場合は、オプションを行使しない選択も可能です。

3. 通貨スワップ
通貨スワップは、異なる通貨の金額を交換し、後日再交換する契約です。これにより、企業は必要な通貨を確保しつつ、将来の為替レート変動リスクから守られます。

為替リスクヘッジは、貿易取引において予測不可能な為替レート変動から企業を保護し、財務の安定性を保つ上で重要です。企業は、自身のビジネスモデルや取引の性質に最適なヘッジ戦略を選択し、実施する必要があります。

貿易保険について

輸出入取引において保険をかけることは普通ですが、損害があった時に保険の対象内にない損害については当然保証されませんので、そのまま損失になることがあります。
そうした時の損失や、代替品の手配のコストを含めて考えないと、目先の差額で原価が安くなったように見えて、最終的には高くついてしまったということが起こります。
ある程度の確率で不良品やコンテナ全体レベルの損害があることも見越してコスト計算をする必要があります。

在庫変動リスクの対応

貿易取引はスケジュールが流動的になります。
海上貿易などで、船便が遅れることはままありますし、通関に何日かかるかについては、抜き取り検査に当たるか当たらないかでも変わってきますので、事前に正確なスケジュールを把握することは難しくなります。
そうなると、ある程度遅れることを見込んだスケジュールになりますので、国内在庫を余裕を持った状態で輸入させる必要があります。
これは結構実務上はストレスで、金銭的な負担もそうですが、欠品しないで在庫をつなげられるかや、予定通り原料がそろって製造を開始できるかなど、非常に気をもむ作業になります。

上記のようなリスクも加味したうえで、貿易取引を行う必要があります。
ただ、やはり貿易取引を自社コントロールで行うことで、コストメリットは総合的にでてきますし、何より他社との差別化になります。

円安による原料輸入コストの増加は、製造業を中心に日本経済にとって大きな課題です。
企業は、為替リスク管理(ヘッジ戦略の導入など)、生産プロセスの効率化、価値提案の強化(差別化戦略)など、複合的な対策を講じていく必要があるでしょう。

今回は、SCMにおける貿易取引について書いていきました。
またSCMに関係する記事を書いていきますので、よろしくお願いいたします。

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