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DXYZ・木村晋太郎氏インタビュー(前編)~日本初の顔認証プラットフォーム「FreeiD」と建設業界での活用可能性~

【はじめに】

今回は、一つの顔認証IDで、入退・本人確認・決済を可能にする顔認証IDプラットフォーム「FreeiD (フリード)」を開発・提供しているDXYZ(ディクシーズ)株式会社 取締役社長 木村 晋太郎氏をお招きしました。

DXYZ株式会社は、顔認証テクノロジーによって、リアルな世界の全ての行動・サービスをつなげ、「人と人の深く温もりのあるつながり」を創ることを目指しています。建築・不動産業界をはじめ、幅広い業界との協業がスタートしているDXYZの取り組みに、Fortec Architect株式会社 大江氏、建設DX研究所所長 岡本が迫ります。

■プロフィール
木村 晋太郎
DXYZ株式会社 取締役社長
慶応義塾大学 法学部法律学科卒。在学中にシリコンバレーの通信系ベンチャー GigSky, Inc.に出資・インターンし、日本市場のマーケティングを支援。大学卒業後、三井物産株式会社 ICT事業本部に入社。米・イスラエルのサイバーセキュリティ企業への出資・日本展開業務やイスラエルの新技術を活用した通信会社と共同での新規事業開発に従事。その後、三井物産エレクトロニクス社に出向し、物流業界向けに新たなDXサービスの立ち上げをプロジェクトマネージャーとして実施。顔認証プラットフォーム事業(FreeiD)の対外的なローンチに向けて、DXYZ株式会社に参画し、2021年4月に取締役社長に就任。

大江 太人
Fortec Architect株式会社代表
東京大学工学部建築学科において建築家・隈研吾氏に師事した後、株式会社竹中工務店、株式会社プランテック総合計画事務所(設計事務所)・プランテックファシリティーズ(施工会社)取締役、株式会社プランテックアソシエイツ取締役副社長を経て、Fortec Architect株式会社を創業。ハーバードビジネススクールMBA修了。一級建築士。

【鍵や財布・スマホを持たずに、手ぶらで外出できる世界を目指す】

岡本:まずは御社の事業内容についてご紹介いただけますか。

木村:当社は、2020年8月に東証プライム上場企業であるプロパティエージェント株式会社の子会社としてスタートを切りました。主な事業は、顔認証プラットフォーム「FreeiD」の開発・提供です。

「FreeiD」は、ユーザーが自分の「顔」を一度登録すれば、「FreeiD」に対応している様々な顔認証サービスを利用できるプラットフォームです。ユーザーがアプリで利用したいサービスや施設を選択すると、そこに「顔」情報が配信され、入退や本人確認、決済をスムーズに利用できます。現在では、マンション・オフィスへの入室、保育園の保護者の本人認証、テーマパークへの入場などへの活用が進んでおり、今後は交通機関にもサービスを広げていきたいと考えています。

顔認証に利用するアプリ、「顔」の情報を安全に保管するデータベース、様々な顔認証エンジンをつなぎ込むプラットフォームを有しているのが本サービスの特徴です。顔認証サービスを開始するためのパーツが揃っているため、顔認証サービスを一から開発するよりも安価に提供することが可能です。

事業内容は、3つの形態で展開しています。1つ目は、「FreeiD」の既存パッケージを施設ごとに提供するソリューション事業です。2つ目は、「FreeiD」を活用して様々な業界向けに新たにサービスを開発するカスタマイズ事業です。ありがたいことに「こんなところで使えないか」とたくさんお声がけをいただいており、幅広い業界の企業・自治体と取り組みを進めています。3つ目は、様々な顔認証エンジンを繋ぎ込む当社の顔認証基盤を提供し、開発支援・技術提供を行うプラットフォーム事業です。

岡本:「FreeiD」をスタートした背景にはどんな思いがあったのでしょうか?

木村:スマートフォンやWeb会議ツール、SNSが浸透し、人と人はオンラインの世界で簡単につながれる時代が到来しています。しかし、利便性は高まりましたが、リアルの世界でのつながりが簡素化・希薄化したのではないかとも考えています。人と人との信頼や愛情、友情は、会って話をしたり、食事をしたり、旅行に行ったりと、五感を伴う体験があってこそ育まれるというのが私の実感です。もし、あらゆるサービス・施設がすべて「顔」だけで利用できるようになったら、鍵もスマートフォンも財布も持たずに出かけることができます。「会いたい」「行きたい」と思い立った瞬間に自由に行動できる社会、手ぶらで会いたい人に会いに行ける魅力的な世界を作りたいと思ったのが、「FreeiD」をスタートしたきっかけです。まずは顔認証サービスが使える場所を増やしていきながら、その場所と場所をモビリティでつなぎ、最終的には街と街をつなげていくのが、私たちが目指すロードマップです。

FreeiDの目指す世界
(手ぶらで、思い立った瞬間に行動できる世界の実現)
目指す世界へのロードマップ

【顔認証は、精度・利便性・安全性に優れた認証方法】

岡本:「顔」だけですべてのサービスが利用できれば確かに便利です。顔認証は、他の認証方法よりも優れているのでしょうか?

木村:もともとは、鍵や社員証を利用する所有物認証、パスワード等による知識認証が一般的でしたが、紛失や盗難、偽造、なりすましに対応するため、生体認証が登場しました。声紋や指紋、虹彩、静脈、DNAなど、生体認証にも様々な方法がありますが、声紋や指紋は健康や肌の状態に左右されますし、精度が高い認証方法ほど、手間やコストがかかります。

生体認証における顔認証の位置づけ

木村:鍵やカードを持ち歩いていた時代から、今はスマートフォンのアプリに移行しつつありますが、サービスごとにスマホを取り出し、アプリを立ち上げるのはやはり面倒です。「顔」は、かざすだけで認証できるため利便性にも優れています。また、今はメールアドレスや電話番号を変更すれば、アプリやSNSのアカウントはいくらでも作れるため、心無い誹謗中傷も問題化しています。しかし、「顔」は、たったひとつしかないため、偽名や異なるメールアドレス等で複数のアカウントを登録することは非常に困難です。真正性、セキュリティともに優れたアカウントが作れるのは顔認証のメリットのひとつだと思います。また、近年ではデバイスもコモディティ化してているため、コストパフォーマンスにも優れています。

顔認証技術による手ぶらで思い立った時に行動できる世界の実現

【海外・日本における顔認証の現状】

岡本:現在、顔認証は浸透してきているのでしょうか?

木村:海外では、特に中国では顔認証の導入が進んでいます。鉄道の改札やファストフードの決済などにも利用されていて、北京では90%以上の人々が顔認証を利用した経験があるという結果が出ています。そのほかにも、イギリスとヨーロッパを結ぶEURO STARでは、顔認証で乗車券の確認と出国審査を完了できるようになっています。アメリカ・フロリダのディズニーワールドでも指紋認証に加え、顔認証ゲートが設けられています。コロナ禍も追い風となり、非接触で本人確認や決済ができる顔認証は、世界各国で導入に向けた取り組みが進んでいます。

中国における顔認証の浸透状況

木村:一方で、顔認証は監視社会につながる恐れがあるため、導入に慎重な議論もあります。例えば、アメリカにおいて、警察が街中の防犯カメラの映像をもとに顔認証を行った際、黒人への誤認証率が高くなり、使用が制限されたことがありました。また、「顔」は個人情報のひとつですから、本人同意のない利用は各国で厳しく制限されています。ソーシャルメディア等から勝手に「顔」画像を収集したAI顔認識ベンチャーは、各国から制裁金の支払いと画像の削除命令を受けています。その点で、私たちのサービスは、ユーザー自らが利用したい場所やシーンを選択し、「顔」の利用を許諾するオプトイン形式のため、国内での個人情報保護の観点もクリアしています。

岡本:日本でも顔認証の導入は進んできていますか?

木村:日本は、顔認証技術でトップクラスの実績を誇っています。特にNECは、2021年に5度目の認証精度世界一を獲得されていますし、他の大手電機メーカー各社も非常に精度の高い技術を保有していて、世界各国で活用されています。国内では、東京オリンピックや富士急ハイランド、東京ドーム、羽田空港、JR西日本の改札、ホテルなど、様々な場所で顔認証サービスが利用され始めていますね。

また、顔認証導入に前向きな方も増えています。「つくばスーパーサイエンスシティ構想」において、顔認証に関するアンケートを実施したところ、全年齢層の過半数以上が「利用したい」と回答していました。実際に利用した方々も、施設の入館や決済、公共交通機関の乗降において、負担軽減や時短、利便性向上などの効果を実感されています。

国内における顔認証技術の利用意向調査結果

木村:実証実験の結果、顔認証の導入によって、施設利用や外出機会が増えたということも分かっています。顔認証は、リアルの世界での「人と人のつながり」を生むきっかけになっているのです。

国内における実証実験での調査結果(人の繋がりが産まれるきっかけ)

木村:しかし、まだ日本では顔認証が浸透し始めているとは言えません。顔認証が利用できるテーマパークであっても、今はチケットを購入して入場している方が大多数です。今の顔認証サービスは、利用シーンや場所ごとに顔認証システムやアプリが存在しているため、ユーザーはサービスを利用する度に、自分の「顔」を登録しなければなりません。何度も「顔」を登録するのは面倒ですし、いろいろなところに自分の「顔」が保存される不安もあります。業界や施設で顔認証サービスが閉じてしまっていることが、利用の浸透を妨げているのです。

【顔認証プラットフォームという独自のポジションを確立】

木村:そこで、私たちは、顔認証プラットフォーム「FreeiD」を開発しました。「FreeiD」に一度「顔」を登録したら、「FreeiD」に対応している場所やサービスで顔認証を利用することが可能になります。

顔認証エンジンには、専用デバイスで認証を行うエッジ型と、汎用タブレットで撮影した「顔」をクラウド上で照合し、結果を返すクラウド型の2種類があります。エッジ型は、認証速度が速いですが、「顔」を登録できる人数に上限があるため、マンションやオフィスなど、利用者が一定数特定されている場所に適しています。クラウド型は通信を使用するため、認証速度はエッジ型に比べて遅くなりますが、上限人数がないため、不特定多数が訪れる場所に向いています。駅やテーマパーク、自動販売機などがその一例です。

「FreeiD」は、様々な顔認証エンジンをAPIもしくはSDK(ソフトウェア開発キット)形式で繋ぎ込めるようにクラウドを構成しており、顔認証の利用用途によって自由に組み合わせることが可能です。また、「顔」を登録する時点で、画像が不鮮明だったり、顔のパーツが読み取れないような表情をしている場合は、再度登録を促すようなアルゴリズムも採用しています。

顔認証プラットフォームとしてのFreeiD
(1度の顔登録で様々なエンジン・サービスと連携)

大江:顔認証は一度登録すればあらゆる場所で使えるようなイメージを持っていましたが、サービス間が分断されていると聞いて驚きました。プラットフォームを提供している事業者は他にはいないのですか?

木村:現状、同様のビジネスを展開しているプレイヤーはいません。私たちは、これから「1億総顔認証ID時代」が来ると見込んで、顔認証エンジンやデバイスの開発ではなく、「顔認証プラットフォーム」というポジションを確立しました。現在では、ビジネスモデル全体をはじめ、各サービスでの特許取得にも注力しています。

【おわりに】

いかがだったでしょうか。今回は、「顔認証技術」をメインテーマとしてDXYZ社が手掛ける最新の顔認証プラットフォーム「FreeiD」の概要や国内外における顔認証技術の利用状況を中心にお話を伺いました。

在宅ワークが多くなって以降、ふらっと外出する際に財布やスマホ、家の鍵などを携行するのが手間になっていたので、DXYZ社の掲げる「手ぶらで、思い立った瞬間に行動できる世界」というビジョンには非常に共感しました。
顔認証といえば、iPhoneへの搭載で一躍世間にその存在が浸透した印象がありますが、諸外国に比べると、国内での利活用はまだ始まったばかりとのことなので、より便利な世界の実現を目指して、顔認証の普及に尽力していただきたいなと強く思いました。

インタビューの後編では、不動産業界や建設業界での顔認証の活用状況や更なる普及のための転換点などのテーマについてお聞きしているので、是非ご期待ください!