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Lightblue Technology・園田 亜斗夢氏インタビュー(後編)〜画像解析技術を用いた建設業界の生産性・安全性の向上〜

【はじめに】

前回に引き続き、株式会社Lightblue Technology 代表取締役 園田 亜斗夢氏のインタビュー記事をお届けします。後編では、AIを活用した人員配置の効率化や、遠隔臨場の実現によるビジョンまで、幅広くお伺いしています。

■プロフィール
園田 亜斗夢
株式会社Lightblue Technology 代表取締役
東京大学工学部卒業。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。東京大学大学院工学系研究科在学。AIの社会実装、レコメンダーシステムの研究を行う。人狼知能プロジェクトメンバー。人工知能学会学生編集委員。ビジネスコンテスト優勝、受賞歴多数。AI関連本執筆。

大江 太人
Fortec Architect株式会社代表
東京大学工学部建築学科において建築家・隈研吾氏に師事した後、株式会社竹中工務店、株式会社プランテック総合計画事務所(設計事務所)・プランテックファシリティーズ(施工会社)取締役、株式会社プランテックアソシエイツ取締役副社長を経て、Fortec Architect株式会社を創業。ハーバードビジネススクールMBA修了。一級建築士。

【作業員一人ひとりの動き・効率を可視化する】

岡本:定点で撮影したデータが蓄積されていくと、作業員の作業時間や休止時間を細かく把握できるようになるのでしょうか?

園田:そうですね。例えば、クレーンが稼働している時は、基本的にクレーンの操作を行うオペレーターと資材を受け取る人以外は作業がないと思います。ただ、現場には実際に作業を行っている人以外にも一定の人数は集まっていますよね。当社の画像解析を用いれば、現場にいる全ての作業者の稼働状況が分かるので、実は、荷下ろしした後に多くの工数がかかっているとか、このタイミングでは手が空いている人がいる、といった作業効率に関する情報を見える化できます。

例えば、1日に1.5tの鉄筋を運べる熟練の鉄筋工の方がいるとします。その方の代わりに、1日100kgの鉄筋を運べるアルバイトを15人入れたとしても同じアウトプットが出せるかといったら、そうではないでしょう。

だからこそ、納期に影響が出るようなイレギュラーなトラブルが起きた時、建築でも土木でも、単価の高い親方や優秀な集団に依頼をすることが多いと思います。ただ、それはあくまでも、”何となく”優秀だと感じているからなんですよね。実際は、普段お願いしている工務店の中にも、同じぐらいのアウトプットを出せる人が5人中2人くらいはいるかもしれません。

製造業の場合は、タクトタイム(1つの製品を作るためにかける時間)が利益に直結するので、この時間に近付けられるように人員配置をすることが、生産性向上につながるキーポイントになります。一方建設業の場合は、1人がこなせる作業量・作業スピードが異なるので、納期に合わせた人日計算が難しいのです。同じアウトプットを出すにしても、優秀な人を多く入れて作業時間を短くするか、効率的に業務を進めるために最適な人員数で運用するかなど、さまざまな打ち手があります。そういったキーポイントを探るためのデータを、映像から定量的かつ継続的に取っていけるのが、私たちのサービスの価値のひとつだと考えています。

大江:これまで現場の作業員一人ひとりの効率を定量化しようという試みは、ほぼ存在していないように思います。現場監督の感覚値ではなく、一人ひとりの働きを可視化できるとしたら、建設現場においても意味があると思います。

園田:直接的なインパクトとしては、見積もりがより精緻かつ適切になると思います。また、イレギュラーが起きた時の正確なリスク測定にも役立つでしょう。例えば、「納期に間に合わせるためには、このレベルの人材を何人追加する」といった判断や、入場できる人数が規制された際に「何人減らし、誰に休んでもらうか」といった判断に活用していただけるのではないでしょうか。

【生産性と安全性の向上は地続きにつながっている】

大江:今は、現場監督が毎日感覚で職人の出勤を調整している状況ですが、それを科学的にできたらおもしろいですね。

園田:現場がスムーズに進んでいる時は、感覚で調整していく方がお互いに余裕があってうまくいくかもしれません。ただ、イレギュラーな事態が起きた時に人員調整ができないのは非常に大変だと思います。

イレギュラーが発生した時には、スケジュールがタイトになったり、新しい人が現場に入ったりするため、事故が起こることが多いです。製造現場でも、ノルマが厳しい月や、納期が迫っている時期には軽微な事故が起こりやすくなります。人数に余裕があれば、ヒヤリハットの振り返りを行い、安全対策を講じることができますが、ギリギリの人員で回している現場では、振り返りをする時間はないでしょう。

事故の半数以上は、心の余裕がなくなったことによるヒューマンエラーが原因である、と過去のデータ分析からも分かっています。ですから私たちのシステムは、イレギュラーが発生した時に、「あと何人追加できれば十分間に合う」といった心に余裕を持てるものにしていきたいと考えています。作業データの可視化によって生産性が改善され、余裕が生まれることが、直接安全性の向上に資すると考えています。

岡本:生産性と安全性、双方を向上させる難しさを感じている事業者は多そうです。

園田:生産性と安全性の向上は相反するように見えて、実は地続きであると私は考えています。この考えに至ったのは、アメリカの労災の現状を知ったことが背景にあります。アメリカでは、景気が後退し、レイオフ(一時解雇)が起こるようになると、労災の件数が減るのです。これは、公共事業が目に見えて減少することに加え、自分がレイオフの対象にならないよう、作業員が事故の報告を上げなくなることが要因とされています。アメリカの社会制度上、経済基盤を失うことが貧困に直結するからだとは思いますが、日本の小規模な工務店や一人親方の方々も、少なからず同様の心理を抱くと思います。ですから、デジタルを活用して生産性を上げること自体が、安全性の担保や、労働者の経済基盤の強化にもつながると考え、開発に取り組んでいます。

【遠隔臨場によって、人々の働き方も変わっていく】

岡本:こうした最先端の技術が導入されることで、現在の労働安全衛生も変わっていきますね。お話を聞いていて遠隔臨場でも活用できると感じたのですが、そのあたりはいかがでしょうか。

園田:土木・建築の分野によって異なるとは思いますが、遠隔臨場にも活用できると考えています。例えば、トンネル工事は、「ダイナマイトで爆破して山を掘削する」「バックホーで土をかき出しトラックに積み込む」「コンクリートの吹き付けを行う」など、何通りかの作業工程を繰り返して進んでいきます。この作業状況は、カメラで遠隔で確認できると考えています。また、作業状況を撮影したデータの蓄積によって、作業サイクルと岩盤の状態の相関性が分かれば、山の特性や年代によって、工事進捗の推定や、工事におけるリスクも判定することができるのではないかと考えています。

また、リアルタイムで現場の状況が見られるようになれば、現場監督は作業員とのコミュニケーションにより時間を割けるようになりますし、週2日程度の在宅勤務も可能になるかもしれません。午前休を取得して病院に行ったり、子どもの行事に参加するといった世界も見えてくるでしょう。遠隔での勤務が可能になれば、現場配属や転勤を好まない若い世代の就職の選択肢に建設業界が入り、人手不足解消にも貢献できるかもしれません。

ただ、カメラで撮影したり、監視しているだけのサービスでは価値がありません。カメラでの確認は、人の目で見るよりも得られる情報は多少減るからです。しかし、人の目の場合、8時間しか状況を確認できないところ、カメラであれば24時間ラグタイムなく監視ができます。全国の現場を同時にリアルタイムで確認し、解析できるのであれば、人の目をアルゴリズムとカメラに置き換える価値は十分あると考えています。

岡本:最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。

園田:画像解析によって、映像を活用できるデータに変えていくことが、私たちの仕事です。構造化された映像データは、活用の可能性が何十倍、何百倍にも広がりますし、資産にもなり得ると考えています。

今私たちは、専用のカメラや特殊な機材を用いることなく、多くの人が持つスマートフォン等のデバイスでデータを活用できるようなアプリケーションの開発にも注力しています。これまでは大手ゼネコンやメーカーと一緒に行うR&D要素の強いプロジェクトが多かったのですが、今後はクラウド型監視カメラやANDPADなど、先進的なサービスを導入されている小規模事業者の方々との取り組みも進めていきたいと考えています。私たちのビジョン「デジタルの恩恵をすべての人へ」を実現するためにも、ANDPADのBIツールと連携もできれば嬉しいです。

【おわりに】

後編では、建設現場における職人の作業効率の見える化や安全性と生産性の関係性、遠隔臨場での活用可能性などのテーマでお話をうかがいました。

建設現場における作業員の作業効率を可視化できれば、作業の生産性向上だけでなく、見積もり精度の向上にも繋がるなど、非常に高い効果が見込めそうですね。
また、無理なく生産性を高めることで、心理的な安全が高められ、結果として安全性の向上にも繋がるというお話も大変興味深いお話でした。一般的に生産性の向上と安全性の向上はトレードオフの関係にあると思われがちですが、必ずしもそうではないのですね。
本研究所では、今後も建設DXに関わる様々なテーマを取り上げてご紹介しますので、引き続きよろしくお願いします!