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建設DXにかかわる法律・規制のイロハ①建設業界における電子契約の導入

【はじめに】

本日からコラム形式で、「建設DX」に関わる法規制について、ご説明・ご紹介していきたいと思います。特に法改正などの変化が多い領域であり、今テーマとして抑えていただきたい話題を中心に取り扱っていきます。読者の皆様が日々実務で触れる物事について、法的ポイントを的確に把握し、問題となりそうなポイントをいち早く発見、解決する方法を探る一助となれば幸いです。

さて、昨年来、新型コロナウィルスの流行をきっかけにリモートワークが一気に進み、これまで紙・アナログで対応してきた業務につき、デジタル化を検討している方も増えてきているかと思います。建設業界も例外ではなく、更に人手不足・高齢化といった業界課題もあいまって、「建設DX」の重要性が高まっています。
「建設DX」というと、工事の施工の現場におけるデジタル化を思い浮かべる方も多いかと思いますが、同時に、事務手続のデジタル化・ペーパーレス化も業務負荷軽減のためには影響が大きいのではないでしょうか。その1つである契約書の電子化について、今日は見ていきたいと思います。

【契約電子化に関する建設業界独自の規制】

実は建設業界においては、契約書の電子化について、建設業法上独自の規制が定められています。契約の電子化を進めるにあたっては、その規制の内容にも注意していくことが必要です。

01_建設業法19条1項_02

建設業法上、建設工事の請負契約の当事者は、所定の事項を「書面」に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならないという、契約締結義務が定められています(建設業法19条1項)。

上記のとおり書面での契約締結が原則ですが、一定の技術的基準を満たす場合には、電子契約の利用も可能とされています(建設業法19条3項)。
具体的にどのような「技術的基準」を満たす必要があるかについては、建設業法施行規則13条の4、及びガイドラインにおいて定められています。

・建設業法施行規則13条の4
第十三条の四 
1 略
2 前項に掲げる措置は、次に掲げる技術的基準に適合するものでなければならない。
一 当該契約の相手方がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものであること。(見読性の確保
二 ファイルに記録された契約事項等について、改変が行われていないかどうかを確認することができる措置を講じていること。(原本性の確保
三 当該契約の相手方が本人であることを確認することができる措置を講じていること。(本人確認措置
3 略

建設業法施行規則13条の4においては、電子契約が満たすべき「技術的基準」として大きく上記3つの要件、①見読性の確保、②原本性の確保、及び③本人確認措置があげられています。
上記のうち③の本人確認措置は、2020年10月1日の建設業法施行規則改正により追加されたものです。本人確認措置が追加されたのは、クラウド型の電子契約の登場という流れを受けて、これを認めるための新たな要件として追加されたものだと言われています。

・建設業法施行規則第13条の2第2項に規定する「技術的基準」に係るガイドライン(以下抜粋)
3.原本性の確保について(規則第13条の2第2項第2号関係)
・・・このため、情報通信技術を利用した方法を用いて契約を締結する場合には、以下に掲げる措置又はこれと同等の効力を有すると認められる措置を講じることにより、契約事項等の電磁的記録の原本性を確保する必要がある。
(1)公開鍵暗号方式による電子署名
・・・このため、情報通信の技術を利用した方法により契約を締結しようとする場合には、契約事項等を記録した電磁的記録そのものに加え、当該記録を十分な強度を有する暗号技術により暗号化したもの及びこの暗号文を復号するために必要となる公開鍵を添付して相手方に送信する、いわゆる公開鍵暗号方式を採用する必要がある。
(2)電子的な証明書の添付
 (1)の公開鍵暗号方式を採用した場合、添付された公開鍵が真に契約をしようとしている相手方のものであるのか、他人がその者になりすましていないかという確認を行う必要がある。
 このため、(1)の措置に加え、当該公開鍵が間違いなく送付した者のものであることを示す信頼される第三者機関が発行する電子的な証明書を添付して相手方に送信する必要がある。

建設業法施行規則13条の4の「技術的基準」については、国土交通省により更に詳細なガイドラインが出されています。ガイドラインにおいては、上記3つの要件のうち②原本性の確保について、公開鍵暗号方式の採用に加え、特定認証機関発行の電子証明書の添付が必要とされています。

【電子契約の種類について】

上記の建設業法上の規制を理解するにあたり、1つのポイントとなるのが、「そもそも電子契約サービスにどのような種類があるのか?」という点です。

02_電子契約の種類について

大きくは、ローカル型とクラウド型の2種類があります。
ローカル型は、電子署名の管理・付与をユーザーの手元において行うものです。電子契約の歴史はここから始まったといえますが、ICカードリーダー等の設備投資が必要で中小事業者には浸透しにくい・ICカードの管理の手間・紛失リスクなどの課題がありました。
これを受けて近時主流となっているのがクラウド型です。こちらはクラウドサービス上で電子署名の管理及び電子署名を付与するものです。
クラウド型にも大きく2種類存在し、契約当事者自身の署名鍵により暗号化等を行う当事者型と、契約当事者の指示に基づき、サービス提供事業者の署名鍵により暗号化等を行う立会人型があります。

上述のとおり、建設業法施行規則13条の4の改正は、クラウド型を念頭に置いたものと言われています。クラウド型においては、ローカル型と異なり、クラウドサービスを利用して電子署名の付与を行ったのが本当に契約当事者であるかを確認する必要があることから、この要件が追加されたというものです。すなわち、ローカル型に限らず、クラウド型のサービスも、上記本人確認措置の要件を満たしていれば「技術的要件」を満たすと考えられます。

では、当事者型と立会人型の区別についてはどうでしょうか。ガイドラインにおいては、②原本性の確保について、「公開鍵暗号方式に加え、特定認証機関発行の電子証明書の添付が必要」とされていますが、当事者名義の電子証明書が添付される当事者型に限定するものなのか、サービス提供事業者名義の電子証明書が添付される立会人型も認める趣旨なのかは明示していません。背景としては、ガイドラインが制定された平成13年時点においては「立会人型」のような新しいサービスはまだ出てきていなかったということがあげられます。

03_当事者型と立会人型

クラウド型のうち立会人型のサービスも認められるかという点については、上記のとおり建設業法施行規則・ガイドライン上では必ずしも明確ではないところですが、グレーゾーン解消制度において示されている解釈が参考になります
グレーゾーン解消制度とは、事業者が、現行の規制の適用範囲が不明確な場合においても、安心して事業活動を行い得るよう、具体的な事業計画に即して、あらかじめ規制の適用の有無を確認できる制度です。
グレーゾーン解消制度において、電子契約サービス提供事業者から国土交通省に対し、「クラウド型・立会人型のサービスが「技術的基準」を満たしますか?」という確認が行われており、国交省から、満たしますよという回答が行われている事例が複数出てきています(下記ご参照)。
国土交通省としては、当事者型に限定するという意図ではなく、立会人型のサービスであっても、建設業法上求められる技術的要件を満たす余地があると考えていることがわかります。

㈱ワンビシアーカイブズ【申請日】令和元年11月27日【回答日】令和元年12月26日 概要 国土交通省回答 照会書
㈱プラグ・イン【申請日】令和2年9月14日【回答日】令和2年10月14日 概要 国土交通省回答 照会書
㈱アンドパッド【申請日】令和3年3月5日【回答日】令和3年4月2日 概要 国土交通省回答 照会書

【最後に】

これまで見てきたとおり、建設業界における請負契約の電子化を検討するにあたっては、建設業法上独自の規制に注意する必要があります。具体的には、電子契約サービスであれば何でも認められるというわけではなく、建設業法上の「技術的基準」を満たすサービスを利用することが必要となります。電子契約サービスを導入検討される際には、コストや使いやすさなど色々な要素を比較して検討されるかと思いますが、その際の検討ポイントの1つとして、上記「技術的基準」を満たしているのかという法的な論点も考慮に入れていただけると良いかと思います。

なお、この記事でご紹介したのは、執筆日現在の規制の内容ですが、時代の変化や新しいサービスの誕生にあわせて、規制自体も見直しが進んでいるところです。
最新の規制の見直しの方向性などについても、「建設DX研究所」において引き続き情報発信していきたいと思っています。

(岡本 杏莉)

■著者プロフィール
岡本 杏莉
日本/NY州法弁護士。
西村あさひ法律事務所に入所し国内・クロスボーダーのM&A/Corporate 案件を担当。Stanford Law School(LL.M)に留学後、株式会社メルカリに入社。日米法務に加えて、大型資金調達・上場案件を担当。
2021年2月に株式会社アンドパッド 執行役員 法務部長兼アライアンス部長に就任。