見出し画像

セーフィー桜田氏、渡部氏インタビュー(後編)~クラウド録画サービスのトップランナーが語る建設業界における録画サービスの現状と未来

【はじめに】

前回に引き続き、セーフィー株式会社 桜田 忠弥氏、渡部 郁巴氏のインタビュー記事をお届けします。今回は、ハウジング領域での活用事例や、クラウド型映像プラットフォーム「Safie(セーフィー)」の各対応カメラの最新機能、今後の建設業界への展開などについてお伺いしています。

■プロフィール
桜田 忠弥
セーフィー株式会社 営業本部 第2ビジネスユニット部長
早稲田大学国際教養学部卒業。VCに新卒で入社し、ベンチャー投資やファンド運営、ファンドレイズ営業などを経験。その後、総合インターネットサービス会社での新規事業立ち上げに参加し、営業や物流・MD・マーケなど幅広い業務に携わる。キャリア3社目となる製菓メーカーグループでは、6年半で9カ国の海外拠点立ち上げを実行。2020年3月セーフィーへ入社。 「Safie Pocket2」の販売戦略・マーケティング戦略策定、パートナーセールス領域の営業企画を経て、第2ビジネスユニット部長に就任。現在は建設業界向けソリューションの企画・開発に尽力。
渡部 郁巴
セーフィー株式会社 第2ビジネスユニット ビジネスストラテジーグループ グループリーダー
筑波大学大学院卒業。学生時代は分子工学を専攻、医療分野におけるナノロボットの研究に従事。国内大手プラントエンジニアリング会社に新卒で入社し、中東や東南アジア、北米地域におけるプラント開発に参画。プロジェクト全体の進捗管理やリスクマネジメントを担うプロジェクトコントロールのポジションにて活躍。2021年5月、セーフィーへジョイン。パートナー営業部での戦略立案業務を経て、2022年より第2ビジネスユニット ビジネスストラテジーグループに所属。現在は、建設業界に「Safie」を浸透させるべく戦略立案やマーケティング等を担当。

「Safie」導入によって社員間のコミュニケーションが活性化

須田:「Safie」の各カメラは、ハウジング領域ではどのように活用されているのでしょうか。

桜田:分譲住宅の場合、一つの土地を区切って複数棟を建てていくケースは珍しくありません。定点カメラの「Safie GO(セーフィー ゴー)」シリーズには、レンズが上下左右に動き、ズームイン・ズームアウトができるパンチルトズーム機能を備えているモデルがあります。全区画を確認できる位置にこのカメラを設置しておけば、アプリから遠隔でカメラを操作し、複数棟の現場状況を確認できます。タブレットやスマートフォンで映像が見られる手軽さが好評で、ハウジング領域のお客様にも多くご利用いただいています。

Safie GOシリーズの特徴

渡部:大手企業に比べ、中小事業者の方が一人の現場監督が担当する棟数は多いと思います。現場間の距離が離れていても、カメラからの映像をリアルタイムに確認できれば遠隔での現場管理が可能になります。実際に移動時間の大幅削減を実現したお客様も出てきていますね。

桜田:「Safie Pocket2(セーフィー ポケット ツー)」は、元々ウェアラブルカメラとしてリリースしましたが、今は簡易的な置き型カメラとして活用しているお客様も多いです。SIMカードとバッテリーが内蔵されているので、当日職人さんが作業に入るエリアにポンと置いておけば、どこからでも作業状況を確認できます。小型三脚やアタッチメントを使って設置したりと、お客様も工夫して運用されています。

Safie シリーズの特徴

桜田:とあるゼネコンでは、「Safie Pocket2」にベテラン社員の名前を貼り付けて置いておき、それを若手の現場監督が持って行って現場巡回をしているそうです。「Safie Pocket2」を介せば、本社にいるベテランも現場の様子を確認できますし、何かあればすぐに相談したり、指示を仰ぐことができます。

「カメラで監視されている」と思うと良いイメージを持ちにくいですが、カメラに名前を付けることで「見守りツール」へと意識が変わります。今では、現場に「Safie Pocket2」を持って行かないと不安になると言われるほど利用が浸透しているようです。普段は話しかけづらいベテランに対して、若手がフランクに意見を求めるようになり、世代間のコミュニケーションも活発になったと聞いています。DXによって社員間の行動にも変化が生まれている好事例のひとつです。

お客様のニーズを叶える製品を開発し続ける

須田:建設現場での利用状況をふまえて改善しているポイントはありますか?

桜田:当社は、お客様の声を最も大切にしていますので、さまざまなご要望を叶えるために日々改善に取り組んでいます。今回も、約2年半にわたって「Safie Pocket2」をご利用いただいたお客様の声を詰め込み、次世代機「Safie Pocket2 Plus(セーフィー ポケットツー プラス)」を開発。2023年5月に発表し、6月から順次提供していく予定です。

Sefie Pocket2 Plusの特徴

桜田:大きな変更点としては、モバイルバッテリーからの給電利用が可能になった点です。「Safie Pocket2」のバッテリー駆動時間は最大8時間なのですが、通信環境によっては消費電力が高くなって8時間持たないことがあり、お客様からも『長時間撮影したいので常時給電できるようにしてほしい』とご要望をいただいていました。そこで「Safie Pocket2 Plus」では、防水性も担保しながらモバイルバッテリーからの常時給電を可能にしています。

また、音声通話機能も強化しています。「Safie Pocket2」は、遠隔地とライブ通話をする際に、Bluetoothのヘッドセットをつけた現場担当者しか会話に参加できない仕様になっていました。そこで、「Safie Pocket2 Plus」では、現場にいる複数人が同時に通話に参加できるよう本体内蔵のマイクスピーカーで会話ができるように改善しました。

『移動しながら撮影する場合、映像が上下にぶれて酔ってしまう』との声にも応え、手ぶれ補正機能を追加し、長時間のモニタリングを可能にしています。さらに、最大8倍までのデジタルズーム機能も搭載し、対象物に近づけない場合も遠隔から撮影できるようにしました。

渡部:ビューワーも常にバージョンアップしています。遠隔臨場の実施については、国土交通省が基準となる実施要領を出していますが、自治体によっては当該要領の内容にローカルルールが追加されている場合があるため、自治体ごとのニーズに対応する必要が出てきています。例えばある自治体では、遠隔臨場に立ち会う発注者の顔を画面上に表示し、担当者立ち会いの証拠を残さなければなりません。当社ではこの要望に応えるため、カメラを使いながらビューワー上に担当者を表示できるように改善しています。

AI活用によってデジタルツインの実現を目指す

須田:今後はセーフィーのクラウド上に蓄積された映像データの活用も推進していくとのことですが、新たにスタートしている取り組みがあれば教えてください。

渡部:AI関連サービスを提供している株式会社Ridge-iと業務提携し、リモートで現場の危険予知を監視するサービス「RiNoCA」をスタートしています。セーフィーのクラウドカメラで撮影した映像をAIで解析し、立ち入り禁止エリアへの進入や作業員の転倒など、普段と異なる動作を検知してアラートを出し、労災を未然に防ぎます。

また、ARグラス用のディスプレイや3Dモデルを簡単に作成・閲覧できるソフトウェアを開発しているCellid株式会社とも共同で実証実験を進めています。「Safie Pocket2」で撮影した映像とVisual SLAM(カメラから得られた映像データから自分の位置や姿勢、周辺の物体の位置情報を三次元で把握する技術)を連携して点群データを取得し、3Dモデルの作成を容易にするシステムです。レーザーで点群データを取得するのは手間がかかりますが、常に携帯している「Safie Pocket2」のカメラで点群データを取得できるようになれば利便性は大きく向上します。

桜田:今後セーフィーのクラウドに多くのカメラがつながっていけば、1日の大まかな出来形を簡単に把握できる世界を実現できると思います。まだ実証実験段階ではありますが、映像を活用したデジタルツイン実現への第一歩になっていると思います。

Visual SLAMとの連携による点群データ取得と3Dモデル作成

渡部:最近は、ポイントを絞ったソリューションではなく、建設業界の業務プロセスをまるごと代替できるサービスの開発にも力を入れています。現在進行しているのは、土木工事現場での交通量調査業務の代替です。セーフィーの定点カメラで車両をカウントし、データ解析をするサービスをパッケージとして提供したいと考えています。現場に既に設置されているセーフィーのカメラを利用するので、交通量調査を委託する外注費削減につながると見込んでいます。

建設業界を若く優秀な人材が集まる業界へと変えていきたい

須田:今後の建設業界への関わり方、展望についても教えていただけますか。

桜田:当社やアンドパッドなどのさまざまな企業と協力して建設業界を「かっこいい」業界にしていきたいですね。建設業界は、市場規模約50兆円、国内二番目の巨大産業であり、今後も大事にしなければならない産業です。若い優秀な人たちが「建設業界ってかっこいい」と感じ、参加するようになれば、人手不足も解消し、国力も上がっていくでしょう。当社は現在、この想いをベースに戦略立案や意思決定を進めており、経営陣や企画メンバー、エンジニアなど、社内全体を巻き込みながら、建設業界の発展に貢献していく考えです。

渡部:とはいえ、今私たちが価値提供できているのは、施工中の安全管理や工事進捗の把握、品質管理にとどまっていると感じています。今後は設計の3Dモデルとリアルな映像データを繋ぎ合わせたデジタルツインの構築によって、プロジェクトマネジメント全体への貢献を目指したいです。

また、大手ゼネコンは、竣工後の維持管理にも注力し、事業の柱を作ろうとされています。私たちも建設業界の皆さんと目線を合わせて、今後は維持管理にも寄与できる映像サービスを開発していきたいです。壁や床の中といった隠蔽部の確認にも施工中に記録した映像が活用できるのではないかと考えています。

桜田:今後は、映像などのさまざまデータや解析アプリケーションがセーフィーのクラウドに集まるプラットフォームへと成長することを目指しています。建物内で働く人、暮らす人がより便利に感じられるような環境を作っていけるように、建設時にセーフィーのクラウドカメラをあらかじめ導入していただけるような存在になっていきたいですね。

須田:最後に読者の方々にメッセージをお願いします。

渡部:建設業界のお客様と日々向き合う中で、皆さんのDXに対する意識の高まりを感じ、レガシー産業と言われてきた建設業界が大きく変わりはじめていると実感しています。遠隔臨場の本格運用開始など、国側の本気度も高まっています。私たちも皆さんと一緒になって、真摯に開発に取り組んでいきたいと思います。

桜田:今回は大手企業の事例を多くご紹介させていただきましたが、「Safie」シリーズは中小規模のお客様にも非常に多く導入していただいています。私たちは「建設業界全体の課題に立ち向かいたい」と思い、日々開発に取り組んでいます。真摯にお客様に向き合っている会社ですので、何かお困り事があったり、チャレンジしてみたいことがあれば、ぜひお気軽にご相談いただければ嬉しいです。

【おわりに】

後編では、ハウジング領域での活用事例や「Safie」シリーズの最新機能、今後の建設業界への展開についておうかがいしました。

お客様のニーズを叶えるために提供製品・サービスの不断の改善を図る姿勢は、カスタマーサクセスを信条とするSaaS企業のあるべき姿を体現されているなと感じました。
また、目の前のニーズに応えるだけでなく、お客様に対して新たな価値を提供するため、最新技術を取り入れた様々な実証実験やBPaaS(業務プロセスそのものをクラウド経由でアウトソースできるサービス)などの検討もされており、建設業界に対する熱い思いをひしひしと感じました。
建設業界を「かっこいい」業界にするため、ともに時に切磋琢磨し、時に協調していけるとよいですね。

個人的には、『カメラに名前を付けることで「見守りツール」へと意識が変わる』という点が、人間心理の妙味が感じられて、非常に興味深かったです。読者の皆さんの中で、カメラを利用されている場合には、ぜひ名前を付けてみてはいかがでしょう!?

本研究所では、今後も建設DXに係る様々なテーマを取り上げてご紹介しますので、引き続きよろしくお願いします!