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グリーンインフラがつくる国土と賑わい

【科学技術振興政策における重要テーマ~グリーンイノベーション】

新年度予算案などを審議する今年の通常国会が1月17日から始まっています。年明けから急速に拡大している新型コロナウイルスのオミクロン株への対応を最優先課題としつつ、コロナ禍からの経済再生に向けた様々な政策について議論が行われていますが、コロナ禍からの経済復興に向けて特に充実化が進められているのが科学技術振興に関わる政策です。科学技術振興に関する予算は、令和4年度の概算要求時点で過去最高の1.3兆円(令和3年度より+223億円)を見込んでいます。科学技術は全ての経済活動の根幹にあるといっても過言ではなく、宇宙利用開発のような未来的な壮大なテーマからデジタル・AI・次世代半導体のように、日本の国際競争力強化のために政策として重点的に支援すべきテーマもあります。科学技術振興に関するテーマのうち、近年世界的に関心が高まっているのが気候変動対策としてのグリーンイノベーションです。

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令和4年度政府予算のポイント(財務省H Pより)https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2022/seifuan2022/01.pdf

【グリーンイノベーションの実現に向けて~グリーン成長戦略】

年々深刻化する気候変動と異常気象への対処として、特に先進諸国イニシアティブによるゼロエミッション、つまりCO2排出量ゼロの達成に向けた取組みが進められています。2019年には欧州委員会が脱炭素化と経済成長の実現に向けた約2兆円規模の欧州グリーン・ディールを掲げ、2050年までのカーボンニュートラルを発表しました。日本でも2020年10月に当時の菅首相が2050年のカーボンニュートラル実現を表明し、2021年4月の気候変動サミットではより挑戦的な指標として、2030年度の温室効果ガス46%減(2013年度比)を表明しています。こうした野心的な目標達成のため、政府はグリーンイノベーションを官民協働で促進するための計画として「グリーン成長戦略」を策定し、エネルギー関連産業、製造・輸送関連産業、家庭・オフィス関連産業といった足下からの実行性が比較的高い分野において取り組みを推進しています。

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グリーン成長戦略において定められた重点14分野(NEDO HPより)
https://www.nedo.go.jp/content/100930089.pdf

グリーン成長戦略のうち、建設分野に直接関わるものとしては、大きく⑧土木インフラ分野、⑫住宅・建築分野があげられます。⑫住宅・建築分野については次回別途記事において詳細を見ていきたいと思いますが、本稿では⑧土木インフラ分野についてご紹介したいと思います。

【土木インフラ分野~グリーンインフラ】

グリーン成長戦略には、土木インフラ分野のグリーン化促進によるカーボンニュートラルへの貢献も位置づけられています。まず足下的に脱炭素化が進むのは建設現場の施工の効率化やEV/FCV建設機械等の推進、資機材輸送の効率化などで、一部はDX化の波によって既に取組みが進んでいます。一方で中長期的な取組み強化が見込まれるのが「グリーンインフラ」という分野です。

あまり聞きなれないグリーンインフラという言葉ですが、身近な例えだと壁面緑化のことです。壁面緑化を取り入れることで、従来はコンクリート壁等によってこもってしまっていた都市部の熱を減らせることが知られています。この考え方を拡大させ、都市部を覆っているグリーンインフラ、つまりコンクリートなどの人工被覆を緑化させていくというのがグリーンインフラの考え方で、国土交通省ではグリーンインフラ官民連携プラットフォーム(2020年3月設立)において、「社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組」と定義しています。グリーンインフラ官民連携プラットフォームが策定しているグリーンインフラ事例集(2021年3月)には、優れたグリーンインフラへの取組み事例として、東京都千代田区の丸の内仲通りの「丸の内ストリートパーク2020」が紹介されており、都心道路空間の緑化による夏の地表面温度低下が実証されています。

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丸の内ストリートパーク 2020(グリーンインフラ事例集より)
https://green-infra-pdf.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/GI事例集_ver2.pdf

面的に考えれば、都市部のCO2吸収源となるグリーンインフラですが、都市部を緑化することで得られる効果は単なる環境負荷逓減だけでないことが知られています。以前ご紹介した「流域治水」の考え方もグリーンインフラと関係性が深く、遊水地や防災林など自然が本来有している治水機能・保水機能を活用して防災・減災へ繋げていくことが可能です。同時に、河川・道路といったインフラを緑化によって心地よく過ごしやすい、開かれた空間に再編することで賑わいを創出し、「丸の内ストリートパーク2020」のように民間資本を呼び込んでいくことにも繋がります。このようにグリーンインフラが持つ様々な機能を、先述のグリーンインフラ事例集では、防災・減災部門、生活空間部門、都市空間部門、生態系保全部門の4分類して事例化して紹介しており、グリーンインフラによってもたらされる恩恵が環境負荷逓減に限らないことが強調されています。

緑地整備それ自体は目新しいものではなく、昔から緑豊かな河川敷や公園には人が集まり、豊かな経済活動が発展していきました。グリーンインフラの考え方は、そこに「自然の機能を活用したインフラ整備」という新たな軸を加えることで、賑わいから環境・防災の課題により組むステークホルダーを増やしていくことも狙いの一つとしています。環境・防災の課題を投資の力を借りながら解決するソリューションを、災害大国日本が世界に提案していくキーワードとして今後もグリーンインフラに注目が集まります。

【終わりに】

最後に、グリーンインフラの参考になる一例として、緑による賑わい創出を実証した、とあるプロジェクトをご紹介します。設計事務所ワークヴィジョンズの代表西村浩さんは故郷佐賀の街中再生を市から依頼された際、「空き地」が持つ価値の広がりに着目しました。都市の衰退に伴って街中に急増していった空き地の多くは低・未利用地として月極駐車場になっていました。西村さんは空き地に建物を建てることなく、空き地のままで何かできないかと考え、試しに空き地に芝生をはって「原っぱ」にしてみたそうです。しばらくすると、散歩やちょっとした集まりのスポットとしてこの原っぱを中心に賑わいが生まれました。次第に原っぱを中心とした歩行者の回遊が生まれ、原っぱがある商店街に出店する事業者も現れたのです。

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わいわい!!コンテナプロジェクト
空き地を原っぱにして、「わいわい!!コンテナ」を置き、国内外の雑誌や絵本、マンガだけが置かれる小さな図書館とお母さんたちが子どもの様子を眺めながら過ごせるオープンデッキをつくった。

緑が経済的、社会的に付加価値を生み出す空間となりうることを示したユニークな試みでした。グリーンインフラは公共空間の緑化という意味では行政主導の取組と考えられてしまうかもしれませんが、空き地を原っぱに変えていくことは町内会や商店街といったスケールでも始められる取組です。町おこしや商店街再生の1つの手段としても、空き地や駐車場の原っぱ化が広まっていくことを期待されます。

筆者プロフィール
鎌倉一郎
元国交省職員。現在は国内大手メーカーにて公共政策を担当。