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建設DXに関わる法律・規制のイロハ 弁護士・秋野先生にインタビュー③ ~建設DXに関わる法規制や新技術の最新動向(前編)

【はじめに】

今回は匠総合法律事務所・秋野卓生弁護士へのインタビュー第3弾(前編)です。

本インタビューでは、建設DXに関わる法律・規制や新技術の最新の動向について、幅広く様々な観点から迫っています。過去のインタビューに負けず、とても興味深いお話を伺うことができましたので、是非ともご一読いただければと思います。

【過去インタビューの記事はこちら】
 ① 建設業界における電子契約
 ② IT重説の運用によって実現する働き方改革
(プロフィール)秋野 卓生
弁護士法人匠総合法律事務所 代表社員弁護士。主に建築に関わるトラブル処理を担当。日本全国の住宅会社や工務店を法律面でサポートしている。著書には、『建設業法の課題と実務対応 電子契約化への法的アプローチ』(新日本法規出版)など。

【動画の活用とBIMの発展により、遠隔臨場の実現性は高まる】

――――DXの流れでは、書面主義や押印原則の見直しだけではなく、人手不足に対応するため、「人」に関する制度の見直しも進んでいます。特にドローンやウェアラブルカメラなどによる遠隔臨場に係る取り組みが注目されていますが、実効性はあるのでしょうか?

秋野弁護士:建設業法と建築士法、労働安全衛生法が、遠隔臨場に関する法律的な論点になると思います。国土交通省は、公共工事の現場でICTを活用し、生産性向上を目指す「i-Construction」を以前から推進していますので、建設業法上の問題はおそらくクリアできるでしょう。建築士法についても、建築主と設計者の工事監理委託契約の中で、デジタルで工事監理を行うと合意すれば問題ありません。

私が一番頭を痛めているのが、労働安全衛生法の要請事項である「巡視」(※1)を、いかにデジタルで対応するかです。安全衛生パトロールは、定期的に抜き打ちで行うからこそ安全性が担保できる性質のもので、ヘルメットや安全帯をつけた職人の写真を撮影し、報告を上げたとしても、その後に装備を外されてしまったら意味がないので、画像のみを介した確認の信頼性には限界があります。

(※1)労働安全衛生法30条1項3号は、労働災害の防止のため、事業者に対して作業場所の「巡視」を義務づけている。

そこで私が興味を持っているのが、動画です。動画で現場の状況を常時撮影しておき、元請けが事業所でいつでも確認できる環境にしておけば、労働安全衛生法の要請事項もクリアできます。動画の保存容量といった技術的な問題はあるかもしれませんが、防犯カメラやドライブレコーダーの発展を見れば、対応可能なのではないでしょうか。写真から動画への切り替えが、遠隔臨場の実効性を高める鍵のひとつだと考えています。

また、現在行われている目視や写真撮影の代替手段を検討する上で建設業界に最も貢献する技術となるのは、BIM(※2)だと予想しています。例えば、職人のヘルメットにつけたウェアラブルカメラで、現場の状況を撮影したとします。この動画とBIMとを自動照合できるようになれば、現場の作業進捗がリアルタイムで分かるようになります。GPSの技術開発が進み、平面の情報だけでなく、高さも含めた立体的な位置情報まで分かるようになれば、職人がマンションの何階で作業しているかも把握できるでしょう。

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(※2)BIM(Building Information Modeling):コンピュータ上に作成した主に三次元の形状情報に加え、室等の名称・面積、材料・部材の仕様・性能、仕上げなど、建物の属性情報を併せ持つ建物情報モデルを構築するシステム(参考:国交省資料)。

――――労働安全衛生法の「巡視」については、現行の抜き打ち検査よりも、常に現場を監視する方がより安全性は高まりそうですね。

秋野弁護士:そうですね。現場で作業が行われる日は、元請けが毎日少なくとも1回は現場を巡視に行くのが現行法のルールですが、実際にこれを実行するのは難しく、多くの現場で違反が起きているのが実状です。大規模工事は、現場事務所を置くことで毎日確実に現場へ足を運ぶようになっていますが、そうではない住宅業界など中小規模工事の巡視については実施が難しい場合が多いと思います。特に、職人ひとりだけが作業を行うような日にも元請けが巡視に行くのは現実的ではないですし、労災事故防止のためにも作業状況を動画で撮影し、Web上で管理することが望ましいでしょう。安全衛生パトロールも、元請けが1日1回動画で状況を確認できれば、抜き打ち検査と同等の意味を持つと思います。
ルールと実態が乖離している状況をデジタルの力で変え、より安全性を高めていきたいですね。

【ドローンの活用は、住宅業界に大きなインパクトを与える】

――――遠隔臨場に係る取り組みの中で、特に住宅業界にメリットをもたらしそうな技術領域は何でしょうか。また、導入の障壁となる現行法の規制や、今後の改正等に向けた動きがあれば教えてください。

秋野弁護士:私が最も注目しているのは、ドローンです。ドローンは、土木の公共工事では早い段階から導入が進んでいます。特にダムの保守・点検など、今まで人が命がけで目視・確認していた作業をドローンが代替することによって、安全性が高まり、業務効率も上がっています。国もドローン活用に向け、航空法を一部改正するなど法整備を進めており、現在では、ドローンの機体登録の義務化、操縦者の免許制度の整備なども進んでいます。

私は、住宅業界にドローンを導入するなら、BIMとの連動が不可欠だと思っています。上棟のタイミングでドローンを飛ばして、BIMの3次元データと照合すれば、安全に点検が行えるだけでなく、現場の作業進捗も一目で分かります。ただ、法改正は進んでいるものの、日本は住宅地に電線・電柱が多く、ドローンの実用化が難しい現状があります。電線を地中に埋設する無電柱化も推進されていますが、日本全国に広がるのは、まだ遠い未来の話です。まずは、最初から無電柱化を進めているスマートシティ(※3)で、ドローンを活用した住宅点検を行うのが現実的かもしれません。

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(※3)スマートシティ:都市が抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区(国交省都市局の資料における定義)(参考:スマートシティ官民連携プラットフォーム)。

【中間検査や完了検査の遠隔臨場は可能になるか】

――――建築基準法の中間検査や完了検査では、「目視」が原則となっており、ドローンやウェアラブルカメラ等での遠隔臨場が認められていません。今後、これらが技術的に認められることはあるでしょうか?

秋野弁護士:私は、こういった検査にこそ、最新技術を活用すべきだと考えています。中間検査や完了検査は、適法・違法を確認する検査ですから、遠隔臨場でも十分対応が可能だと思います。現在、建築確認検査員は人手不足が深刻です。定年退職後のセカンドキャリアとして、建築確認検査員に就く人が多いため、高齢化が進んでいます。若手を積極的に育成する会社がある一方、人手不足に対応するために、定年を80歳まで引き上げる会社も出てきています。建築確認・検査も、早期に遠隔臨場を認めて欲しいですね。

――――エレベーターなど、動作確認が必要とされる検査においては現場臨場が必須となっています。これも遠隔臨場が認められる可能性はありますか?

秋野弁護士:エレベーターの場合、単純に昇降ができるだけではなく、「ピット部分に水が溜まっていないか」なども確認する必要が出てきます。ですから、周辺環境も網羅した上で安全性基準をクリアできる検査システムを構築していく必要があるでしょう。また、悪質な業者が動画や写真を改ざんする可能性もあります。そのため、遠隔での検査を行う上で、不祥事リスクを漏れなく排除する仕組みを作ることが非常に重要です。

【終わりに】

以上、遠隔臨場に関する議論を中心に、新技術と様々な規制について伺ってきました。実効性のある遠隔臨場を実現するためには、BIM、ドローン、ウェアラブルカメラ等のテクノロジーを活用しつつ、不祥事リスクを以下に排除できる仕組みを構築するかが鍵となってくるでしょう。

近日、本インタビューの後編も投稿予定のため、そちらについてもご期待ください!