線香花火

今年も夏が終わろうとしている。

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彼女と出会ったのは、夏が始まろうとしている、よく晴れた爽やかな青空の日だった。

笑顔とショートボブがよく似合う女の子だった。

何度か連絡を取り合っているうちに、彼女に恋をしているんだと自分でも気づいた。
もう8月に入っていた事もあって、真夏の雰囲気がボクをそう錯覚させたのかもしれない。

夏の間彼女とは友達4〜5人でよく遊びに行ったけど、気がつくと視線は彼女ばかりを捉えていた。

その日も彼女とメールをしていて、ふと思った。今気持ちを伝えないと、この恋はこのままになってしまう。

もう夏も終わりに差し掛かっていた頃だった。

その勢いのまま、翌日の地元の花火大会に誘ってみた。
メールの返信を祈るような気持ちで待っていると意外にもすぐに返ってきた。

「いいよ!楽しみだね^_^」

飛び上がりそうなくらいの感情を抑えて、冷静に返信をして嬉しさを噛みしめながら眠りについた。

翌日、18時に駅で待ち合わせ。
昨日買ったばかりの新しい靴を履いて、彼女と会場へ向かう。横目に見る駐輪場はいっぱいで多くの人でごった返していた。

川岸の土手に何とか場所を確保して花火を見る。
彼女と2人きりで会うのは初めてで、緊張して上手く話そうとするけど、カラ回るばかりだったが、夏の夜空に打ち上がる花火が2人の時間を埋めてくれた。
打ち上げ花火はどれも綺麗で、たまに横目で見る彼女はボクの気持ちをよそに花火に見とれていた。

1時間ほどの花火はあっという間に終わり、多くの見物客が駅へ流れていく。

そんな流れを回避すべく、屋台でかき氷を買ってしばらく川岸で時間を潰す事にした。

イチゴのかき氷を頬張っていたら彼女が急にケタケタと笑い出す。
どうやらイチゴシロップでボクの舌が真っ赤になっていたみたいだ。
彼女の前ではカッコいい男でいたいと振る舞ってきたけど、カラ回りする会話やダサいボクを客観的に見てしまった気がして。
些細なことだけど、ボクには笑えなかった。

この日
ボクはキミに想いを伝える事はなかった。

それから彼女とは会うことはなくなった。

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あれから3年が経とうとしているのに、ボクの中には消えそうで消えないキミがまだいる。
もう間に合わない事はわかっているのに。。。

あの日、夏の夜に漂っていた、むせ返るほどの夏草の匂いを感じる度にきっと来年も友達だったキミを思い出してしまうのだろう。

線香花火の最後の火が落ちるその時までは。

https://youtu.be/iuocGU554sE


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