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iOSで開封率が取れなくなる未来に僕らはどう対処すべきか

2021年6月に開催されたApple社のディベロッパー向けイベント「WWDC21」にて(メールマーケティングに関わる人にとっては)衝撃的な発表がなされました。

"In the Mail app, Mail Privacy Protection stops senders from using invisible pixels to collect information about the user. The new feature helps users prevent senders from knowing when they open an email, and masks their IP address so it can’t be linked to other online activity or used to determine their location."

~Mail appのメールプライバシー保護機能は、送信者が目に見えないピクセルを使用してユーザの情報を収集することを防ぎます。この新機能により、ユーザがいつメールを開いたかを送信者に知られることを防ぎ、また、受信者のIPアドレスを隠すことでその他のデジタル施策との関連付けや、位置情報を特定されないようにします。~

端的に言うと、「今後徐々にiOS標準のメールアプリを使用している読者の開封情報が分からなくなる」ということです。

メールマーケティングにおける主要KPIの一つである「開封率(開封数 / 配信成功数 × 100)」の数値に大きく影響が出ることは間違いないですし、開封情報をもとにシナリオを組んでメール配信を行っている企業では、そのシナリオが無効になります。

あまりの衝撃に僕が気絶している間に、株式会社プリンシプルの似田貝さんが素晴らしい記事を書かれておりました。(こちら必見です)

~ まとめ より ~
・多くのiOS 15デバイスで開封数が意味をなさなくなってしまう
・2021年内には8割近くのユーザーで影響が出る
・計測者がこれを回避することは難しい
・開封数(及びこれに関連する指標)を用いた分析やテストには工夫が必要
・自社のiOS比率・HTMLメールの比率から、どの程度のインパクトになるのかを知ることが必要
・メールマーケティング施策の計測指標として、サイト側データの重要度が上がる

似田貝さんのおっしゃる通り、計測者側がこれを回避するのは難しいでしょう。これは、サービス提供者側として言い訳をしているわけではなく、2018年に欧州でGDPRが施行されるなど、世界中でプライバシー保護についての機運が高まっているなか、抜け道を探すような行為は企業の姿勢として無責任であり、個人的には邪悪ですらあると思います。

Appleは他企業に先駆けてプライバシー保護に向けて動いただけであり、他の企業もこれから追従していく事は想像に難くありません。

それこそ今後、開封率という考え方自体がなくなる可能性すらあるということです。

開封率ってどれほど重要?

メールマーケティングにおける主要KPIは5つあります。

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開封率とは「相手先に届いたメールのうち開封された割合」であり、メールマーケティングの世界では「配信リストのうちどれくらいの割合の人がメールを読んでいるか」というのを測る指標として使われています。

そもそもこの開封率というものは、HTMLメール内に見えないサイズの画像データを埋め込み、メールを開いたときにその画像を読み込むことで発生する通信データを分子としてカウントしています。

つまり、下記のようなケースではもともと開封が計測出来ていません。

・テキストメールとして受信した場合
・HTMLメールの画像を非表示にしている場合

また、開封したけれども読んでいない人(メールの未読マークの存在を許せない僕みたいな人)や、セキュリティソフトによる開封というケースもあります。

つまり、開封した = 読んだ と決めつけて行動をするのはいささか早計であると言わざるを得ません。

メールマーケティングの成果は態度変容

企業が自社のリソースを割いて行うメールマーケティングの成果は、間接的な効果ではなく、実際に「態度変容」を起こした読者の数で測るべきであると常々申し上げておりますが、そのゴールの一番近いポイントにあたるKPIは「クリック」です。

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そして、Appleの仕様変更後でもクリックについては引き続き計測が可能ですのでご安心ください。

今後の提言

今回のAppleの仕様変更は、配信リストのうちiOSの標準アプリを使用している読者の開封が正しくカウントできなくなる(未開封でも開封と出る)というものですが、実際にどれくらいの影響が出るかは企業によって異なります。
私の予想では、最終的にはBtoB企業ではリストのうち15%、BtoC企業では30%ほどが影響が出るのではないかと思います。

今回の仕様変更では、読者が未開封であっても開封データが送られてくるということなので、開封を元としたオートマチックなアクション(シナリオメール等)は停止したほうが良いでしょう。

また、開封を元としたアクションを手動で行っている場合は、読者の受信デバイス(iOSなのかどうか)によってアクションを分ける必要があります。

また、開封率や反応率(クリック数 / 開封数 × 100)の推移を記録しているのであれば、開封率は上昇・反応率は減少するので、仕様変更の影響を見込んで記録しておく必要があります。

最後に

今回のApple社の仕様変更にショックを受けた企業はとても多いでしょう。

しかし、もともと「開封データ」というものはアクションのトリガーとしては不完全なデータであり、本来の用途である参考指標の域を出ないものであるということが再確認されただけです。

メールマーケティングの運用で一番大事なのは「いかにクリック数を最大化するか」であり、その手前の”開封”はそれほど重要ではありません。
そもそも 開封数が多い = クリック数も多くなる というものではありません。

「弊社の開封率はおよそ30%ほどですので、クリック数から計算するに今回の反応率は低かった/高かったです。ですので、次回は○○していきましょう」というように、メールマーケティングのオペレーションはこれまでとそう変わりません。

とはいえ、今回の仕様変更が今後すべてのプラットフォームに波及する未来もあり得なくはないので、開封に頼らない戦略を用意しておきましょう。