憲法審査会 2023年6月15日 議事録

◆衆議院法制局の説明

橘幸信(衆議院法制局長)
衆議院法制局の橘でございます。会長のご指示に基づきまして、私ども衆議院法制局と神崎一郎事務局長を始め、衆議院憲法審査会事務局の皆さんとの共同で、お手元配布の論点資料を取りまとめさせていただきました。
この資料はあくまでも事務方の責任で取りまとめたものですが、幹事懇談会でご報告の上、各会派においてもご確認いただいてるものでございます。さて、資料の内容報告に入る前に、資料取りまとめの基本方針についてご確認いただきたいと存じます。まず資料の形式につきましては、昨年12月1日の論点整理ペーパーにならって、各論点ごとの先生方のご発言のポイントやその比較がわかりやすくなるように、比較対照表の形式とし、同趣旨のご発言をまとめる形で要約させていただきました。ご発言の趣旨に違わないよう客観的かつ公正中立に要約したつもりですが、要約作業の性格上、先生方のご発言の微妙なニュアンスまでは表現しきれていない部分があるかと存じます。予めご容赦願います。次に資料の内容に関しましては、次のような観点から論点整理をさせていただきました。第一は、取り上げるご発言の範囲についてですが、一、前回論点整理をさせていただきました昨年12月1日以降のご発言を中心とし、今国会の3月2日から先週6月8日まで合計14回の憲法審査会の議事録を参照しつつ、先生方の緊急事態に関するご発言を対象として分類整理をいたしました。また2つ目として、基本的に各会派の一巡目の先生方のご発言を中心としつつも、当該論点について一巡目の先生方のご発言が無いような場合には、補充的に二巡目以降の先生方のご発言も対象といたしました。第二に、分類整理の基準となる論点項目の設定についてですが、これも基本的には昨年12月1日の論点整理ペーパーの分類を踏襲いたしました。ただし今国会では参議院の緊急集会の位置づけについて、深掘りした議論が行われ、これに関連する論点ご発言がかなり多く見られましたので、この部分については論点を細区分してございます。先生方の議論の趣旨と修正ができるようにわかりやすく反映されるように致したつもりでございます。
以上、よろしくご理解のほどお願い申し上げます。
それでは早速、内容のご報告に入って参りたいと存じます。お手元配布の資料をご参照願います。
今回特に深掘りした議論が行われたのが、「一、参議院の緊急集会について」でございます。1の「総論」をご覧ください。まず自民、公明、維新、国民、有志の5会派の先生方は①の制度趣旨について、参議院の緊急集会は総選挙の実施を前提とする平時の制度であると述べられた上で、②の54条のような例外規定の解釈姿勢については、厳格に解釈すべきとの意見で一致されているものと拝察いたします。他方、立憲の先生方は、憲法制定時、緊急政令等に代わって参議院の緊急集会が設けられたという制度趣旨に留意すべきであり、またルールの形式的解釈ではなく権力の恣意的行使を防止する観点から解釈すべきと述べられています。また共産党の赤嶺先生は、参議院の緊急集会制度の制度趣旨は戦前の緊急勅令等の乱用という歴史の反省に立ち、民主政治を徹底するためということにあり、その解釈もこのような規定の趣旨目的を踏まえて考えるべきと述べられています。
次に2の「各論」に掲げる①から④までの4つの論点に入ります。まず自民、公明、維新、国民、有志の5会派の先生方は①の解散時に限られるか、それとも任期満了時にも類推適用できるかといった場面の限定については、基本的には例外規定の厳格解釈の原則に照らして、拡張解釈は望ましくないが、短期の衆議院不在という状況の共通性に鑑みれば類推適用についても検討の余地あり、とか、疑義が生じないように任期満了時にも開催できることを憲法に明記すべきといった意見が大勢でした。また②の期間限定につきましても、文言通り最長70日という意見で基本的に一致されていましたが、自民党の新藤先生からは、選挙が予定されている状況の中では、70日ぴったりでなくても多少の延長について検討の余地はある旨の留保的ご発言もございました。次に③の権限・案件の限定につきましては、参議院の緊急集会においては、総理の指名や条約締結承認、内閣不信任決議等が行使できないことについて共通の認識が表明されていたと思います。議論がございましたのは、過去の緊急集会で処理された実例が暫定予算であったことを念頭に置きつつ、本予算はおろか補正予算についても権限外と考えるべきではないか、といったご意見が相次ぎました。なお④として、事後に衆議院の同意がないとその効力を失うといった緊急集会で取られた措置の暫定性につきましては、異論は全くなかったものと承知いたしております。他方、立憲の先生方は①の場面の限定について、大石・長谷部両参考人のご発言を引用されつつ、任期満了時にも類推適用は可能であると述べられていました。
②の期間限定については、70日を超えても開催可能としつつ同時に選挙困難事態の認定基準等についても議論すべきことが述べられ、また③の権限案件の限定に関しましては、70日を超えて開催が可能であることを前提に、権限の拡大も選択としてあり得る旨述べられていました。また共産党の赤嶺先生は①の場面限定、及び②の期間限定に関して衆議院不在時は憲法の規定に沿って国民から選ばれた参議院の緊急集会で対応するべきとの意見を述べられております。以上を踏まえて次に、「ニ、議員任期延長の必要性」の部分をご覧ください。
まず自民、公明、維新、国民、有志の5会派の先生方は、以上のように参議院の緊急集会は憲法の規定内容及び文言から、一時的・限定的・暫定的制度であることは明白であり、また国会は二院制が原則であって、その平常時における例外である参議院の緊急集会では国政選挙が実施困難となるような真の緊急事態のへの対応は想定されていないし、また対応できない、とのご認識から、緊急事態においてこそ二院制国会は機能させることが必要であり、そのためには議員任期延長が必要と結論づけておられました。他方、立憲の先生方は、議員任期延長は国会議員を固定化し内閣の独裁を生む恐れがある、本来選挙で民意の審判を仰ぐべきであり、任期延長された議員には民主的正当性が欠けるとして、参議院の緊急集会で対応すべきとのご意見でした。なお、そもそもの前提として、選挙困難事態を早期に解消できるよう、国難時にも対応できる投票環境を整備しておくべき、との意見も合わせて述べられていました。
また共産党の赤嶺先生は、議員任期延長は選挙権を停止することであり、国民主権の侵害につながり、また権力の乱用と恣意的延命にもつながることを強調されるとともに、長期間総選挙が実施できない事態を招かない選挙制度の改善をすればよく、憲法改正による議員任期延長は本末転倒と述べられております。
次に「三、議員任期延長の要件及び効果に関する論点」をご覧ください。
まず自民、公明、維新、国民、有志の5会派の先生方は、1の実体的要件として、対象とすべき緊急事態の範囲は大規模自然災害、テロ・内乱、感染症蔓延、国家有事安全保障の4事態に、これらに匹敵する事態を加えた5事態とし、このような事態の発生によって選挙実施困難事態がもたらされることを要件としております。この選挙実施困難事態の要件下については、さらに具体化が必要とのご指摘がある一方、その要件具体化の例として、選挙の一体性が害されるほどの広範な地域において、国政選挙の適正な実施が70日を超えて困難であることが明らかであること、といったように、広範性と長期性といった2要件による認定基準の具体化の提案が既になされているところです。
次に2の手続き的要件として、内閣の認定と国会の事前承認を要することについては、5会派では意見は一致しておりますが、国会の議決要件については、議員任期の延長といった例外的事項を定める点に着目して、出席議員の3分の2以上の特別多数を要することとすべきとの見解と、二院制国会の原則に回帰する制度であることや、現行憲法における両院での議決の重み、及び位置づけに鑑みて過半数で良いのではないか、さらに議論が必要、といったご意見があります。またこの内閣及び国会といった政治部門による判断に対して、裁判所による関与といった第三者的なチェックが必要ではないかといった論点があります。これについては憲法裁判所による拘束的な関与とするか、最高裁判所による勧告的な関与とするか、あるいは基本的には政治部門が責任を持って判断すべきだが、現行憲法下でも法律によって定めることが可能な客観訴訟として裁判所の一定の関与を組み込むことも検討の余地あり、とするご意見が唱えられています。最後に3の効果についてですが、任期延長の幅については一年あるいは6ヶ月といった違いがありますが、上限を定めるべきこと。そして選挙が可能な状態となったときは速やかに延長された任期を終了し、直ちに選挙を実施すべきことについては認識が共有されていると所と拝察いたします。また解散後総選挙前の緊急事態の発生の際には前議員の身分復活を認めるべきことについても意見は一致しております。他方、立憲の先生方からは選挙困難事態の認定基準、効果が生じる期間と地域、そしてその認定主体について議論をすべきとの意見が述べられております。また共産党の赤嶺先生からは、極端な事例を出して議論すれば間違う可能性が高いとの指摘がなされております。最後に「四、その他緊急事態に関する論点」をご覧ください。まず1の議員任期延長以外の国会機能の維持策につきましては、自民、公明、維新、国民、有志の5会派の先生方は、選挙実施困難事態とは別に、一般的な緊急事態の要件のもとでの緊急事態宣言を前提に国会の閉会禁止、即時召集や衆議院の解散禁止、そして内閣不信任決議案の議決禁止のいずれの措置も必要と述べられています。他方、立憲の先生方は平時からの措置として臨時会の召集期限明記や、解散権制限の検討が必要との意見が述べられています。また共産党の赤嶺先生からは、臨時会招集を無視しながら緊急時の国会機能維持をいうのは無責任との発言がなされております。なお昨年の国会において、本審査会で議論され、森会長から細田議長に申し入れがなされましたオンライン出席、オンライン国会につきましては、その検討状況について本幹事会に報告をしていただきたいとか、議運で速やかに結論を得るべきとのご意見や、憲法改正の際にはオンライン国会についても明文の規定を設けるべきとのご意見がある一方で、そもそも憲法56条1項の出席の解釈を多数で確定させるべきではないとの意見も述べられています。また国民民主の玉木先生からは、同一基本法を参照しつつ、フルスペックの国会がどうしても機能しない場合のミニ国会すなわち両院合同委員会の制度に関するご提言もなされているところです。最後に2のその他として掲げております、緊急政令及び緊急財政処分につきましては、自民、維新、国民の参加3会派の先生方からは、任期延長その他の国会機能維持策を講じてもどうしても国会が機能し得ない万万が一の場合も考えられ、そのような場合において超法規的措置に委ねることなく、立憲主義の観点を堅持しつつそのような緊急事態に対応するために、緊急政令や緊急財政処分の制度をも講じておくべきではないかとのご意見が述べられています。これに対して有志の北神先生からは、まずは法律対応の可否の検証をすべきではないかとのご意見が述べられています。また公明党の北側先生は、白紙委任的な政令委任等は不要であり、現行憲法41条のもとで認められる個別法による具体的な政令委任や、予備費で対応すべきと述べられた上で、仮に憲法に規定するとしてもそのことを確認する規定にとどめるべき、さらにはそもそも緊急政令や緊急財政処分は任期延長とは別次元の問題であり、憲法改正原案策定の際の、いわゆる個別発議の原則に照らしても、別個の問題として検討されるべき論点ではないかと指摘されています。他方、立憲及び共産の先生方からは、緊急政令、緊急財政処分については不要との意見が述べられるとともに、それぞれ任期延長と内容において関連する項目として、一括した国民投票しか許されないとすれば問題とか、緊急政令、緊急財政処分のような緊急事態条項は政府に権力を集中させ国会の権能を奪い国民権利を制限する憲法停止条項である。このような条項がなかったから対応できなかった問題はこれまで起きていない。といった意見が述べられているところです。私からのご説明は以上です。ご清聴ありがとうございました。

◆各会派代表の発言
新藤義孝(自由民主党・無所属の会)
自由民主党の新藤義孝です。ただ今の衆議院法制局の論点整理を踏まえ、緊急事態条項について改めて私の考えを述べたいと思います。審査会では昨年の常会、臨時会を経て、この常会に至るまで1年半にわたって緊急事態条項に関する討議が積み重ねて参りました。昨年の常会では緊急事態条項に関して計10回延べ98人が発言。秋の臨時会では計4回延べ34人、そしてこの常会では先週まで計14回延べ109人が発言しており、合計で28回延べ241人が発言をしております。この膨大な議論を整理したものが先程の論点整理資料であり、この論点整理資料を参考に今後さらに議論を深め絞っていく必要があると私は考えています。主に議員任期の延長を議論する際に、今国会で最も重要な論点となりましたのは現行憲法上における参議院の緊急集会の位置づけであります。
これまでの討議で、明らかになりましたのは、参議院の緊急集会は衆議院解散後の一定期間内に総選挙の実施が予定され新しい衆議院議員が選出されることを前提とした制度であり、衆議院の一時的な空白を埋める平時の制度であるということであります。つまり現行憲法の参議院の緊急集会は、有事を含むあらゆる事態に対応することを想定しておらず、このことは内閣総理大臣の指名や条約締結の承認、内閣不信任決議等の権限は行使できないといった権限の限定があること、また内閣が示した案件とそれに関連する案件しか処理できないといった案件の限定があることといった二重の限定がされていることに端的に表れています。さらに具体的に申し上げれば、衆議院の解散後に緊急事態が発生し国家機能を最大に発揮し国民の生命や財産を守らなければならない状況に直面したと仮定します。この場合の内閣は、総理をはじめ衆議院出身の閣僚は議員身分を失った状態であり、かつ内閣の性格は総選挙後の国会で次の新しい総理が指名されるまでのいわゆる職務執行内閣となっているわけであります。このような内閣にどこまでの権限を持たせられるのか、思い切った危機対応ができるのかといった疑問が湧いてきます。国民の生命財産を守り、安心安全を確保するための最も重要な危機対応を講じるためには、正当な民主的基盤を持った内閣が必要であり、衆参揃った二院制国会の原則通りの国会を構成する必要がある事は言うまでもありません。ところが緊急事態により全国一斉の総選挙ができない状況に陥っております。だからこそ解散中であれば議員の身分を復活させ、任期満了であれば議員の任期を延長し、正当な民主的基盤を持った内閣によって危機対応に当たらせることがふさわしいのではないかと私は考えているわけであります。これに対して、選挙を延期して任期を延長する事は国会議員を固定化し内閣の独裁を生む恐れがあるのでそれを避けるために参議院の緊急集会で対応すべきという主張があります。合わせてできるところから順次選挙を実施し、定足数の3分の1を超えた議員が選出されれば、新しい衆議院が構成されるので、その新しい国会で緊急事態に対応すれば良いという意見が出されています。しかしこれにはいくつかの問題があります。仮に選挙が実施できた地域の衆議院議員のみと、参議院議員によって構成される新しい国会で内閣総理大臣を選出するとなると、選挙が実施できていない地域からは総理はもとより閣僚も一切選出されないということになります。さらに選挙が実施できるところから新たな衆議院議員を選べば良いとの考え方に立てば、新議員が選出されるごとに閣僚を任命し直したり総理を指名し直すようなことも理論上想定されてしまいます。そもそも緊急事態に陥っても選挙実施可能なところから新しい衆議院議員を選べば良いとの考え方は、新しい衆議院議員を全国一斉に選ぶという総選挙の意義を見失った議論であり、国民の民意が反映されたものとは言えず、非現実的な理論に過ぎないのではと指摘しておきます。東日本大震災の経験や高い確率で発生が予想されている首都直下型、南海・沖南海トラフ巨大地震を考えると、緊急事態が発生する蓋然性が高まっており、今や現実の脅威です。あらゆる事態において二院制国会を維持し、民主的統制のもとに国の運営を行っていくために、憲法を改正し緊急事態条項を整備し、二院制国会を機能させるための措置を講じておく事は、喫緊かつ必須であり立憲主義の観点からも極めて重要と考えています。
今回の論点整理資料にありますように、2の議員任期延長の必要性については、自民、公明、維新、国民、有志の5会派において完全に一致しております。これに加え、3の議員任期延長の要件及び効果に関する論点についても、いくつかの点を除いてほぼ意見は一致しております。残るいくつかの論点とは、裁判所の関与の問題があります。この点については維新は憲法裁判所の設置を、国民と有志は最高裁による勧告を主張しておられます。しかし憲法裁判所については、憲法裁を設置すること自体、わが国の司法制度を根本から改めようとするものであり、何より憲法改正を必要とする大きな論点です。憲法裁判所の設置を前提に、新たに創設する緊急事態の認定の関与を議論することは、理論的に未だ困難があると考えております。また最高裁による勧告についても、勧告権限の付与や、対応した組織についての憲法改正が行われていることを前提とした主張であり、これまた理論的に難しいことがあるのではないかと考えます。私とすれば新たな権限を最高裁に付与しなくても、現行の司法制度を前提に裁判所の関与のあり方を検討したほうが、より合理的かつ現実的な方策が取れるのではないかと考えてるわけです。例えば選挙訴訟のように別に法律で要件や手続き等を定め、制度が適正に運用されることを保証する客観訴訟の創設により、同様の効果を得ることができるとも考えられます。いずれにせよ選挙困難事態の認定は、様々な状況を勘案した上で行う極めて政治的な判断であり、一義的には政治部門である内閣と国会が責任を負い、その判断に対する信任は、民主主義の根幹である次の総選挙で示されることになると考えるべきではないでしょうか。また議員任期延長により、国会機能の維持を図ろうとしてもできないような場合、すなわち議員が参集できない、国会が物理的に開会すらできないような究極の事態も想定しておかなくて良いかという問題が残ります。このような事態が想定される以上、究極の事態において内閣が一時的に国会機能を代行する緊急政令、緊急財政処分の制度についても議論が必要ではないかと考えています。改めて申し上げますが、この制度は積極的に活用しようとするものではありません。あくまで究極の事態に備えた一時的暫定的な国会機能の代行であり、国会機能が回復した時点で速やかな国会の同意を必要とすることなども併せて措置するべきものと考えます。
最後に、なぜ日本国憲法に緊急事態条項を創設するべきなのか、その基本的な意義を改めて申し上げます。国家の最大責務は、国民の生命と財産を守り、自由で幸せな社会生活を提供することです。国家の基本法である憲法には真っ先にそのことが定められているべきです。にもかかわらず日本国憲法には77年前の制定以来、緊急事態という国家の根本概念が規定されておらず、緊急事態においても、平時の延長線上での国家運営を行わざるを得ないわけです。仮に緊急事態が発生したとしても、平時を想定した一般法の延長線での対応を強化するか、後追いでいわばパッチワークのような特例法を作り、問題の箇所をその都度塞ぐような対応しかできないのが現状であります。緊急事態に際し国家の責務と権限を明確にし、国民を守り抜くための最大機能を発揮させるためには平時モードから有事モードに切り替える概念を憲法に定めておくことが必要不可欠であり、これこそが国家の責任だと考えているわけであります。緊急事態条項については、今後これまで積み重ねた議論を最終的にどのように仕上げていくかが焦点になっていくと考えております。かねてより申し上げておりますように、議員任期延長を始めとする緊急事態条項については、例えば幹事会などで一定の取りまとめの方向性を議論する時期に来ているのではないかとも考えております。昨年より憲法審においては、毎週審査会が開催され濃密な議論が積み重ねられて参りました。真摯な討議が行われていることに対し、幹事会メンバー及び委員各位に敬意を表したいと思います。あるべき国の姿を追求し、国の形を整える憲法改正は未来に対し今を生きる私たちの果たすべき大いなる責任であることを踏まえ今後も憲法審査会が安定的に開催され活発な議論が交わされるよう念願し、私の発言といたします。

階猛(立憲民主党・無所属)
立憲民主党の階猛です。本題に入る前に前回の國重委員からの2つの質問にお答えしたいと思います。
1つ目は政党について、国民投票の放送CMを全面禁止するわが党の案は、選挙の場面で政党CMが禁止されていないことと比較して、規制の厳しさが逆転しているのではないかという質問でした。確かにCMという側面で見れば本来自由であるべき国民投票運動の方が、選挙運動に比べて規制が厳しいように思われるかもしれません。しかしながら選挙の場面と異なり、国民投票の場面では国民投票広報協議会を通じ、政党による国民への情報提供の機会が公正かつ公平に与えられます。これに加えわが党の案では、国民投票広報協議会がプラットフォームとなり、各党が参加してのオンライン等による国民向け説明会を開催したり、各党が動画や図表などを用いて、意見表明するためのウェブサイトを設けたりすることも可能となります。したがって政党の表現の自由や国民の知る権利には充分配慮しており、放送CMを発信できないことだけをもって、規制の厳しさが逆転しているとは言えないと考えます。
2つ目は政党について、国民投票のネットCMを規制し、その他の主体は自由にネットCMを発信できるとすると、言論空間が歪められるのではないかという質問でした。まず政党以外についても、ネットCMを自由に認めるわけではありません。我が党の案では、国民投票広報協議会のガイドライン策定や、名称等の表示義務、資金規制等により、間接的にネットCMを規制します。さらに5月25日の当審査会で私が申し上げた通り、日弁連の最近の意見書や、諸外国の規制状況も参考にしつつ今後ネットCM規制のあり方についてさらに検討していきます。加えて先ほど申し上げた通り、我が党の案では、国民投票広報協議会がプラットフォームとなり、ネット上の政党の発信が量的にも質的にも充実するようにします。以上により言論空間が歪められるといった事態は避けられると考えております。
それでは次に、本日の本題である緊急事態について我が党の見解を述べます。
最初に結論を申し上げれば、衆議院の解散や任期満了に伴う総選挙が実施できない状況が相当期間継続するとみられる事態、すなわち選挙困難事態においても、議員任期の復活や延長は必要なく、参議院の緊急集会が暫定的に国会の機能を果たすべきだというのが我々の考え方です。ただし立憲主義の観点から、時の権力者が恣意的に選挙困難事態を認定し、緊急集会が乱用されないような方策を講じるべきです。すなわち選挙困難事態を予防ないし早急に解消するための方策として、選挙人名簿のバックアップシステムの構築や、避難先やネットで投票できる仕組みの導入などを行うべきです。また選挙困難事態の恣意的な認定を避けるための方策として、当該事態の認定基準、認定を行う主体や手続き、認定された場合にその効果が生じる期間や地域といった点については、当審査会での議論を進め、必要な法制上の手当てを講じるべきです。以上の通り、選挙困難事態に備え、権力を縛るという立憲主義的な観点からあらかじめ対応方法を決めるという点については、わが党の考え方も大方の会派と一致します。
東日本大震災に際し、私の地元の岩手県では、統一地方選挙について選挙困難事態を経験しました。私自身はなおさらその思いを強く持っています。ただし選挙困難事態への対応としては、議員任期の延長ではなく参議院の緊急集会で行うべきです。今からその理由を述べます。お手元の資料を適宜ご参照下さい。なお立憲の発言欄については衆参の憲法審査会でのこれまでの議論の経過を踏まえて、現時点での我が党の到達点だというふうにご理解ください。
第一に、議員任期の延長は、国会議員を固定化し内閣の独裁を生む恐れがあるということです。議員内閣制の下では解散や任期切れによりその地位を失うはずであった国会議員が議席にとどまることになり、議員の信任を受けて成立している内閣も、その地位に居座ることになります。しかしながら本来であれば選挙によって民意の審判を仰ぐべき国会議員が、民主的正当性を欠くことになっており、それに依拠する内閣もまた、民主的正当性を欠くものと言わざるを得ません。この点、参議院の緊急集会で対応しても国民の代表者からなる衆議院を欠いている以上、民主的正当性を欠くという点では変わりないという反論もあり得ます。しかしながら、議員任期延長では、形式上二院制が保たれ国会の権限を確定的に行使できます。それゆえにその状態が続く事は時の政権として極めて都合の良いことであり、選挙困難事態を口実に、時の政権がいつまでも権力を欲しいままにする、内閣の独裁化が進む恐れ、すなわち民主的正当性を欠く状態が恒久化する恐れが生じるのです。一方、参議院の緊急集会で対応するのであれば、そのおそれはありません。なぜなら憲法54条3項により、緊急集会で取られた措置は臨時のもので、選挙が実施された直後の国会で10日以内に衆議院の同意がなければその効力を失うからです。民主的正当性を欠く間は国会の権限を、限定的・暫定的にしか行使できないことにして、時の政権の暴走を防ぐ趣旨だと思われます。と同時に、時の政権にとって国会を正常に機能させるために、選挙困難事態を早急に解消しようというインセンティブも働くわけです。
北神先生がお得意の逆説的な言い方をすれば、選挙困難事態に於いて参議院の緊急集会で対応することは、民主的正当性を欠くが故に、民主的正当性を早期に取り戻せるやり方だと言えるのではないかと思います。民主的正当性を恒久化する恐れがある議員任期の延長に比べてはるかに優れていることは明らかです。
第二に、選挙困難事態に於いて、参議院の緊急集会で対応する場合、場面、期間、権限や案件、暫定性など、様々な限定ないし制約があり、国政に支障をきたすとの指摘がありますが、この批判は当たらないということです。
まず場面の原点については、憲法の文言を根拠に任期満了時に緊急集会を開催できないという説がありますが、当審査会にお招きした両参考人が述べた通り、任期満了時にも緊急集会を開催できるという解釈が今や多数説であり、あえて憲法を改正する必要はありません。また期間の限定については、解散から40日以内に総選挙を実施し総選挙後30日以内に特別国会を召集すべきという憲法の定め、いわゆる70日ルールに縛られる必要がないとの長谷部参考人の見解に対し、立憲主義に反する等としてこれを批判する意見が、議員任期延長を主張する会派の委員から、参考人質疑が終わっているのに欠席裁判のように続いています。しかしながらそうした会派に所属する参議院議員の中にも、70日ルールに縛られないとする見解を披瀝する方々がいらっしゃるようです。ぜひ会派の意見を統一していただきたいと思います。そして、そもそも立憲主義は憲法によって権力を縛り恣意的な権力行使を防ぐことにその本質があり、ルールを形式的に解釈して恣意的な権力行使の余地が広がるように憲法を運用したり、解釈したりする事はむしろ立憲主義に反すると言わざるを得ません。玉木委員は参議院の緊急集会の開催期間は70日以内とすべき根拠として、立憲主義の見地から憲法が定める統治機構のルールは遵守されなくてはならないと、かねがね主張されています。しかしそれを貫くのであれば、永田町の常識とされる「衆議院の解散は総理の専権事項」という考え方こそ、憲法の統治機構のルールに明らかに反しており、問題ではないでしょうか。もし同意いただけるのであれば、この問題の解決策について共に議論していきましょう。なお緊急集会について、権限や案件の限定がある事、暫定性がある事は先ほど述べた民主的正当性の早期回復を促すという大きな利点があり、これを緊急集会の欠点とみなすことはできません。ただし緊急集会の権限につき、参議院と合同で協議を行い、足らざる部分がないかを検証し、必要な法制上の手当てを講じることについては、私どもも異存はありません。また本日の主要テーマからは外れますが、緊急事態条項の中に、緊急政令や緊急財産処分を設ける事は、既存の法制度を勘案した場合にその必要性が乏しく、民主主義や自由主義の観点からも問題であることから、明確に反対します。そして緊急事態条項の名のもとに、例えば議員任期の延長に関する憲法改正案と、緊急政令や緊急財産処分を一括して国民投票に伏す事は、主権者の国民投票の機会を不当に制限し、判断を誤らせる危険があるため許されないということも述べておきます。
最後になりますが、本日のテーマに限らず、国民投票法の改正案は論点を整理できる段階に来ていると思いますので、ぜひ次回はそれを行っていただくよう会長にお願いいたします。合わせてデジタル化の進展に伴う新たな人権保障の問題、先ほども申し上げた衆議院解散や臨時国会の召集、予備費を含めた財政民主主義、地方自治や選挙制度、婚姻のあり方など我が党が提案しているテーマについても、次期国会以降、順次、当審査会の議題としていただくことを会長にお願い申し上げ、私の発言を終わります。

三木圭恵(日本維新の会)
日本維新の会の三木圭恵です。本日で今国会の衆議院憲法審査会は会期延長がなければ最後となります。本日は衆議院法制局 衆議院憲法審査会事務局によって、緊急事態、特に参議院の緊急集会、議員任期延長に関する論点を各会派ごとにまとめていただきありがとうございます。まとめていただいた資料を眺めてみますと、維新、自民、公明、国民、有志の会の論点は概ね一致しており、差異ある部分はあるものの、議論を深めていけば合意点が見いだせるものがほとんどではないかと考えます。1番大きな違いは、やはり議員の任期延長に関わる歯止めの部分です。維新、国民、有志の会は、司法の関与が必要であるとの主張ですが、自民、公明は司法の関与はなじまないとのお考えだと察しております。その中でも我々維新の会は、最高裁判所ではなく憲法裁判所の関与を求めており、ここが他党・他会派との大きな違いでもあります。
緊急事態条項の効果のうち、国会機能の維持として国会議員の任期延長が必要である事は5党派は一致しています。しかしながらやはり自らの任期を自らで延長するわけですから、その延長が不当に延長されることがないように極力配慮しなければなりません。その観点から議員の任期延長が妥当なものであるのかどうかという事は、自分たちだけの判断ではなく第三者の判断を加えるべきであると改めて強く主張いたします。参議院の緊急集会についても70日を超えて期間を延長したり権限を拡大させたりする事は、現時点では何も歯止めがない状態ですから、拡大解釈をすること、これはかえって危険であると考えます。
次に議員任期延長の国会機能維持策、四の1の部分、「閉会禁止」「即時招集」「衆議院解散禁止」「内閣不信任案の議決の禁止」のところでございますが、わが党の案では全て必要となっておりますが、ご存知の通りわが党は、国民民主党、有志の会の方々と3党派で憲法改正原家を鋭意作成する話し合いを進めております。
毎週、実務者協議会を開き論点について整理し、議論を深掘りし、各党派に持ち帰り、さらに議論を深め次の実務者協議で合意をしていくという作業を繰り返し行うことにより、はじめは「内閣不信任案の議決の禁止は必要」との案でしたが、緊急事態時にどうしてもこの内閣には任せられない、この総理ではダメだ、となる場合もあり得るとの考えから、「内閣不信任案の議決を禁止することが必要では無い」との結論に3党派で至りましたことをご報告しておきます。
次に緊急政令、緊急財政処分については、今国会は議論の深まりはありませんでした。国会議員の任期延長について結論を得た後に、緊急政令、緊急財政処分についても憲法審査会で議論を望むものであります。
さて岸田総理はご自身の総裁の任期中に憲法を改正を成し遂げると意欲を見せておられます。岸田総理の総裁の任期は来年の9月ですから、そこまでに憲法改正原案を作成し憲法改正の発議をしようとすれば、いつまでに憲法改正原案を作成しなければならないのか、前回の憲法審査会で小野委員から新藤筆頭幹事に具体的なスケジュールを立ててお示ししてほしいとの趣旨の発言がありました。私の方からもこのスケジュールについて発言をさせていただきます。来年の9月が岸田総理の総裁の任期ということで、来年の9月までに憲法改正をしようとすれば、逆算すると国民投票の日を9月と設定すれば、少なくとも2ヶ月の広報期間が必要となっていますので、7月には憲法改正の発議をしなければなりません。7月に憲法改正の発議をしようと思えば衆議院での審議・採決、参議院での審議・採決は、何月までにしなければならないのかと逆算すると、各院での審議にはかなり日数が必要になり、仮に衆議院での審議が2ヶ月、参議院での審議が2ヶ月かかり、各院で3分の2で可決できたと計算すると、3月には憲法改正原案ができていないといけないことになります。憲法改正原案を作成するのにも、この憲法審査会で喧喧諤諤の議論がなされ、かなりの日数がかかることが予想されますので、通常国会が始まる1月には憲法改正原案の作成に取り掛からなければならないことになります。という事は秋の臨時国会で、まず憲法改正原案をどの条項で作成するのかを決めなければならないはずです。岸田総理が総裁の任期中に憲法改正を成し遂げようとすれば、どう考えても今私が申し上げたスケジュールを組まなければ不可能であると思いますが、このスケジュールに対する、本来は新藤筆頭幹事にお伺いしたかったのですが、現在離席をされておりますので、どなたか自民党の幹事の方でお答えいただければと思いますが、このスケジュールに対する自民党のお考えはいかがでしょうか。

上川陽子(自由民主党・無所属の会)
ただいまのご質問でございますが、岸田総裁が任期中に発議をしたいとおっしゃっているのは、憲法改正への強い思いを表明されたものでございます。歴代の安倍・菅総裁におかれましても、同趣旨のことを発言をしておりまして、これは自民党の党是に則ったものでございます。しかしここでいう任期というのは、具体的に来年の9月を想定したものではなく、具体的な任期は今後の党運営の中で決まっていくものでございます。従いまして具体的なスケジュールを念頭に置いての作業を行っている状況ではございませんが、今後のこの審査会におきましての議論が深まる中におきまして、おのずから見えてくるものと考えております。各会派のご理解とご努力のもとに、この審査会でのご議論をさらに深めてまいりたいと考えております。

三木圭恵(日本維新の会)
お答えありがとうございます。それではもし、仮に岸田総裁が、仮に2期目の総裁選挙で選ばれなかった場合は、お約束が果たせなかったということになると思います。一般的には、民間の感覚では、目標を立て目標に向かって計画を立ててスケジュールを示して、達成に向かうということが当然であると考えます。また各会派・各党派の合意がなければというふうにおっしゃいましたけれども、今の与党は3分の2以上の議席数を確保されておると思います。与党だけではなく改憲に賛成である日本維新の会や、国民、有志の会を合わせれば3分の2以上になると思いますので、今後は総裁任期中にというお約束をされるのであれば、条件が整っているということで、1期目中にとか、何年までにといった期間をきっちりお示しされることをお勧めいたします。岸田総裁が総裁選に勝利された時、多くの国民が1期目の総裁任期中に憲法改正をするのだと受け止められたと思います。今のようなお答えでは、憲法改正を待ち望む国民は期待を裏切られたと感じるのではないでしょうか。憲法改正の発議に必要な3分の2以上の賛成というのは、この国会内ではおそらく成立すると私は考えておりますので、ぜひご検討の方をお願いいたします。これに対するお答えは結構でございます。
次に参らさせていただきます。そして国民投票の件に移らせていただきます。国民投票協議会の組織と事務が大変に重要な役割を担うと考えます。まだ具体的に未だ決定していない事項があるのではないでしょうか。例えば委員の人数は、国会法によると衆議院10名参議院10名となっており、同数の予備員も選任することになっていますが、委員の任命はどうするのか、協議会の開催はどうするのか、協議会の規定が必要になってきます。また「事務局は広報協議会の運営及び広報に関する事務を処理」となっていますが、事務局の規定も必要となってきます。どれぐらいの人数で事務局を構成するのか、どういった体制を組むのか、何ヶ月間その事務局が必要なのか、等々まだ何も決まっておりません。事務の内容においても、国民投票広報の原稿の作成、投票所に掲示する憲法改正案の用紙の作成、広報協議会及び政党等の放送及び新聞広告に関する事務、その他憲法改正案の広報に関する事務となっていますが、放送及び新聞広告の規定が必要になってきます。広報協議会はネットCMについても言及すべきなのか、またネットCMについても公正中立のガイドラインを示すべきでは、あるいは民間のファクトチェックと連携して情報提供すべきでは、等と、さまざまに議論して決定していかなければならないことが山積している状況です。いつまでも同様の議論をして、結論を出さないのはいかがなものかと考えます。憲法改正の発議は国会議員の3分の2でなされる事は憲法に明記されているわけでございますから、この大原則を遵守していただき、この憲法審査会でも結論を得て頂だくことをお願い申し上げ、私の発言を終わらせていただきます。

北側一雄(公明党)
公明党の北側一雄です。緊急事態における議員任期の延長等の論点について、これまでの各会派の意見に基づき、衆議院法制局審査会事務局において簡潔かつ的確に論点整理をして頂きました。橘法制局長はじめ事務局の皆様に御礼を申し上げたいと思います。衆議院憲法審査会では昨年1年間で20回、今年の通常国会で本日も含め15回、この1年半で計35回の実質討議を行って参りました。委員の皆様の活発な憲法論議に敬意を申し上げたいと思います。この35回の討議の中で緊急事態条項について委員から意見表明された審査会の回数は35回のうち計28回に及びます。論点はすでに出尽くしていると思われます。衆議院法制局の論点整理にある通り、自民、公明、維新、国民、有志の5会派の間では、参議院の緊急集会の意義と適用範囲、それを踏まえた上での緊急事態における議員任期延長の必要性については概ね一致しています。議員任期延長の要件と効果について、現時点で若干の相違点はあるものの、後で述べますように5会派間での具体的な合意形成は十分に可能と考えられます。以下、緊急事態における議員任期の延長に絞って意見を述べます。
参議院の緊急集会は、衆議院不在時の参議院の重要な憲法上の権能である事はいうまでもありません。一方で憲法第4章で定める国会の二院制、両院同時活動の原則の例外であることも明らかです。したがって参議院の緊急集会では、
内閣総理大臣の指名、条約の承認、内閣不信任案の提出決議等ができないなど権限が限定されると解される事は、学説上もほぼ争いがないところです。衆議院解散後、もしくは任期満了後、衆議院総選挙を出来る限り早く実施すべきは当然のことです。問題は巨大地震の発生等により、広範な地域で甚大な被害を生じ、長期間、国政選挙の適正な実施が明らかに困難と認められる場合、すなわち衆議院の不在が長期に亘ることが明らかな場合に、参議院の緊急集会のみで国会の機能を長期間担うことを憲法が想定しているのかということです。繰り返しますが参議院の緊急集会は参議院の重要な憲法上の権能です。しかし統治機構の基本原理である国会の二院制、両院同時活動の原則からはその適用範囲に限界があると言わざるを得ません。現行憲法に規定がないのだから、参議院の緊急集会を活用するしかないのではないかとの考え方は、立法機能を担う議会人の姿勢としてはやや異なるのではないのではないかと考えます。
議員任期の延長について5会派間のいくつかの相違点については、私は次のような方向で合意できないかと考えています。その際、憲法45条46条で明記された国会議員の任期の例外を設けるものであること、またその時の政権が国政選挙の実施を恣意的に引き延ばすのではないかとの懸念を指摘する意見もあることも考慮し、議員任期の延長の手続き要件については厳格に定めることが肝要と考えます。まず第一に国会の議決要件です。
特別多数の3分の2以上とすべきです。国会議員の任期は議会制民主主義の土俵に関わる事柄で、衆議院議員は原則4年、参議院議員は6年と憲法上明記されています。緊急事態において議員任期の延長を認めるとすると、これはその重大な例外となるもので、やはり国会の承認には各議員の3分の2の特別多数が必要と厳格に考えるのが適切と考えます。このことにつきましては自民党の新藤幹事も否定されていないことと推察しております。第二に司法の関与です。内閣による選挙困難事態の認定と議員任期の延長に司法の一定の関与を認めるべきとの主張は検討に値します。ただ以前にも述べましたように憲法裁判所の創設にはその是非自体に多くの論点があります。また現行憲法の統治機構のあり方に大きな変更をもたらすもので、憲法の改正が必要である事は言うまでもありません。直ちにその創設ができるものではなく、緊急事態における議員任期延長の課題とは切り離して、論議をされるべきと思います。現行憲法の違憲審査制度のもとで選挙訴訟や国民投票無効訴訟のように別に法律で要件手続等を定めて法適用の客観的適正を保障するいわゆる客観訴訟と言われる訴訟類型を創設するのが適切と考えます。
第三に任期延長の上限です。議員任期の延長期間は6月以内とすべきと考えます。また再延長が同じ手続きで可能とします。1年とする意見もありますが憲法で定めた任期の例外規定としては厳格な要件とすべきです。また延長された任期の期間内であっても、選挙困難事態の解消、すなわち国会が選挙の適正な実施が可能と決すれば、任期は終了する事は当然ですし、その議決は過半数で足りるとすることも異論はありません。以前の審査会で、私は選挙期日の延期は同一の事態で最初の選挙の困難事態の認定から通算して1年を超えることができないとしてはどうかとの意見を述べましたが、ご検討いただければと思っております。国難ともいうべき緊急事態だからこそ、国民の信任が不可欠で議会の民主的正当性の確保を図っていかねばなりません。東日本大震災の際、選挙期日を延期した理由は有権者である住民が極めて甚大な被害被災を受け、とうてい選挙ができる状況ではないという事ですが、一方で選挙事務の執行も事実上不可能であったという事情も重視されなければなりません。たとえ緊急事態の状況が継続していても、事態発生の初期と一年経過後とでは事情が相当異なっているはずです。新たな緊急事態の発生があると認められない限り、1年という時間経過がある中で選挙を実施しなければならないとすることによって、民主的正当性の確保という要請に応えるべきと考えます。第4に、衆議院議員の身分復活規定です。内閣による衆議院の解散は、衆議院議員の身分を失わせることと、解散から40日以内に総選挙を実施することの密接不可分な2つの効果をもたらします。したがって内閣が選挙困難事態と認定し、総選挙の実施を延期した場合、衆議院解散の意義が失われ、衆議院議員の身分を復活するのが適切と考えます。ただしこの事は当然のことながら、憲法上明記しなければならない事項となります。自民、公明、維新、国民、有志の5会派間ではできるだけ速やかに一致点を見出せるよう検討を積み重ねたいと考えます。
また立憲民主党の皆さんも、選挙困難事態における議員任期の延長を完全に否定されているわけではないと受け止めております。審査会で出来る限り幅広い合意が形成できるよう、さらに論議を深めたいと考えます。以上です。

玉木雄一郎(国民民主党・無所属クラブ)
国民民主党の玉木雄一郎です。私からも冒頭、この立派な資料をまとめていただきました法制局事務局に感謝を申し上げたいと思います。改めて今日これを見るとですね、5つの会派ではほぼ意見が一致しております。ぜひこの議論の積み重ねの上に、幹事会の場やあるいは作業部会を設置するなどして、議員任期の延長については具体的な条文化作業に入ることを求めたいと思います。すでに国民民主党、日本維新の会、有志の会の皆さんと具体的な条文案を作成しておりますので、そういった条文案づくりにも積極的に貢献していきたいと思います。
いろいろ憲法改正については立場があるんですが、危機感の共有が大事だと私は思っています。首都直下型地震などの緊急事態などもいつ発生するかわからないような状況にあります。次の衆議院選挙が行われる前に憲法改正を実現することが理想だと思います。加えて先程来議論になっております、岸田総理自身も自らの任期中、任期中の定義はいろいろあるのでしょうが、そのうちに憲法改正するという意欲を示されているのですから、遅くとも来年の通常国会で発議ができるスケジュールで作業を進めていただきますよう、特に自民党には作業をリードしていただきたいとお願いしたいと思います。そして私は議員任期の延長については依然、立憲民主党の皆さんとも合意が得られるものと期待しております。奥野議員も前回、立憲主義の立場からは想定し得る事は権力抑制の観点、分立の観点から憲法にあらかじめきちんと規定しておくべきだと考えている。そしてそれは任期の延長で行くのか、あるいは緊急集会で行くのか、どっちが民主的正当性があるのかということから検討すべきであると述べられておられます。今日、階委員から立憲民主党の意見としては、緊急集会だということがありましたけれども、ただ私は議論次第ではまだ十分に合意の余地があるのではないかと期待いたしております。
私たちは70日を超えて長期に選挙ができないような場合に、最も民主的正当性がある制度として両院同時活動原則に合致した議員任期の延長を憲法改正で実現することが適切だということで提案いたしております。同時に時の権力者が安易に、長期に任期を延長して政権を延命させるとの階委員からも示された危険性には、当然留意する必要があることから、司法による権力抑制の仕組みも同時に改正条文として提案いたしております。階委員が前回、議員任期の延長での対応について恣意的な権力行使の余地が広がるように憲法を解釈し、国家権力にとって都合の良い憲法改正を主張する事は立憲主義に名を借りた立憲主義の破壊だというふうにおっしゃられました。ただ私は緊急集会が70日を超える長期間にわたって対応できるという解釈こそ、階委員が懸念する恣意的な権力行使の余地が広がる可能性があるのではないかと考えています。なぜなら参議院と言えど権力だからです。しかも憲法54条2項の条文を見ると、参議院の緊急集会は内閣の求めによって開かれるものであるので、実質的には時の内閣が主導権を発揮することになります。改めてお伺いしたいのは、この緊急集会で長期に対応する方が、議員任期の延長に比べて時の内閣の恣意的な権力行使を抑制できると考えるのか、曖昧な解釈に基づいて行われる70日を超える緊急集会での対応の方が、時の内閣の恣意的な権力抑制の余地を広げることになるのではないかと懸念します。これはまさに大石先生がおっしゃる参議院による権力の簒奪を招くのではないかないでしょうか。特にこの資料にもある通り、立憲民主党は任期延長された議員には民主的正当性が欠けていると批判されますけれども、任期の切れた多くの衆議院議員で構成される内閣の方がよっぽど民主的正当性を欠いているのではないかと考えます。このことについても併せてお考えを伺いたいと思います。明日解散して、私も階さんと一緒でやるべきじゃないと思いますよ、ただ明日解散して緊急事態が発生した場合には、今は憲法改正できていないので私もある程度この緊急集会で対応せざるを得ないと思います。これはそうなんだと思います。ただ私たちは立法府の人間なので、これもまさに奥野委員が言ったように、立憲主義の立場からは想定し得る事は憲法にあらかじめきちんと想定しておくべきだと思います。であればより民主的正当性を担保できる制度を憲法改正によって創設し、想定される緊急事態に備えることが責任ある国会議員の立場だと私は考えます。少なくとも私は、選挙困難事態は起こり得ないと考えるお花畑の立場では無い事は改めて申し上げておきたいと思います。それとそもそも緊急事態における議員任期の延長の憲法改正が国家権力にとって都合の良い憲法改正であるとの主張は正直違和感を覚えるんです。東日本大震災の際に議員任期の延長、首長の任期を延長したのは、ただただあの時大混乱の中で有権者も職場の職員も選挙することが不可能だったので、それに対する最低限の手当てをしたんだと思います。仮に時の権力とりわけ内閣の暴走を恐れるのであれば、冒頭に申し上げた通り司法のチェックに加えて緊急事態下であっても、おかしな内閣に対しては不信任案を突きつけて議決することが認めるような制度にしておけばいいと思います。これは先ほど三木さんからもあったのですが、我々3会派のオリジナルの案では、緊急事態においては内閣不信任案の提出はできないように最初条文を作っていたんですが、ちょっとここは考えた上で、それでもやっぱり暴走する内閣が出てきたときには、時の立法府からのチェック権限は残しておくべきだという事で、内閣不信任案の議決の禁止規定は取りました。ですからここはちょっと資料とは違うんですが、そこはそういう権力チェックの役割を果たしたほうがいいんじゃないかということで、最新の案ではそうなっているという事は申し添えたいと思います。要は制度の作り方次第だと思うんです。それを憲法に明記した方が解釈によっていろいろ権力を広げるよりはよっぽど危険性の抑制はできると思います。もう一つ確認したいのは、階委員が70日ルールを守れなくなるような選挙困難事態への対応につき議論することはやぶさかではないと述べておられます。この70日を超えるような選挙困難実施事態に対して緊急集会で対応する場合、ではその緊急集会は最大どこまでの期間対応できるようにするのか。そして仮に選挙ができるようになったと判断して、緊急集会での対応を終わらせて、さぁ選挙しましょうと決める権限は一体誰が持っているのか。そしてその要件についてはどういうものなのか、これは具体的にお示しいただきたいと思います。というのは選挙実施困難の可能性の判断は結局内閣だということに多分なると思うんです。そうすると結局その緊急集会だろうがなんだろうが、権力維持をもくろむ内閣はいつまでも緊急集会での対応することを続けてまともな状態に戻らないようなことを時の内閣は判断することができると思うんです。特にこれは一回指摘しましたけれども、例えば岸田官邸と世耕会長が結託した時、つまり具体的に言いましたが、内閣と時の参議院が結託して権力を行使するその恣意性をどのように防止するのかということも、権力抑制の観点から考えておかなきゃいけないと思うんです。階委員は、70日という上限を設けず緊急集会の活動を認めるとともに、その権限の範囲は必要最小限かつ暫定的なものにとどめると述べられました。つまり期間は無限だけど権限は暫定的だという事なんですが、ただ権限には限定があるけど期間には限定がないとする解釈そのものが極めて恣意的であって、権力乱用の危険性を払拭できないと思うんです。この資料の立憲の案のところに、真ん中のところにあるんですが、70日超の開催を前提に権限の拡大も選択肢としてあり得ると書いてるんです。つまり期間が延びるという事はそれに合わせて権限を膨らませるいうことをすでにご発言されているので、結構これは危険だというふうに私は思います。
だから、立憲主義の基本というのはまず、憲法に書いてあることを重視するというのが大原則だと思います。
そして立憲主義を徹底するためにも事前に緊急事態における例外的対応を憲法に明記しておくべきだと思います。その意味でいうと、緊急集会を70日を超えて使いたいんであれば、そのことを憲法改正して書くべきだと思うんです。我々はその間の案として、両院合同委員会ということを提案しているんですが、もし緊急集会を今の権限を超えて使うのであれば、その要件と効果を憲法改正して書くべきだと思います。それが立憲主義だと思います。いずれにしろ最後に私たち国会議員は立法者なので、蓋然性が低くても可能性がある限り国民の生命や権利を守るためにあるべき法制度を構築する責任を負っています。危機に備えてどのようにわが国の統治機構を決めるかは学者の仕事ではなく我々の仕事です。私たちが答えを出していかない限り何も決まらないと思います。
緊急事態における対応についても、いや、緊急事態における対応こそ、権力の乱用につながりやすい解釈を安易に認めるのではなくて、やはり憲法改正によって緊急集会における権力抑制のルールを明文化し、立憲主義を守るべきであるということを主張して発言を終わります。

階猛(立憲民主党・無所属)
今、玉木委員からご指摘があったことについては、さっき私も時間制限があって早口でパーっとしゃべったので充分ご理解いただけないかと思うんですが、私の今日の発言を議事録で精査していただいて、またご議論させていただければと思います。問題意識には答えてるつもりです。

赤嶺政賢(日本共産党)
日本共産党の赤嶺政賢です。はじめに今日の運営についてであります。冒頭、法制局が自民、公明、維新、国民、有志、5会派の要請に基づき、緊急事態、特に参議院の緊急集会、議員任期延長について論点整理資料に基づく報告を行いました。これは6月13日の幹事懇談会で論点整理資料を作成する基準として、一定の討議の積み重ねがあること、複数の会派から会長に論点整理の要請があることの2つを要件とすることを合意したことに基づくものであります。
論点整理資料の作成を複数会派による要請があった場合にのみ認めるというのは、およそ公正公平な運営とは言えません。少数意見を切り捨て、憲法審査会の運営に数の論理を持ち込むものであり、断じて容認できません。今国会の審査会で議論されたのは緊急事態条項だけではありません。安保三文書に基づく敵基地攻撃能力保有の違憲性、軍事増額と財政民主主義の関係、沖縄の米軍基地と日米地位協定、放送による表現の自由の侵害、臨時会の召集要求に対する招集期限の工程など多岐にわたるテーマが議論されてきました。にもかかわらず多数の会派だけで自分たちに都合の良い論点を抜き出し、改憲案のすり合わせにつなげようとする事は、断じて認められるものではありません。
いわゆる緊急事態を口実にした議員任期の延長については、今国会の議論を通じて権力の乱用と恣意的な延命につながる危険が鮮明になりました。長谷部参考人は議員任期の延長をすれば総選挙を経た正規のものとは異なるある種の国会が存在することになり、国会に付与されたすべての権能を行使できることから、緊急時の名を借りて通常時の法制度そのものを大きく変革する法律が次々と制定されるリスクがあると指摘しました。その上で、任期の延長された衆議院とそれに支えられた従前の政権とが長期にわたって居座り続ける緊急事態の恒久化を招くことになりかねないと警告しました。この指摘はわが国の歴史の教訓のものであります。日中戦争下の1941年当時の政府は衆議院議員の任期を立法措置によって1年間延長しました。緊迫した内外情勢のもとに、短期間でも国民を選挙に没頭させる事は挙国一致体制の整備を邁進しようとする決意に疑いを起こさせないとも限らないというのがその理由でありました。当時の政府は日中戦争の重圧に苦しむ国民の不満が爆発するのを恐れ、選挙を延ばし、その間に東南アジアへの戦線拡大と真珠湾攻撃に踏み切り、無謀な戦争の道を突き進んだのであります。戦後の日本はこの反省から権力者の都合で議員任期を延長できないように、法律ではなく憲法に任期を規定しました。その憲法の規定自体を変えてしまうというのは、歴史の教訓を真っ向から踏みにじるものに他なりません。憲法制定議会において金森担当大臣は、国会議員の任期を自ら延ばす事は甚だ不適当であり、そのために憲法に4年の任期を明記したこと、その時には必ず選挙に訴えて国会が国民と表裏一体化しているかどうか、現実に表さなければならないことを強調しています。この指摘を重く受け止めるべきです。議員任期延長の口実として、国会機能や二院制の維持が強調されていますが、国会機能の維持の大前提は、国会が国民に正当に選挙された議員で構成されていることです。人為的に任期を延長し国民から信任を受けていない議員が長期にわたって居座り続ける事は許されません。日本国憲法は前文で、主権が国民に存することを宣言し、国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動すると述べています。国民主権は日本国憲法の基本原理であり、国民の選挙権は最大限に保障されなければならないものです。2005年の最高裁判決は国民の選挙権について国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として議会制民主主義の根幹をなすものと述べ、これを制限する事は原則として許されないと強調しています。議員任期の延長は国民の選挙権行使の機会を奪い、議会制民主主義を根底から揺るがすものです。国民主権を軽んじるものと厳しく指摘しなければなりません。そもそも自民党の改憲案は緊急事態条項として議員任期の延長と内閣による緊急政令、緊急財政処分の制定をセットとして盛り込んでおります。いついかなる時も国会の機能を維持するために議員任期の延長が必要と言いながら、国会の機能を奪い政府に権力を集中させる緊急政令、緊急財政処分を主張するのはまったくの自己矛盾と言わなければなりません。国会機能の維持のための任期延長という主張がいかに形だけのものであるかを示すものです。
参議院の緊急集会の制度は、緊急な事態に際しても内閣の独断を許さず参議院が暫定的に立法や行政監視の機能を果たせるようにしたものです。明治憲法下で当時の政府が緊急勅令、緊急財政処分をの制度を乱用し国民弾圧の手段に使ったことへの反省を踏まえたものです。衆議院が不存在の場合は、臨時の暫定的措置として参議院の緊急集会で対応し、その後に国民から選ばれた衆議院がその当否を判断する現在の仕組みを維持すべきであります。
長期にわたって総選挙を実施できない恐れがあるというのであれば、そのような事態を招かないための選挙制度の改善を議論すれば良いのであって、憲法を変えて延長を可能にするなどと言うのは本末転倒の議論と言わなければなりません。日本国憲法はかつての侵略戦争によってアジア2千万人、日本国民310万人という多大な犠牲を出したことへの痛苦の反省に立ち、政府の行為によって再び戦争の惨禍を繰り返さないという決意のもとに作られたものです。悲惨な地上戦を体験した沖縄県民の「ぬちどぅたから」命こそ宝の思いと重なるものです。
今、政治がやるべき事は、いかに戦争に備えるかの議論ではありません。二度とあのような惨禍を繰り返さないために、いかにして東アジアの緊張を緩和し、平和的な環境を作っていくかの議論です。戦争の準備ではなく平和の準備のための国民の声に応える政治を実現するために、全力を尽くすことを表明して発言を終わります。

北神圭朗(有志の会)
有志の会の北神圭朗です。先程の法制局長の説明の通り、議員任期の延長制度については、賛成の会派の間では細かい違いが残っているだけで、いつでも条文化の作業に入れるというふうに思います。他方、反対の会派においてはまだまだ不信感が示されています。この不信感とは一体何かと。まず1つは、実際に選挙困難事態の長期化の確率は低く、過去にもそのような事例はなく今後も事前に想定したし難いと、これは中川幹事の発言なんですがこういう考えです。これについては非常時を想定外の事態として、備えを行わないことこそが問題だというふうに思います。
発言が何度もありましたけれども、東日本大震災のときには選挙を最大8ヶ月実施することが難しかったということもあり、立法事実は充分あるというふうに考えます。今後についても地震学者が直下型地震の事とか、南海トラフの事とか、それなりの科学的見地からも言われているわけですので、「そんな事はない」という事はちょっと違うんじゃないかというふうに思います。なお終戦後4ヶ月で衆議院を解散してその後1ヵ月で総選挙を実施しようとしたという事を例にとって、敗戦の混乱状態でも選挙ができたじゃないかという指摘もあります。確かに当時は直接的な選挙の被害に加えて、住宅難、大量失業など、特に食糧難がひどく1945年11月には餓死対策国民大会というものも開かれるような状況でした。しかしこの時、選挙を急いだのは翼賛体制を早く解体して、当時の幣原政権がGHQによる公職追放や戦争責任等を逃れたかったという事と、また釈放された政治犯の選挙権、公民権が復活しないうちに選挙を実施したいという思惑がありました。実際にはGHQの指示により解散の4ヶ月後の1946年4月に実施されましたが、その前に公職追放により代議士の83%が淘汰されています。こうした混乱の中で有権者名簿を急ぎ作成したため、全国で256,988名もの名簿漏れが発生したと言われています。つまり占領下というかなり特異な状況のもとで、政治的な思惑があり、強引に行われた選挙であり、これを参考にする事は少々無理があると思います。
もう一つの不信感は、不文の法理である国家緊急権を実定化し、憲法上の緊急事態条項を設けるという事はかえって権力による乱用の可能性を高めるというものです。
しかし、この緊急事態条項に反対する皆さん自身、災害対策基本法など一連の緊急事態法制は良しとされていると思います。憲法は駄目だけど法律では国家緊急権の実定化を自ら認めていると理解すべきでしょう。
法律では緊急権を実定化してもいいけど、憲法という国会の3分の2以上の発議があり、加えて国民投票によって選択される憲法での実定化はダメだということに関する議論は学者さんにお任せします。ここでは皆さんは緊急事態法制が用意している緊急集会について、平時の70日を超える事情が生じた場合、内閣が緊急権を発動して延長できるんだという主張になろうかと理解できます。私は、これはこれで、実は危機管理の1つの考え方としてありだとは思っています。ただその場合、次の論点をはっきりさせなければいけません。1つは70日を超えるといっても、具体的にどこまで引き延ばせるのかと。緊急時が終わるまでということであればその平時に戻す判断は内閣にお任せするのかということです。2つ目は緊急集会で認められないとされている権能、例えば本予算の議決や、総理大臣の指名について緊急時が長引く中で必要となった場合どうするのか、これも緊急権によって権能の範囲拡大を認めるのか、認めるとするならばどこまで認めるのか。3つ目には通常、憲法学の考えあるいは各国の憲法からすれば、超法規的に緊急権が発動された場合には国会の事後承認が望ましいとされていますが、お考えはどうなのかと。望ましいのであれば国会の承認を憲法に規定する必要は無いのかと。4つ目には、70日間ルールも緊急権で延長できるのであれば、国会議員の任期も緊急権で延長できるのか。できないという事だったら、一方が許され他方が許されない理屈は何なのか。できるんであれば緊急集会との関係はどうするのか。これも内閣の判断にお任せするのかと。少なくとも以上の4つぐらいの論点がはっきりしなければ、緊急集会で対応する案の全体像が見えてこないと。その上で両眼案を比較考慮して、超法規的措置をあらかじめ想定すること、しかもその判断を全て内閣に一任することが本当に望ましいのかという検討をすれば良いと思います。
3つ目の不信感は、議員任期の延長は、国民の選挙権を制限し正当性の根拠が乏しくなる、内閣に選挙困難の認定を委ねると結局、国会議員を固定化し内閣の独裁を生む恐れがある、またその事例として1941年に衆議院議員の任期が1年間延長されたというものです。確かに議員任期の延長は例外措置であり、国民の選挙権が一時的に制限される事は事実です。しかしその発動は内閣単独で決めるのではなく、我々の案によれば国会の3分の2以上の事前承認が求められ、また事後的に司法の関与もあります。しかもこれは国会議員の発議と国民投票がなされた上で、憲法にその手続が明記されることになります。こうしたことにより非常時における民主的正当性は担保されると私は考えています。実際、諸外国の憲法でも、フランス、エストニア、スロベニア、スロバキア、ハンガリー、ポルトガル、ナチズムを経験したドイツ、ファシズムを経験したイタリア、独裁性を経験したスペインにおいても、議員の任期延長または国会の解散禁止あるいはその両方を憲法に規定しています。これらの国は民主的正当性を軽視していることになるのでしょうか。他方で緊急集会で対応する案は、国会の議決も国民投票も経ず、憲法に規定もなくそれこそ内閣単独の判断で緊急時が事実上宣言され、不分の法理である緊急権によって、憲法の規定も棚上げすることにより、緊急集会が70日を超えることで二院制も軽視し、国会の承認は事前にも事後にもなく、平時に戻る判断もおそらく内閣に委ねられます。どっちの考えが民主的正当性を欠くのか答えは火を見るよりも明らかだと思います。
なお1941年の任期延長は、全議席の8割以上を占めるという翼賛体制が既にできあがっていた中で、法律で任期延長を決めたものであり、我々の案とはだいぶ前提条件が異なるので、簡単に比較ができないというふうに思います。
最後にこの問題を考える上で、改めて危機管理という事はどういうことなのかということを、私の考えを申し上げたいと思います。
東日本大震災が発生した当時、「想定外」という言葉がいたるところで広まったことを記憶にあります。この「想定外」という用語の意味としては、1つは、そのようなリスクを予想できなかったという意味と、2つ目には、予想はしていたけれども備えるべき問題とは認識しなかったという2種類の意味があるかと思います。前者の場合、そもそも対策を講じることはできないでしょうが、後者の、リスクが予想されたにもかかわらず対策を実施すべき問題と認識しなかったという場合は、結局のところ対策を実施しないと決定したことであり、その決定の責任は重たいというふうに考えます。危機管理というのは想定外の事態を一つ一つ潰していく作業であり、備えに伴うコストこれは当然あります。備えた結果得ることができるメリットとの比較考慮が求められるというふうに思います。
東日本大震災のときには最大8ヶ月選挙を実施することが難しかったという立法事実がある中、選挙困難事態が発生した際に、想定外と言い逃れできないためにも、本件に結論を出して早急に条文案の作成に入るべきであると考えます。なお先ほども玉木委員それから三木委員からもお話がありましたが、議員任期延長以外の国会機能維持対策における内閣不信任決議案の議決禁止に関しては、配布されている論点一覧表にある通り、これまでは「解散の禁止」とのバランス上必要であると私も述べてきましたが、その後さらに検討を深めて、緊急時に適切に機能しない内閣が出現した場合には、これを変える必要があるということで、内閣不信任決議の禁止は不必要であるという結論に至ったことを申し上げまして、私の発言を終わります。

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