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キラキラって輝く星はそこにあった

 2012年、始まりは若さゆえの好奇心だった。
 当時アイドル戦国時代と言われておりももクロやAKBを筆頭にアイドル界隈が盛り上がっていた。そしてその両方の楽曲に携わっている人物であるヒャダインさんを、私は彼がネットで活動している時から好きで追いかけていた。

 彼の動向を追っているとアイドル戦国時代ということもありアイドルのことは「ヒャダインさんが楽曲提供をしたグループ」といった具合で自然と認識していくようになっていった。
 そのひとつにでんぱ組がいた。なにをきっかけで知ったのかは覚えてはいないが、異質な名前だったので記憶に残っていたのを覚えている。のちにW.W.D.やちゅるりちゅるりら等の楽曲を提供するヒャダインさんだったが当時はまだFuture Diverの編曲でしか携わっていなかった。しかしヒャダインさん好きな私は彼が歌っていなくても編曲として携わった作品ならば一度は聴いておきたかった。名前もよく見れば聞いたことのあるでんぱ組じゃないか。彼が携わったという曲名「Future Diver」とYouTubeに打ち込み怪しげなサムネイルの動画に少々違和感を覚えながらも好奇心のまま私は再生した。

 映る教室。突如現れて窓に手をかける奇抜な衣装の女性。そして同じような格好をした女性が集まり少し開いた窓を覗き込む。でんぱ組.incの文字。鳴り響くピコピコサウンド。

まじバイバイバイ!!!!!
Lonely Diver!!!!!!!!!!


 こわい!!!!!!!

 右も左もわからない中学生男子には致死量の萌えを唐突にぶつけられ、思わず一時停止する。そんな私をよそに動画はというと一時停止することなく流れていく。

 目の前の情報を処理する前に次から次へと流れ込んでくる情報、そして情報。触れたのは真理の扉か、はたまたアカシックレコードなのか。理解する前にデジタル洪水が押し寄せる。

何でもありなんだ!!!

さみしんぼうにな・る・な・れ!!!!

 なんだこの見た目。なんだこの声。本当にこんなアニメや漫画から飛び出してきたような、こんな人間が存在するのか。

君には見えたよね?!!!
恥ずかしさで照れ合う関係!!!!

 あ、かわいい。

夢で!!終わらんよ!!!

I'm ふゅーちゃーだいばっ!!!!

 なんか、わかんないけれど

未知なる絵になる更なる

セカイハッケン!!!!!

 なんか、ちょっと、良いの、かも…???

まじバイバイバイ!!!!!
Lonely Diver!!!!!!!!!!

 うわぁぁぁああぁぁ!!!!

 ブラウザの右上の✕を連打する中学生男子の姿がそこにはあった。
 当たり前である。急に画面いっぱいにブルマ姿の女性達がこちらにおしりを向けて現れるのだから。こちとら既に致死量の萌えを浴びてんだ。いつ死んだっておかしくない。

 金縛りのように身動きがとれなくなっていた私を解きほどいたのは跡部みぅさんのおしりだった。ありがとう跡部みぅさんのおしり。おしりに感謝することなんて最初で最後だろう。おしり。

 これから1ヶ月ほどでんぱ組のことは調べなかったが、頭の中ではずっとピコピコサウンドとアニメ声でアニメ顔な前下がりボブの女性が居座っていた。するとあれほど衝撃を受けて懲りたはずなのに再びでんぱ組とYouTubeに打ち込んでいたのであった。

 するとでんぱ組の見たことない曲があった巫女さんのような衣装に身を包んだサムネイル。あの時と重ねるように抑えきれない好奇心を胸に動画を再生した。

ニッポン!デンパ!!スケット!!!ボーイ!!!!

 おっこれは!!

ジャパンの果ての果てまで!!
君と私の冒険!!!

 めっちゃすき!!!

 元々ヒャダインさんが好きだった私は速くて情報量が多い曲は好きだった。その為「萌え」がFDに比べて控えめのでんぱれは躊躇することなく普通に聴けてしまったのである。
 そのままぼーっと眺めて2分半のミュージッククリップは終わり、また再生をするをしばらく繰り返して気づいた。

あれ、人数増えてね!?
というか金髪の子いる!!

 本当になんで気づかなかったのだろうか。幼稚園児がやるくもんの問題並に簡単な間違い探しである。そんな簡単な問題に気付けないほど、男子中学生の脳の処理では追いつけない「萌え」に溢れていたということだろう。

 それから金髪の子は誰なのか、抜けた子は誰なのか、でんぱれとFDのMVを見比べて消去法で絞っていき突き止めた。そんなことをしていると無意識に反復練習のようになっており、顔と名前が一致するようになり、でんぱの楽曲の虜になっていた(しかし当時まだFDのMVは直視できない)。

 しかし当時ヲタクは風当たりが厳しく、ヲタク=気持ち悪いという風潮があった。それはテレビでも特集されるほどで、当時の肌感覚でいうとニート等と同じような扱いだった記憶がある。
 周りの目が気になる年頃の思春期だった私にはアイドルにハマるというのはかなり酷な選択だった。しかしこの頃、正直いうとハマっていた。隙あらばでんぱ組のことを考えていたし、部活中もでんぱ組の曲を脳内に流しながらおこなっていた。しかしハマったと認めるとヲタクになってしまう。その今の社会では存在しない当時の価値観のせいで素直になれないでいた。

 当時、姉が小学生の頃にインターネットに触れ視力と成績がみるみる下がったことを受け、同じ轍は踏ままいと中学卒業まで私と弟はインターネットが禁止されていた。さわれるのは父の機嫌が良い時だけだ。しかしパソコンは私の持ち物ではないので履歴を見られたら一撃ででんぱ組が好きだということがバレてしまう。バレないようにギリギリヒットする文字を選んで検索する。
 「でんぱ」
 今でこそひらがなで「でんぱ」と打つとでんぱ組が出てくるが、その時はまだウィキペディアにもがちゃんとねむさんのページしかなく、他のメンバーのページはなかった。しかもリリースしている曲も少なく5枚ほどしかなかった。当時そこまで認知度が高くないでんぱ組は検索候補の下の方に行き、当時人気だったゲーム、妖怪ウォッチに登場する「でんぱく小僧」とかいうやつが検索上位にあがった。次点で「電波人間のRPG」である。

 こいつらのせいででんぱ組の検索結果が汚染されており、なかなか目的に辿り着かず毎度調べるたびにイライラしていた。この怒りは今になっても消えていない。なので私はでんぱく小僧と電波人間のRPGの顔を見ると未だにめちゃくちゃムカついてくる。

 そうして新曲がリリースされるたびにYouTubeできいてホクホクして、Googleで調べてでんぱく小僧が出てきてイライラしてを繰り返していた日常のある日、アルバムWORLD WIDE DEMPAが発売される。
 6人体制になってから当時の最新曲まで、それに新曲と当時のメンバーで撮り直したFDに加え全MVもついてくるアルバムだ。
 これは私が1年以上抑え込んでいた感情の具現化といってもいいだろう。迷いに迷ったあげく私は購入を決意した。

 近くの書店がCDやDVDも取り扱っており、そこで予約することにした。
 「はい、でんぱ組.incのWORLD WIDE DEMPAですね!」
 「ハイ…(声大きいよ…!)」
 周りに知っている人はいないので恥ずかしがる必要はないのだが、まるで成人向け雑誌を買うかのような佇まいでアルバムを予約し、店着日に成人向け雑誌を受け取るかのようにそそくさとカバンにしまって帰路についた。

(当時のレシート。購入時間が部活終わってすぐ取りに行ってるのがわかるし、支払い方法がQUOカードとポイント券を駆使しているのが当時のなけなしのお金で買っているのがわかって恥ずかしい)

 家族の誰にもバレないように布団にくるまりDVDを再生する。そして1年分の好きが爆発した。それからというもの、学校から帰ってご飯を食べ終わるとすぐに自室に引きこもりでんぱ組のMVを見るという生活を続けていた。
 そして年末、10分程度の短い音楽番組に未鈴ちゃんとねむさんが出演するということで見ていると年始に行われるライブの告知をしていた。ソールドアウトしているところもあったのだが、大阪はまだチケットが残っていた。1年分の好きがまだ収まっていない自分は学校で授業中もライブのことを考えておりついに一歩を踏み出した。

 しかし、スマホを持っていないのでチケットを取ることができない。パソコンも父の機嫌次第である。悩んだ末とあることを思い出す。でんぱ組がOPを担当した「にゅるにゅる!!KAKUSENくん」のDVDを買った時、ローソンのLoppiでなんかみた!
 急いでローソンに駆け込むと見事大当たり、ローチケとして公演チケットが販売していたので購入する。発券されたチケットを手に取るとそれが現実ではないどこかへいける魔法のチケットのような、そんな感覚になったのを覚えている。

 ライブ当日になるまでに準備をしていく。百均でサイリウムを購入した。しかしこの時明確な推しがいなかったので売っていたサイリウムのバリエーションからメンバーカラーのものを買った記憶がある。
 そしてライブ会場への行き道である。スマホを持っておらずマップが使えない為、父の機嫌をみてパソコンで調べてコピー用紙に駅やかかる時間を書き写していく。
 毎朝起きた時に人生初めてのライブまでのカウントダウンをしてついに迎えた当日、ちょっと迷子になりつつもなんとか会場についた。そして周りをみて大きなミスに気づく。なにもグッズを持っていないのである。しかし当時の全財産は2万ちょっと。すでにライブチケットで半分使ってしまっている。でもずっと好きだったものが生で見られる今日という思い出を具象的なものにしたい!そんな葛藤の末なんとかなけなしのお金でパンフレットを買い、大事にリュックにしまい込んだ。

 開場してそわそわする。手持ちぶさたになりサイリウムを折りたくなるが、長くて2時間程度しか持たないとネットで見たのでグッとこらえる。すると公演に先駆けて影ナレが入る。

ぴんぽんぱんぽーん!!

 それはりさちーの声だった。この時、影ナレをメンバーがやっていたのだ。正直、いまでもこの演出を期待してしまう。それほど良かったし、印象的である。
 そこにいた当時の私はこの幕ひとつ隔てた先にでんぱ組がいるのだと昂り、注意事項が全く頭に入ってこなかった。

 あと10分、あと8分、あと5分、あと3分…
 腕時計を確認しながらその時を待つ。すると暗転する開場、沸き上がる歓声、点灯するペンライト、サイリウム。
 ここか!と思いサイリウムを丁寧に折る。当日までの準備としてネットでサイリウムの折り方を調べた時、力を入れすぎると破裂して中身が出てしまうと書いてあったからだ。ボギッとなんとも形容しがたい折りごこちが手の中で響くと瞬間的に明かりが灯る。科学の力ってすげー!なんて思っていると聴き慣れたインストルメンタルが流れてくる。ハジマリ。〜WORLD WIDE DEMPA〜、アルバムWORLD WIDE DEMPAの1曲目である。ちなみにこれもヒャダインさんが作った曲である。開場が曲に合わせて手拍子をしてでんぱ組の登場を心待ちにしている。暗転した会場のステージを照らす少量の光が、袖から出てきて位置についたステージに立つ彼女たちをシルエットのように映す。そして一人を残してみんな倒れ込む。歓声も一段と大きくなる。 

ニッポン!!デンパ!!!!

 でんぱれだ!!私をでんぱ組へのハードルを下げてくれた曲である。あの頃を思い出す。
 「いくぞ!!!」
 メンバーの煽りとともに薄暗かったライティングが近くで花火が上がったように急激に明るくなる。
 うわ、未鈴ちゃんだ!本物だ!ねむきゅんともがちゃん!影がある!現実だ!!
 目の前のメンバーの一挙手一投足に感激し、現実なのか別の世界なのかわからなくなりながらもステージ上で歌って踊る彼女たちから目が離せずに興奮していた。

 時折きこえる「よっしゃいくぞー!タイガー!ファイヤー!…」に合わせて覚えていた文言を唱える。なぜ覚えていたかというとSabotageの冒頭でMIXが入っていたからである。日本語MIXと英語MIXをでんぱ組のSabotageで覚えた人はなかなかいないのではないだろうか。しかしFutureDiverの時は全部Diverだと後から知るのはまた別の話である。

 そのあともライブは続き、ライブ特有のアレンジや煽り、MCに痺れながらも時は過ぎていった。このツアーの合言葉は「あんぎゃ」だったのだが、未鈴ちゃんがずっと「あんぎゃってなに?」と言っていたり「Zepp!あんぎゃ!!」のコールアンドレスポンスがうまくいかなかったのを覚えている。そしてW.W.D.の「Let me tell you how to use "urya-oi"」が音源では冷静な雰囲気で歌っているのだがライブではすこし切れる息を抑えながら歌う姿に人間味を感じ感動した。古川未鈴のステージ上の姿は10年たった今でも記憶に残りつづけている。もしかすると「王道アイドル」ではなかったかもしれないが最高のアイドルであると断言できる。

 そしてこのツアー見どころの1つにメンバー全員にソロ曲が与えられお披露目されるというものがあった。しかし当時スマホを持っていない私はそんな情報を追えていない為、急にパンダ2匹に挟まれたピンちゃんがステージ上に現れた為意味がわからなかった。なんか学校のチャイム鳴ってるし。そして急に流れるクラブミュージック。藤咲彩音初ソロ曲「P and A」初お披露目の瞬間である。
 いつものでんぱ組とは違う曲調にぴょこぴょこと軽快に跳ね回るがしっかりとキレのある動きに心と目が奪われる。これがアイドル、これがでんぱ組なのか…。心の新しい扉が徐々に開いていくのがわかった。

 あっという間に最後の曲ORANGE RIUMが流れ、曲と歌声に浸っていた。素敵な空間だ。歌い終わり、客席に感謝を告げはけていくメンバー。良い体験をしたとエモーショナルに包まれながら帰ろうとすると辺りから雄叫びが響く。

アンコール!!アンコール!!!

 えっそういうのもあるの!?全然帰ろうとしてたけど!あぶなっ

 しばらくすると明転してメンバーがツアーのライブTシャツきて袖から出てきた。買えば良かった!お揃いできたやん…!
後悔をしながらも彼女たちのMCをきく。その中でセトリがWORLD WIDE DEMPAの収録順だということが明かされる。
 本当だ!!!メンバーはみんな気づいてるテンション感で語りかけてきたが私はここで気づいた。生のでんぱ組を見てそれどころじゃなかったというのもあるが、冒頭の方で話したでんぱれとFDを比べて人数と金髪の有無にしばらく気づかないあたりただのアホちゃんである。

 アンコール曲の強い気持ち強い愛とでんでんぱっしょんを生で見てすでにいっぱいだった高揚感が限界突破する。これほどまでに溢れ出す高揚感とエモーショナルが同居する感覚をもう一度味わうことはできるだろうか。
 そして曲が終わり、帰ろうとすると辺りから雄叫びが響く。

 えっ、まだあるの!?全然帰ろうとしてたけど!あぶなっ

 しかし先程言ったとおりこのツアーはアルバムを引っ提げてのツアーで、WORLD WIDE DEMPAはでんでんぱっしょんで締めくくられる。つまりもう曲はないのだ。このまま再開してもなにを歌うんだろう。そんな疑問をよそに彼女たちはステージに戻って来る。途端に聴こえるテクノチックだが、どこか和風な曲調。知らない曲だ!!
 アップテンポでお祭り騒ぎのような曲に心拍数は跳ね上がり、彼女たちの歌と踊りがそれに拍車をかける。溢れ出ていた高揚感とエモーショナルは相乗効果で高まり合いながらも混ざり合い、あの状態を表すためには少々日本語が足りない。

 会場が明るくなり退館のアナウンスがされる。心の昂りの発散の仕方がわからず走り出しそうだった。帰路につくもずっと余韻に浸っていた。というかまだサイリウムが光っていた。なんだ、結構持つじゃん。
 今日のライブを思い返すとりさちーのかっこいい歌声やMCでの少し抜けたギャップ、そして美しい姿。そしてピンちゃんの軽快にステージを跳ね回りキレのあるダンスをする姿が特に脳裏に焼き付き気になっていった。

 記憶の中でひときわ輝く相沢梨紗という名の一番星。キラキラって輝く星はそこにあった。
 そのまま相沢梨紗という存在によって私の趣向の根っこの部分が形成、および歪まされていくのはまた別の話。

 

  

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