見出し画像

英語の慣用表現1

英語を学習するうえで悩ましいことは、膨大な熟語とコロケーションですが、慣用表現も同等程度に厄介です。ビジネス文書などでは、慣用表現は避けるようにも言われますが、日常会話では頻出です。俗語と言われるものを含めればかなりの出現頻度になり、英語学習者のやる気をそぐことも多いでしょう。
今回は、Donryu@Dbrrsの記事で紹介されていた、ビルボードナンバー1シンガー/ソングライターのニールセダカのミニコンサートでの発言から、中級の英語学習者がつまずきそうな表現を拾って解説をしてみます。

まずは、冒頭部分で、"blank piece of paper scares the hell out of me"(真っ白な紙を前にして怖じ気づいた)と言っています。このscareは、受験英語でもおなじみの、be scared of(〜を恐れている)から予想がつきそうではありますが、使われている前置詞は、ofではなく、out of です。前置詞 out ofは、「〜から」という意味で使われることが多いですが、ofとout ofがどちらも使用可能な場合もあり、たとえば以下は同じ意味です。


I cannot make sense of what he said.
I cannot make sense out of what he said.
(私は彼の言ったことが理解できない)

しかし、上記表現はこの話とは関係がなく、the hell out ofが強意語であり、動詞と目的語のあいだに置かれます。なお、通例物理的・心理的に悪い影響を及ぼす動作を表す動詞に使われるとの記述が、ジーニアス第5版にあります。
直後に、自問する形で、"what are my inspirations tunewise?"と言っています。この-wiseは、形容詞wise(賢い)の意味ではなく、名詞に接尾辞としてつけて、「〜に関して、〜の点で」という副詞を作ります。ジーニアス第5版には以下の例文が掲載されています。


This has not been a good year saleswise.
(売り上げの面では今年はいい年ではなかった)

大修館「ジーニアス第5版」


セダカは、これまたビルボードナンバー1シンガー/ソングライターのエルトンジョンとの親交について、以下のように言っています。


"we always have this mutual admiration society"(私たちはいつもお互いに褒めあっている)

https://youtu.be/7VaUECCJHW0

mutual、admirationについてはあまり抵抗感はないかもしれませんが、societyを「社会」とだけ覚えている方には、頭に疑問符が浮かぶ表現です。societyという単語は、「社会」に加えて、「社交」や「仲間」の意味を持ちます。上記文は厳密には慣用表現とは言えなさそうですが、フレーズ単位で、あるいは英文単位で記憶していないとなかなか聞き取りが難しいと思います。
次に、上記記事で話題にされている英文が以下です。


"there was one chord that I referred to as the drop-dead chord"(私がはっとさせるようなコードと呼ぶひとつのコードがあった)

https://youtu.be/7VaUECCJHW0

この、"drop-dead"は、「はっとさせるような」とか『目を奪う」という意味の形容詞で、コードについて使われれば、「耳を奪う」くらいの意味でしょう。OEDによると、1960年代に最初の用例があるようです。
慣用表現の宝庫である身体に関する以下の表現を最後に取り上げます。セダカは、drop-dead chordを聞くと、"you get those chills down the spine"(背筋がぞくぞくする)と言っています。"spine"は「背骨」であり、名詞chillsは、「冷たさ」「悪寒」の意味ですから、背筋をつたって悪寒が上から下へと進むイメージなのでしょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?