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羊たちの叛逆 第3章 それぞれの事情 前半 鈴木裕太の場合


ニュースピックスが記事にしてくれました!大友監督と、佐渡島さんからも嬉しいコメントもいただきました。

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さくらが動画で宣伝したおかげかTCF/TCCの説明会には多くの人がきていた。

説明会が始まり、主催者の神崎が説明を始めた。

「TCF/TCCは、内発的動機から内発的公共性を引き出し、事業として社会にその公共性を広げていく仕組みです。大切なのは、浅い自我(エゴ)ではなく深い自己(セルフ)からの想いを引き出すことです。その上で、自己の内奥と繋がった内発的公共性といえる、次の社会に必要となるシナリオが描けること。
それらに投資するだけでなく、事業会社からの支援も伴って、理想の実現をサポートしていく仕組みを志向しています。自分が帰属している企業の文脈にとらわれずに、自分の内奥にある想いに気づき、その可能性を信じ、全力で挑戦するために用意された仕掛けであり、それこそが社会をより良い方向に展開していくと信じる、先進的な考えを持った参加企業によってできた場です。全く新しい自分を、自らの力で生み出し、その力で新しい社会を創造してください。私たちは、みなさんの可能性に大いに期待しています。

こうしたプロセス全体を
『個をひらき 組織をひらき 場をひらく』
とよび、複数の企業の賛同を得て始めることができました。

幸い、この秋のTCFA(Transcendental Corporate Field Association)の立ち上げに当たっても多くの問い合わせをいただき、参加準備委員会には100社以上が集まってくれています。

野心は大事だけど、自分が生きている間に、とにかく自分が成功したいというような想いだけでは、これからの時代多くの協力は得られないと思います。できるなら、皆さんには、三世代かけてでも成し遂げたいくらいの目標を持ってもらい、それを一緒に実現しましょう。アニマルスピリットではなく、私たちはアニマルから進化したのなら、ヒューマンスピリットというべきものを見いだしましょう。霊長類なのですから。霊的に進化した、人類の願いと言えるような想いを自分の中に発見しましょう。」

このコースは、当初は、神崎主催の哲学プログラムに基づき、内発的動機を深めることから始まる。資金は、この仕組みに参画する企業からも提供されるため、受講者の負担は少し軽くなっている。

横井拓海
鈴木裕太
片桐俊
桜井美緒

30代半ばから後半の彼らは、ここで出会った。
彼らが、ここに来た経緯を少し説明しよう。


【鈴木裕太 37歳 ベンチャー企業経営者】
鈴木裕太は、大学卒業後、大手家電メーカーに勤めた。

半年の工場勤務の仕事のあとは、2年目からカスタマーサポートのセクションだった。

配属された時の上司に
「カスタマーサポートは、顧客の最前線。改善案をここからエスカレーションすることで商品が改善される」そうした声に影響受け、やる気を出して臨もうとした。

現場は、社員とは異なる非正規雇用の大勢の方々のマネージャー的な仕事であり、最初はそうした年配の方々をマネジメントすることにやりがいも感じたが、集まってくる顧客の声は、使用状況を想定しきれないが故のトラブルであり、また、直属上司を見ても、高いやる気があるように見えず、そこからより良い製品開発を進めるような情熱も感じない。

数百名のオペレーターが動いていて、室長もいつもトラブル対応で忙しそうで、心身をすり減らして頑張っているのはわかるが魅力を感じなかった。

製品開発部門にいった同期の、一ノ瀬と入社3年目に一緒に辞めて、起業することにした。

最初は、何をするかも明確に決まってなかった。デジタルでできることで起業しようという思いだけでスタートした。色々試行錯誤している中で、チラシをネットで見ることができるサービスを作ったらこれが、少し当たった。一部上場企業の印刷会社が出資をし、事業は軌道に乗ったかに見えた。

しかし、一定の成長はしたものの、売り上げは10億円程度で止まり、収支もなかなか改善しないまま、創業から10年が過ぎようとしていた。そうこうしているうちに、空いた印刷工場をリンクし、ファブレス印刷会社を作った上場ベンチャーが、デジタルチラシの分野にも進出してきて、競走環境は急激に厳しくなってきた。結果、設立した時の熱気はもはや会社にはなく、今のリソースのままでは、次のビジョンを描けない厳しい状態だ。何よりも、問題は、裕太自身が自分のやっていることに情熱を感じられなくなっていることだ。

ネットでチラシを届けることに一体なんの意味があるのか。もちろん、新聞がこれだけ読まれなくなった中、チラシの代替メディアは必要だ。そうしたニーズを先取りして始めたのだが、10年たった今、事業がそれ以上スケールすることもない。そもそも、チラシという形態は、宅配新聞がメインだった頃のメディア形態であり、それをデジタルに変更したとしても、コミュニケーションとして最適とは言えない。一方で、大きな業態変換には、追加投資も難しく、成長資金の確保も大手印刷会社の同意無くしては難しく、デッドロック状態と言えた。

会社を売却するということも考えたが、値段が希望と見合わない。一旦成長速度が止まると、ベンチャー企業はただの中小企業だ。そもそも、自分が作った会社だ。自分の力でなんとかしたいという想いもある。しかし、冷静に考えると手法が見えなくなっていた。株主総会の度に、成長戦略を述べるのだがなかなか予算達成できない中、3年が過ぎた。この3年はまるで時間が止まったようだ。

そんな時、ネットで貴島さくらが、TCF/TCCについて、そのユニークさを解説している動画を見た。

さくら「資本主義的成功の優先順位を考え直す時期がきています。ポスト資本主義に関しての議論はかなり増えてきています。マルクス・ガブリエル、ジャック・アタリ、ユバル・ノア・ハラリ、皆、資本主義の限界を指摘しているわ。そういう時代が来て欲しいと多くの人も、願っている。でも、現実的にどのようにアクションをとっていけば良いでしょう?私たちの全てが資本主義の世界に飲み込まれているのです。神崎さんは、こう言っていました。

『自転車の乗り方を覚えたら、さらに自転車の漕ぎ方を考えるのではなく、行き先を考えるでしょう。私たちも資本主義の乗り方を覚えたら、行き先を考えるべき時にきたのです。』
と。まさにその通り時代は次の時代に向かっているのです。」

確かにその通りだ。裕太が独立した際は、勇気があるとか、時代を先取るベンチャー経営者として雑誌の取材を受けたこともあるが、今、自分がやっているのは、印刷会社のデジタル部門の仕事と同じだ。小さな資本で、収益管理に追われている様はよりシビアだ。

このまま、人生を終えるわけにはいかない。ベンチャー経営者になって、サラリーマンを辞めてみたところで、資本主義の枠組みから逃れることなんてできない。

さくら「このTCF/TCCに可能性を感じるのは、収益性も大事だけど、それよりも大事なものがあると明確にしているところです。まず、本人が絶対的に必要なものとして捉えているか、それは社会に必要なものとなる可能性が十分にあるか、それがスタートの条件であり、収益性というのは、継続の条件であり目的ではないと言うことです。」

さくら「よく、こうしたことを話すときに、鶏と卵と言われます。儲かっていると、CSRにも目が向けられるが、そうでないと、コストカットなどで苦しくなり継続できないと。しかし、自社や事業の存在意義そのものを見直し、世の中に本当に必要な事業が最適サイズで継続するために利益を基準とする。これがこれからの社会重要なのではないでしょうか。」

裕太は考えた。
自分たちの作ったChirasee.comというサービスも会社も一旦役割は終えつつあるのかもしれない。印刷会社に譲渡し、コストを圧縮しながら運営することで、必要な移管を終えて、自身は新しい挑戦をすべきなのかもしれない。
TCF/TCCの説明会への登録を進めた。


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