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T.N.T

!EXPLOSION!

とびきりの興奮を覚える瞬間はいつもそうだ。
一瞬の煌めきのすぐ直後、轟音が耳を刺す。
俺はボマー(爆弾魔)、そうあることで死(私)を直感し、同時に生(性)を味わうのである。

T.N.T.(ACDC)を聴きながら書き殴る。

https://youtu.be/NhsK5WExrnE?si=ZIQkoTnWwAy88l8T


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俺は自らを爆弾にする能力者。
その能力は自らの内在的な抑圧からの解放、いわばギャップの摩擦、急激な刺激的興奮が大爆発に変換される。
俺は露出癖のある変態だ。人の大勢いる街中でこのコートを脱げばひとまず俺の半径5mを吹き飛ばす爆発を起こすことが出来る。
問題は慣れてしまうことには興奮というものは沸き立たせられないのだ。その度俺はシュチュエーション物のAVを漁るがごとく様々な状況下で自らを凌辱する方法を思考している。
それはときに目隠し、涎玉、亀甲縛りと多岐にわたり、今や公然での自慰行為なしでは強大な爆発は起こせなくなった。

自身が辱められその醜態を不特定多数にみられることに強い関心と興奮を覚えるようになったのは恐らく中学二年生の頃のこと、5月を迎え新学期にまだ馴染めなかった俺はその日、この世のものにしてあまりにも胸糞悪く、奇怪な光景を目にした。DLsiteで寝取られもののASMRを漁り続け、サンプル音声でのマスターベーションを早朝の4時に終えた俺は、いざ眠りにつくのも腹立たしい気持ちになり、朝イチで校門をくぐってやろうと決意した。

しかしどういう訳か5時43分の段階で普通なら閉まっているはずの校門が解放されている。静寂の中誰もいないはずの階段をやけに足音に注意して登った。
教室の前で妙に生々しく言い尽くせない不快感を嗅ぎ取った俺は、少しだけ開いた扉から黒板前の教卓でなにやらうごめく二つの陰を、クラスメイトの女生徒が担任の教師に犯されているところを目撃した。

俺の隣の席に座っている、いかにも意思の弱そうで華奢な色白の女生徒である。か細い喘ぎ声をもらしながら、制服を着せて恥部だけをやたら露出させた趣味の悪い格好で、どこかその時間をやり過ごすかのように押さえつけられる彼女と、パンツを腰より下ろし、汗ばみ中央から色の濃くなった鼠色のタンクトップ姿で、息を殺すように教え子を貪る、脂ぎった中年教師を静観していると、ふと自分の股間部に違和感を感じた。ジリジリと熱いのだ。まるで下着の中で手持ち花火が吹き出しているかのような、限りなく生命活動から逸脱したケミカルな反応が起こっているような、そんな感慨を抱いた。

俺が下半身に視線を下ろしたとき、その光景に俺の理解は追いつかなかった。きっと今後ずっと置き去りにされていくのだろうとさえ思った。無意識にその手はペニスを握りしめており、亀頭の先端から火花を散らす俺の醜態が視界に映り込んできた。大脳皮質からの神経細胞や脊髄への指令は停止しているようなのに、運動ニューロンだけがひたすらに激化し、快楽物質の莫大な放出から超越的なエネルギー変換の為に生み出された不可抗力の気色悪さが俺の全身を駆け巡った。しかし、快楽に溺れた俺の思考は許されないのだ。俺は己が醜態を遂に自己超越したとでも言おう、まさに鳥瞰的視点で認識した。
そしてそれら爆発的なエネルギーからコンバートされた可燃性ガスを、皮脂膜に覆われたはずの体表から噴射し、次の瞬間に火力の一斉放出が行われることを薄れゆく意識の中で辛うじて理解した。


次の瞬間、視界はホワイトアウトした。


その後の記憶を瓦解した壁や勉強机、割れ吹き飛んだ窓に、そこら中に飛び散っていた女生徒の肉片と、皮肉にも息子共に立ち尽くした担任だったものの下半身。それら有機物の酸化した香りと灰被りの塵芥らが、たった今ここで起きた現象を余すところなく解説してくれるようだった。
立ち込めた腐敗臭が鼻腔と舌を刺すと、自分の扁桃体や眼窩前頭皮質の回復を理解した。
にもかかわらず、火災探知警報が校内に鳴り響く中で、全裸になった俺は今方の興奮の余剰に浸り、漏れ溢れ出す二時的爆発を止めることができなかった。

2年生の教室がある3階から校舎を崩壊させながら、爆風と共に廊下を掘り下げ、地下のプールに落ちた俺は、貯水タンクから溢れ出た水を全て干上がらせるまで誘爆を繰り返した。

近所の人間が校庭の外側へぞろぞろと集まり、しばらくしないうちに様々にパブリック風味のサイレンがハーモニーを奏で始めた。

ドーパミンが過剰分泌され続けた故の失神状態に陥りながらも、数分前まで義務教育の施されるだけだった牢獄に立ち尽くしていた俺は、武装した男たちにその身を拘束されかけた瞬間に爆風と共に体を宙に浮かせ飛んでいた。

“ハイ”になっていたのだ。精神と時に物理と対をなすことなく共存を図っていた。
俺は俺だけでなく、人類という普遍的世俗概念をも超越した快哉に、また一つ上空で爆発を漏らした。


『見上げろ人間、汚ねぇ花火だ』


しかしお前たちは“見上げる”ことでしか俺を認識することはできない。内心でどれだけ俺を嫌悪しようと、憂いていようともだ。

ふと同時刻にジャンボジェットが爆発する音が聞こえた。断末魔のように聞こえたがどうも違う、爆発後も長らく人間の声がした。
俺は耳を澄ませた。男たちが複数人で上空を舞いながら「NAHHHHHHHHHHHHHH!!!」と奇声を上げて起爆していたのである。
思春期の少年が抱いた人類への超越的な優越感は意図も容易く、この刹那に切り裂かれたのだ。
自尊心なんてものはこれほど流動的で相対的なものだったのかと、フレッシュな超能力者は溜息を吐いた。

そして全てがどうでも良くなった。


『帰ってシコるか…』


そう呟いた俺は、この日から毎晩帰る家を探し続けることになるのであった。

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