フィールドオブドリームス

喉の酷い腫れと頭痛、鼻水。「あーやっちまったかなぁ」低い天井を見上げため息をつく。身体が自分のものではないかのような浮遊感。

ひとまず職場に連絡し、然るべき時間にあらゆる病院に電話をする。合否待ちの受験生のような気持ちで日中を過ごす。

結論から言うとただの夏風邪で安堵したが、翌日、未決裁の書類の山に再び体調が悪化する感覚を覚えた。

禁忌を犯してしまった。通勤時にグリーン車に乗る行為。ホームでsuicaを機械にかざせば、苦痛の通勤時間は小旅行のような気分になる。流石に缶ビールを開ける気にはならないが、本を読んだり、考えごとをしたり。目減りする残高からは目を逸らしながら。この甘美な堕落と今後戦っていかなければならない。何かを成し遂げたわけでもないのに、自分にご褒美をあげすぎだ。まぁでも今日は体調悪いからしょうがないよね。自分の中のタイガーウッズが「頑張ったからこれくらい許されると思った」と釈明した。

「M?Mだよな!?」かつて一緒に野球をした、疎遠になってしまった友人に偶然再会した。路上で安酒を煽りながら、彼のささやかな成功とその後のほろ苦い蹉跌を聞いていた。
「料理の腕には自信があったんだ…」缶チューハイを持つ彼の手が妙に震える。もう、全部言わなくてもいいよ。再会の喜びはすっかりトーンダウンし湿気た風が頬を撫でた。
「頑張れよ」も「絶対上手くいくさ」も違う。燻る熾火をどう消して別れればよいか考えるも、気の利いたセリフは思い浮かばず「トイレに行くわ」と告げて立ち上がった瞬間、目が覚めた。

体調が悪いと妙な夢を見る。もしかして、と思ったが彼が開いた(とされる)レストランの名前は検索しても出てこなかった。リストランテ“ジョー・ジャクソン”

※藤沢駅の北口にテニスコートくらいの大きさの人工芝のフリースペースがあって、夕方から夜は若者たちの青春が迸っている(土日の朝は酔い潰れたおじさんの死体が転がっている)ので勝手にフィールドオブドリームスと呼んでいる。

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