令和の光

本当にみみっちいというか貧しい話ではあるが、大学生の頃はとにかく何か拾っていた。お母さんのしまむらコーディネートファッションレベルでお洒落に無頓着だったため、服は大学のゴミ捨て場に捨ててあったテニサーのウェアなどを着ていた。マンガが捨ててあれば拾ってサークルの部室に置いていた。拾った教科書は溜まると教科書を買い取ってくれる謎のサークルの“モエモエニャンコさん”なる女性に売っていた(メールアドレスがそうだったのでそう呼んでいた)。「あの人何なんだろうね」と当時のベースの泉君に訊くと「たぶん教科書が主食の妖怪ですよ」と答えていたが真偽のほどは定かではない。

ある日、1本のVHSを拾った。○○の光の勧誘ビデオだった。部室にはビデオデッキがあった。T-DRAGONと一緒に観た。あらすじはこんな感じだった。

かつてバンドをやっていたが今はしがないサラリーマンで生きる目的を見失っていた主人公。ある日、昔のバンド仲間に誘われ気乗りしないまま集会に参加した。それをきっかけに次第に社交的になり友人も増え表情にも生気が宿るように。そんな折、その宗教団体のイベントでステージでバンド演奏をするオファーが。同じ宗教仲間とバンドを組み、ステージで演奏を披露する。達成感でいっぱいの主人公にバンド仲間が言った。「お前のドラム、ホットになったな!」

最後のセリフにT-DRAGONと爆笑した気がする。


先週のライブではカレー屋でライブをした。限られた環境と機材。当然ドラムセットなど用意出来ないのでT-DRAGONはメルカリで3,000円くらいの布を叩くとドラムの音が鳴るパッドを買った(スイッチを入れると何故かWindowsの起動音が鳴る)。前の週の3時間のスタジオで仕上げた。というかうち2時間は演出を考えていた。

本番、大丈夫か心配だったが激しいフィルで混沌としてくると合わせるのが大変だった以外は何とかなった。ような気がする。T-DRAGONは器用に指でポチポチ叩いていた。十数年前に初めて会った時から比べると見違える程上手くなった。

打ち上げもせずに皆帰路につく。去り際、ふとそのセリフを思い出した。

「お前のドラム、ホットになったな!」

めちゃくちゃダサいので当然言わなかった。半袖が少し涼しい季節になっていた。

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