テレビを見すぎる日本人

石川善樹

1.テレビと健康の関係

少し前になりますが、「日本人は毎日どれくらいテレビを見ているんだろうか?」と調べたことがあります。総務省の調査によると、日本人は一日に平均4時間40分テレビを見ているそうです。ちなみに諸外国では、ヨーロッパ人が3時間、オーストラリア人が4時間、アメリカ人が5時間、毎日テレビをみているのだとか。すごいですね。

そんな私たちに警鐘を鳴らしているのが、ハーバード大学のフランク・フ教授です。

「現代人はほとんどの時間を、仕事するか、寝るか、あるいはテレビを見て過ごしています」

2011年6月15日、フランク教授の研究チームは、驚くべき研究成果を発表します。過去40年間に行われた研究を統合して分析した結果、テレビを見る時間が2時間増えるごとに、糖尿病のリスクが20%、心臓病のリスクが15%、さらには早死にするリスクが13%増加するというのです。

特に、一日のテレビ視聴時間が3時間を超えると、早死にするリスクが急増することがわかりました。

ちなみに、日本人と同じぐらいテレビを見ているオーストラリアの研究では、テレビを1時間みるたびに、寿命が22分縮まると報告されています。さらに、「テレビを一日6時間みることは、タバコを吸うのと同じくらい健康に悪い」と、研究者たちは指摘しています。

それにしても、なぜテレビをみると、病気になりやすかったり、早死にしやすいのでしょうか?

フランク教授は、1)体を動かす時間が少なくなる、2)テレビを見ている間につい食べてしまう、などが原因で太ってしまうからではないかと述べています。

「テレビがなければ、本当はもっと有意義なことに時間をつかえるのに・・・」

頭では十分理解していても、好奇心という誘惑の前に、私たちは簡単に屈してしまいます。そうかといって、明日からテレビを見ないで過ごせるか、というときっと難しいと思います。では、どうすればいいのでしょうか?

テレビ大国アメリカに目を向けると、「どうすればテレビを見る時間を減らせるのか」、様々な研究が行われています。

2008年1月、アメリカ疾病管理予防センターは、「視聴時間を減らすための行動的介入について」という報告書を発表しました。テレビを見る時間をへらすために、いくつもの方法を研究した結果、特に有効だったプログラムが

「スイッチオフ・チャレンジ」

です。以下、具体的な内容についてみていきましょう。

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ステップ1.見たいテレビ番組をあらかじめ決めておく

テレビをつけてから、なんとなく見たい番組をさがすのではなく、あらかじめ見たいテレビ番組をリストアップしましょう。

ステップ2.見ない番組を1つだけ決める

見たいテレビ番組をリストアップしたら、その中から一つだけ、“見ない番組“を決めます。

ステップ3.実行できたら、自分にご褒美をあげる

見たいテレビ番組をあらかじめ決めておき、そのうち一つだけを見ないことができたら、自分にご褒美をあげましょう。ご褒美は、お菓子でもジュースでも、なんでもいいです。

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このスイッチオフ・チャレンジを一言でいえば、

「テレビをいつ見終わるか、見る前から決めておく」

ということにつきます。

テレビをつける前に、「今日は、何時間みようかな?」と決めるだけでいいのです。そして、2時間なら2時間と決め、時間がきたら「ピッ」と、断固たる決意で消してください。

「え、そんな簡単なこと?!」と思われるかもしれませんが、たったそれだけのことができないから、わたしたちは寿命を縮めてまでテレビをみているのです。

考えてみると、「終える時間」を決められるかどうかは、テレビに限った話ではないかもしれません。何をやるにしてもテキパキする人とダラダラやる人がいますが、両者の違いは、「いつその作業を終えるのか、あらかじめ決めているかどうか」という違いがあるように思います。

テレビを入り口に、自分の生活を見直すのもいいかもしれませんね。

2.幸せと健康の不思議な関係

話は変わるのですが、「うお!これは衝撃的な論文が出てきたな」と驚かされたので、それについても紹介させてください。

まず研究の背景なのですが、これまでにいくつもの研究で、「幸せな人たちは長生きする」と指摘されてきました。たとえばイギリスで行われた調査で、「今のあなたの幸せ度は、4点満点で何点ですか?」というシンプルな質問で、なんと寿命が予測できると報告されています。幸せ度が4点満点の人たちは、1点の人たちより35%長生きするのだとか。

ただ、従来の研究には2つの意味で、致命的な弱点があったといいます。一つは、「因果の逆転」の可能性です。どういう意味かというと、「幸せ→健康」という因果の向きではなく、実は「健康→幸せ」なのではないかというものです。

もう一つの弱点は、「間接効果」が考慮されていなかったということです。これもどういう意味かというと、たとえば「不幸せ→お酒を飲む量が増える→不健康」というようなメカニズムがある場合、それはむしろ「お酒」の効果のほうが大きいのではないかというものです。

そこで行われたのが、「幸せは直接的に死亡率に影響を与えるのか?イギリス女性100万人調査」というタイトルの研究です。上記に挙げた弱点を考慮した上で、100万人を対象に分析した結果、「べつに幸せでも長生きするわけではない」ことが分かったのです。

このような直感を覆すような発見が相次ぐので、やはり研究は面白いものだと、あらためて病みつきになってしまいます。

さてこの論文を詳しく読むと、これまでの研究で「幸せだと長生き」という傾向がみられたのは、2つの原因があるそうです。一つは、「もともと不健康な人は不幸せになりやすく、かつ早死にしやすい」のですが、そのような人たちの存在を十分に考慮できていなかったこと。もう一つは、不幸せな人は「煙草を吸う」ゆえ早死にしやすくなるそうです。

もちろん、これはあくまで一つの研究結果であり、今後もさらに様々な知見が出されると思います。私自身としては、たとえこの研究の結果が正しいと証明されたとしても、毎日が少しでも幸せになれるよう工夫をしたいなと思っております。

そのためには、先ほど述べた、テレビ(あるいはスマホでの動画視聴)との関係は、しっかりと見直さないといけないなと思います(ちなみにですが、年収が300万円上がるよりも、1日10分のジョギングをしたほうが、幸せ度が上がるという研究もあります)

3.人生のマイルストーン

さて、テレビや幸せという話をしてきましたが、もう少し別の角度から人生を考えてみたいと思います。その意味で、先日とても面白い論文を読んだので、ご紹介したいと思います。

この論文では「長期間にわたって活躍できる研究者の特徴とは何か?」を調べており、ノーベル賞受賞者を含む数十名の研究者を長年にわたって追跡調査したものです。

結論からのべると、次のような2つの特徴があったということです。

1)45歳までに5本以上の傑出した論文を書いている

2)平均して5回は大胆に研究分野を変えている

わたしが面白いなと思ったのは、2つめのポイントです。おそらくこれはビジネスなどでも同じことが言えるんじゃないかと推察します。たとえばスティーブ・ジョブスは、スタンフォード大学の卒業演説で、何がよかったかはあとからわかるんだという「Connecting the dots」という概念を述べています。同じように研究者も、さまざまな研究分野に取り組んだことが、あとから結びついて、長きにわたる成果につながるんじゃないかと。

ではなぜ、偉大な研究者はかくも研究分野を変えることになるのでしょうか?わたしたちのイメージでは、研究者というものは、一心不乱に細部を追及しているイメージがあるので、研究分野自体を変えてしまうことは、学者としての本分を捨てるようにも思えるかもしれません。

その理由についてわたしなりに考えてみたのですが、おそらくそれは、めざしているところが遠いからなのではないかと思います。視点が高いと、当然いろいろなことが視野に入ってきます。つまり、はたから見ていると研究分野を変えているように思えても、当人からするときわめて自然なことなのかもしれません。

わが身を振り返ると、「はたして自分は、どれだけの高い視点をもって、目の前の細部を追及できているだろうか?」と反省させられます。今自分が見えているものはほんの一部なのだという自戒を胸に、これからも研鑽を積み重ねたいと思います。

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