予防からWell-beingへ

石川善樹

1.100年後の健康づくりとは?

突然ですが、いまから100年後の健康づくりは、何が中心的なキーワードになっているでしょうか?これは全くの予想でしかありませんが、私は「Well-being」になるのではないかと考えています(注:Well-beingとは、満足の本質、という意味)。

そもそも「健康」は、WHO(世界保健機構)によって “Health is state of complete... well-being”、つまり「完全にWell-beingな状態である」と定義されて以来、その後半世紀以上も変わっていません。そのような意味で、健康づくりは原点回帰する、ともいえるでしょうか。ちなみに、実際にどの程度の日本人が自分の人生に対して「満足」できているかというと、わずか19%という数値がGallup社より報告されています。これは諸外国と比較しても、極めて低い割合になっています(図1)

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さらに詳しく見ていくと、日本人の満足度に影響を与える要因は図2のとおりです。これをみて私が特に面白いと思ったのは、「困ったときに頼れる人がいる」というつながりや、「自分の人生を自由に選べる」というコントロール感が、わたしたちの満足度に「経済や健康状態」と並んで影響を与えているという点です。

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このように日本はWell-beingという観点からは惨憺たる状況ですが、いずれにせよ世界の健康づくりが「予防からWell-beingへ」という大きな流れがあるのだとすれば、これから私たちはどうすればよいでしょうか?そのヒントを探るためにも、ブータンに目を向けてみたいと思います。

2.ブータンへの旅

つい先日、ブータンを訪れてきました。というのも、ブータン王家の方にご招待いただき、現地の生活や文化、ブータン仏教などについて学ばせて頂く機会を得たのです。

ご存じのように、ブータンは「幸せの国」と呼ばれています。

「幸せの国」とは一体どういうことなのか、興味がありました。

ブータンでは1999年、それまで長い間禁止されていたテレビとインターネットが解禁されました。その結果、国民の幸福度が下がったと言われています。

それまで情報をシャットアウトすることで幸せを保っていたのが、外の情報が入ってきたことで、「何が満足いく暮らしなのか?」という問いに対する答えが、ガラッと変わってしまったのです。

実際、私たちが訪れた時はちょうどブータン仏教で25年に1度のお祭り期間中だったのですが、その大事な儀式の最中に、若い僧侶たちは普通にスマホをいじっていたんです。その姿は私たちがイメージする敬虔な僧侶とは全然違います。日本の若者たちと何ら変わりません。

もっとダークサイドな話をすると、ブータンでは今、若者のドラッグやアルコール中毒も大きな問題になっています。

そんな中、現地のある若者の振る舞いにハッとさせられました。

ブータンでは、外国人は専属のツアーガイドがついていないと旅行ができません。私たちにも2人のガイドがつき、そのうちの1人は、インドの大学で学んだという23歳の若者でした。

ガイドになりたてという彼に対して、「夢は何か?」と聞きました。

皆さんなら、何と答えるでしょうか?

決して答えるのが簡単な質問ではないと思うのですが、彼は迷うことなく、きっぱりとこう答えてくれました。

「僕の夢は、賢く、思いやりを持った人間になることです」

あまりに即答だったので、普段から本当にそう思っているのでしょう。

続いて「自分にとって満足いく暮らしとは何か?」と聞いてみたら、今度も彼は即答で、「4つある」と言いました。

「自然環境が良いこと」

「自分の周りの人の行いが良いこと」

「心の平安」

「ちょっとした冒険ができること」

この4つです。

彼は英語もできるし、インドへ留学するくらいのエリートだから、ブータンへ帰ってこないで、そのまま世界中のどこかで仕事をしてもよかったはずです。

実際、海外で仕事をしているブータン人もいます。

ブータン人の平均月収は200~400ドル、およそ2万~4万円です。

ジェイ・ケンポと呼ばれるブータン仏教の大僧正でさえ、月収18万円程度。だからお金を稼ぎたいなら、当然海外へ行ったほうがいい。

でも、彼はブータンに戻ってガイドになることを選びました。

それは、「自分はどんな人間でありたいのか?」「自分にとって何が満足いく暮らしなのか?」という観点から考えたら、たとえ稼ぎは少なくても、ブータンでガイドをするほうがいいと判断したのでしょう。

ガイドをやればいろいろな人と出会うので、賢さという部分も身につくでしょうしね。

しかし、それにしてもさすが「幸せの国」の若者だけあります。この対話をして以来、私はガイドの若者を「先生」と呼ぶことにしました(笑)。

ところで、これだけ立派な先生は、一体どのような悩みを持たれるのだろうか!?

疑問に思って聞いてみると、思わぬ答えが返ってきました。いわく、

「……彼女が欲しいです」

そこは23歳の男です、少しだけ安心しました(笑)。

さてさて。

話を元に戻すと、「どんな人間でありたいのか?」「どんな暮らしが満足いくのか?」を自分なりに考えることが、「well-being」への第一歩なのかなと思いました。

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