「観光と環境のステキな関係」

山口商店合同会社 CEO 山口幹生

「ご当地の名物を、その土地の風を感じながら味わうこと以上の贅沢はない」

誰かの名言っぽく書きましたが、ただの僕の感想です(笑)。色々な地方の仕事をしていると、とても実感するのです。その土地の空気感、風、におい、風景、文化、人柄などが混ざり合って生まれる奇跡の産物。これをその時だから味わえたという再現不可能な体験として味わうもの、それが最高の体験だと思います。食べ物をおみやげとして買って帰って再現してもがっかりすることが多いことに共感いただける方は多いのではないでしょうか。

先週末に石垣島に行きました。そこで味わったご当地の名物は、石垣を代表とするアーティストBeginさん。そして、その代表曲の1つ「島人の宝」の生ライブを味わうことができました。しかも場所は石垣の浜辺、海の風を感じられる場所(雨季で風が強かったので、実際は台風のような強風でしたが)。今までの自分は、「Begin」と呼び捨てにしていましたが、最高のパフォーマンスを体験しまして、敬意を表してこれからは「Beginさん」と呼びます。

地元のヒーローを受け入れる地元の観客の様子、またそれに応えるパフォーマーの皆さん。人生初めてのご当地グルメならぬ「ご当地ミュージック」。終わった後にしばらくその余韻に浸っていました。しかし、その直後にとても考えさせられる話を、石垣に住む「おばあ」から聞きました。その「おばあ」からの話の前に、少し前置きです。

1000年後の世界史の授業で、いまのこの時代はどのように語られるでしょうか。技術の進歩により一般人が兵器を持てるようになったことによる「テロの時代」、情報技術の進歩により新しいベンチャービジネスが続々と生まれた「新しい産業革命がおこった時代」、医療技術の進歩や衛生環境の改善による「人生100年時代」など色々な観点で語ることができます。しかし、僕があえて1つ選べと言われたらこれを選びます。

「世界大交流時代の突入」だと。

国連世界観光機関(UNTWO)が発表している世界観光指標によると、2016年の海外旅行者数は12億3,500万人に上り、これは過去20年の間で倍に増えたことになります。日本でも海外からの観光客が急増し、今後も加速度的に増えていくことが予想されていることはご存知の方も多いでしょう。この背景には様々な理由があることが考えられます。新興国での経済発展、戦争が少ない平和な情勢、言語の壁を越えた文化交流がしやすい情報技術の進展などでしょう。これは不可逆的な動きだと思います。

一方で、日本の地方の観光推進に関するプロジェクトに関わっていますと、観光客の増大によって課題が生まれている地域が多いことも分かっています。その代表的な例を石垣島で会った1人の「おばあ」から学びました。彼女は、「皆さんには悪いけど、観光客はこれ以上増えてほしくない」と。

石垣島のサンゴ礁は、世界有数の規模と美しさを誇っていますが、近年その50%以上が死滅、90%以上が白化してしまったと環境省が発表しています。その理由の半分以上は地球温暖化だと言われていますが、聞くところによると近代的な暮らしになれた観光客が泊まるホテルからの生活排水などによる海洋汚染の影響も強いそうです。

観光を次の成長産業とすることで、若い人の移住・定住者が増えている一方で、島の環境を悪化させてしまう。石垣の文化を継承する「おばあ」が大事にしている島の宝を傷つけてしまう。これは「島人の宝」を聴いて余韻にふけっている場合じゃない!

石垣島の未来にとって観光は大きな産業となります。一方で住民の皆さんが大事にするものを壊してはいけない。現地にてリゾート開発に対する住民反対運動の資料もいただきました。観光推進のためには、環境とのステキなバランスを保っていく必要があることをよく学びました。また、観光などの産業と環境だけではなく、地域の未来はもっと多くの要素が密接に関係していることを実感します。特に教育、医療福祉、産業と雇用、の3つについては、地域の経済を考える上で必ず関わってくるテーマだと思っています。

それぞれの分野について個別に取り組んでも成果は出にくい。それらすべてのテーマを総合的にかつ横断的に指揮を執ることができる人材が、単なるビジョンのレベルではなく具体的な計画まで策定して実行推進をすることが求められていると思い、自分はその一端を担っていこうと考える石垣の夜でした。

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