ジャニーズ事務所契約自粛問題とキリスト教徒である罪

ジャニーズ喜多川が性加害を行い、芸能界における強大な権力を持っていたことで、死去するまで隠蔽されたことがBBCによって報道され、現在ジャニーズ事務所、ひいては日本の芸能界は厳しい批判にさらされている。

ジャニーズ事務所との契約を続けることによる2次被害を恐れた企業は次々とCM契約を打ち切っている。
例、日本航空:櫻井翔、松本潤、東京海上日動:相葉雅紀、日産自動車:木村拓哉 、日本生命:なにわ男子藤原丈一郎、日本マクドナルド:木村拓哉第一三共:松本潤

直接的に性加害を行った訳ではない多くの企業が打ち切ったのは、ジャニーズ事務所と関係を断つことで、社会的コンプライアンスを遵守し、人権侵害を行った組織と関与してはいけないという道徳的規範を示すためであろう。これは反社と関わりを持つことがいけないことと同じだ。

また、ジャニーズ事務所の記者会見では「ジャニーズ」の名前をそのまま使用されることが発表された。多数の性加害を行ったジャニーズ喜多川氏の名前を使用し続ける、ジャニーズ事務所はさらに批判の的となっている。

組織的な罪への贖罪

国家、宗教、会社。世界のさまざまな団体は常に道徳的に正しかったわけではないし、明文化されたか否かを問わずに多くの法を犯してきたが、このような組織的な罪はどうやって償われるのだろうか。

第2次世界大戦の敗戦国となった日本とドイツを例に見てみよう。現在でも戦後補償問題は残っているが、国際社会から、日本・ドイツは犯罪的な国家だから国連の加盟国にはなれない、国際貿易に参加できないということにはなっていない。この2つの国の罪は国際社会復帰が出来る程度に償われたのだ。

組織の罪を償う方法の1つは公式な謝罪を行うことだ
戦後日本は第2次世界大戦についてさまざまな謝罪を行っている。植民地支配と侵略について、村山談話、日韓共同宣言、日朝平壌宣言で、中国への侵略については日中共同宣言、村山談話などだ。

2つ目は、被害を受けた人々への補償を行うことだ。
これは日本政府が韓国に対して行ってきたことだ。また、戦後処理として敗戦国が戦勝国に賠償金を支払うことは歴史的にも多く行われてきた。

3つ目は、罪を犯した組織を解体しその上に新しい組織を作ることだ
現在のドイツはナチズムを信奉していないし、連合国によって作られた民主的なドイツの延長線上にある。これはドイツ東西が統合しても同じだ。
戦後日本は大日本帝国を墓標してはいないし、GHQによって作られた民主的制度中で国家運営を行なっている。
反例としてジャニーズ事務所はジャニーズの名をまだ冠していることについて大きく批判されている。

組織としてのキリスト教とその歴史


このように組織的な悪事を働いた団体は謝罪、補償、及び解体を迫られるわけだが、長期間に渡り組織的な悪事を働きながら現在も活動している組織がある。それはキリスト教、及びその教会的権力だ。

キリスト教が犯してきた人道的な罪は以下の通り。
・植民地支配への加担
・宣教師たちによる奴隷貿易
・人種差別の助長(肌が黒いのは罪を犯したしるし)
・先住民の迫害などなど。

これらは「公式な」植民地支配が終わった現在では過去のことであるが、現在でもキリスト教会内部では、未成年への性加害が行われている。

2002年アメリカで報道されたこと、メキシコ、オーストリアといった国々でも訴訟が起き、イギリス、オーストラリア、オランダ、スイス、ドイツ、ノルウェーにでも問題となった。1950年〜2022年の間にカトリック教会の聖職者による性的虐待が1002件あったことが、2023年に発表された。

少なくとも植民地支配の頃からキリスト教は人道に対する甚大な侵害をおこなってきているのだ。

キリスト教の贖罪

2020年メキシコの大統領はローマ・カトリック教会が先住民迫害に関与したことについてローマ教皇に謝罪を求めた。

このように欧米諸国の植民地支配への批判が高まっている社会情勢を受け、ローマ教皇フランシスコはカナダなどで先住民に対する迫害について謝罪する旅を行っている。しかし、謝罪では足りないと先住民たちの怒りはおさまらない。

現行の法王フランシスコ教教がアルゼンチン出身であることも、贖罪の一つであろう。もうヨーロッパからのみ教皇が選ばれる時代は終わった。旧植民地の人々もキリスト教共同体の一員であると。

また、キリスト教では罪を告白し反省することで罪が報われるという思想がある。キリストが苦行を行ったことで、罪を悔い改めた人々の身代わりとなり、解放してくれる。そして神との和解を促してくれるという思想だ。

キリスト教の贖罪は十分なのか。

キリスト教はこれまで行ってきた罪を十分に償ったのであろうか。現在でも性加害が行われていることは、キリスト教・教会的権力が更生されていないことを示すのではないか。

キリストが身代わりになったとしても、それはキリスト教徒にとっての贖罪であって、キリスト教を信奉しない人にとっては罪を償ったことにはならない。

ジャニーズ事務所が日本の芸能界において大きな権力を持っていたゆえに、不正義が弾劾されなかったの同様、キリスト教は現代社会において強大な権力を持っているので、正当な弾劾を受けていないのではないだろうか。

この状態において、キリスト教徒であること、キリスト教に寄付を行うことは、ジャニーズ事務所が現在でもジャニーズ喜多川の名前を冠していること、ジャニーズタレントを起用することが社会的道徳に反することと同様に罪ではないだろうか。

キリスト教がこれまで行ってきた人道的な罪を贖罪するには、謝罪に加えてさらに、被害を受けた人々への補償を行うこと、罪を犯した組織を解体しその上に新しい組織を作ることが必要であろう。

植民地支配を行った国々が現在でも同地域を支配していたら罪であるように、キリスト教は植民地支配を行った国々から一度撤退しなければならないし、ヨーロッパの人々の寄付から集めたお金を用いて被害を受けた人々に補償を行わなければならないだろう。

中世の宗教戦争では、お金で免罪符が買えることを批判したルター派は新しい宗派を作った。このように、長らく人道的罪を犯してきた古いキリスト教は、人的にも信仰面でも新しいキリスト教に変わらなければならないだろう。

キリスト教の方へ問うてみたい。長期間に渡り組織的に人権侵害を行ってきた組織の一員であることに誇りを持てるのか。あなたは教会に寄付することで現代においても行われている教会による罪を助長しているのではないか。キリスト教内部から旧権力を取り払い、新しい教義を打ち立てる必要はないのか。

植民地時代から続く欧米の世界支配はキリスト教の力を大いに利用してきたし、キリスト教もこの支配を利用して多くの信者を獲得してきた。この問題は簡単に解決できることではないし。これからも長きに渡り国際社会の議論の的になるだろう。

最後に

辛辣な言葉を使ってキリスト教を弾劾する文章を書いてしまったが、日本でジャニーズ事務所が大きな問題になっている中、そういえばキリスト教も同じ論理でもっと批判されるべきではないのか?と思ったのであり、筆者が日頃から目の前にいるキリスト教徒を弾劾し回っているわけではない。日本やアジアでの不正義は大きな問題になるのに、欧米社会の罪は過小評価されているのではないかと感じている。

ヨーロッパに住んでいる筆者として、善と悪の二律背反思想に基づき常に自らが行う行為を正当化し他国が行う行為を不正義と弾劾し搾取・暴力を行ってきた欧米社会のあり方に疑問を持ち、現在でもヨーロッパ人の多くが自分達が間接的に世界中で不正義を行っていることに気づかずに生活していることを目の当たりにし、欧米社会のあり方、その根本を支えるキリスト教権力は正しいのかと問うているのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?