海外には「弱いものイジメのお笑い」はないのか



日本のお笑い批判

 松本人志さんの性加害疑惑報道に便乗して「日本のお笑い」もネット界隈で批判されるようになりました。「つこっみで叩いたりするのは暴力だ」「容姿をヤジるようなつこっみもルッキズムだ」と批判していますが、中でも「日本のお笑いは弱いものいじめで笑っている」といじめとお笑いが繋がっている点を批判しています。

 海外では人を揶揄するようなお笑いなはく、日本の独特の悪き文化で人権侵害だそうです。

海外には「弱いものいじめのお笑い」なないのか

 海外にも弱いものや人と違うものをいじめるお笑いはあります。
例えばBIG BANG THEORY。

 アメリカンコメディの代表的作品で、オタクであるシェルドン・クーパーとその友達、近所に引っ越してきた女優志望のペニー達が繰り広げるドタバタコメディです。

 このドラマのお笑いはシェルドン達、NERD(オタク)が揶揄されたお笑いです。内気でコミュ障、女性と会話できない弱者男性達が笑いの源泉です。また若い金髪女性のペニーは田舎出身で世間知らず。頭が弱いキャラとして笑いのネタになっています。

オタク = コミュ障、内気、女性が苦手。弱者男性
金髪美女 = 頭の弱い世間知らずな若い女性。弱者女性

という差別的な固定観念に基づいたお笑いです。

アメリカのオヤジギャグ・チャンネル YeaMad

 こちらのYeaMadは170万人登録者がいるYoutubeチャンネルです。親父ギャグ(DAD JOKE)をお互いに言い合い笑った方がショットを飲むという日本でもよくあるバトル形式のお笑いです。

 親父ギャグ自体人をバカにした要素がたくさんありますが、特にこのチャンネルの出演者である赤髪の女性は「赤髪」(Ginger Hair)であることで、ギャグのネタにされています。欧米社会では「赤髪」の人々は長らく差別的扱いを受けてきました。「赤毛のアン」がその代表例です。チャンネルでは「赤髪は変わり者が多い」という偏見に基づいて様々なギャグが展開されます。一例は「神様をガッカリさせるには???Be Ginger(赤髪になるだけ)」なんてくだりもあり、赤髪=少数者:弱いものいじめ丸出しのお笑いです。

異文化をバカにするお笑い

 コメディアクションのラッシュアワーのシーンですが、「ユー」と言う名前の中華系の道場師範にクリスが「お前は誰だ(Who are you?)」と聞き、「私はユー」だと答えます。クリスは「ふざけんな。質問に答えろ!」と怒りますがマスターは「今言っただろ。私の名前はユーだ」と答えます。水掛論争のようなドタバタコメディですが、中華系の移民の名前が、英語では「意味を持った言葉」(you)と同じ発音であることをお笑いにしています。

 映画「ディクテイター」は架空のアラブ国家の王様をバカにしたお笑い映画です。映画全体がアラブ社会をバカにした話ですので、何を書けばいいのか難しいですが、髭を蓄えた赤ちゃんのシーンを載せておきます。※アラブ人は立派な髭を蓄えている人が多いことをバカにしている

アラブ人をバカにしたこの映画の主人公アラディーンはアメリカの国民的お笑い番組Saturday Night Liveにも登場しています。

障がい者を笑いにするチャンネル。 Get Down with Sean and Marley

 こちらのチャンネルはダウン症のシーンとマーレイをフィーチャーしたチャンネルです。一見すると仲良く和気あいあいとした雰囲気で料理をしたりインクルージョン(障がい者を排除しない)指向のYoutubeチャンネルのように見えますが、実はかなり陰湿なお笑いのチャンネルです。

 アメリカのコメディは観客の笑い声が入って「ここは笑うところですよ」と教えてくれますが、この番組はこの「天の笑い声」が入っていません。

 しかしながら添付画像の動画では、ダウン症の女性がアジア系のダウン症の男性に「麺の水を切って」と頼んだのに、アジア系男性は水を持ってきてさらに水を足してしまいます。一瞬沈黙が流れ女性も「大丈夫、OK」と優しい言葉をかけますが、「麺の水を切る」と言う簡単な命令さえ理解できない障害者をお笑いにしています。

 コメントも直接的には「ダウン症で頭悪いなw」なんて直接的なことは書きませんが、「マジウケる」なんてコメントがたくさんあります。

モノマネ、あるあるお笑い

 アメリカや海外でも当然お笑いには他人をやじったり、モノマネ(英語でImpressionと言います)をしたり、ステレオタイプに基づいた弱いものイジメの要素を含んだお笑いはたくさんあります。

 一例はOverly attached girlfirend。こちらは彼氏を過剰に監視・束縛する(overly attached)な彼女のキャラでバズった動画です。不気味に目を見開いた女性が音楽に合わせってラップするのですが、時々目が死んで隠れたやばい本性が登場します。アメリカのニュース番組なんかでも取り上げられています。
 架空のキャラのお笑いですが、男性に過剰に依存するいわゆるメンヘラ女子を揶揄ったお笑いです。日本で言うと「こういうヤツいるW」、「メンヘラ女子あるある」みたいなお笑いですね。

 次はアカデミー賞授賞式でウィルスミスがお笑い芸人のクリス・タッカーをビンタした事件です。クリスはウィルススミスの奥さんの坊主頭を「GI Jane」(丸坊主の女性兵士の映画)に例えますが、彼女は脱毛症に悩まされてました。それを映画のキャラに例えたのですが、ウィルの奥さんが病気で坊主なこと、つまり「人の見た目を揶揄したお笑い」です。日本で言うとデブな女性に「お前マツコかよ!!」って突っ込む感じでしょうか。

 ウィルは奥さんをディスったクリスをビンタします。放送禁止用語を連発しクリスに「口を慎め」と激怒します。日本であれば「奥さんを馬鹿にされたんだから、当然だろう。ウィルの行動も理解できる」と社会的に受け入れられそうですが、アメリカではウィル批判の声が優勢でした。この事件の後クリスのツアーは大盛況で、ウィルの奥さんの病気を揶揄はしたが、ビンタされても冷静にやりきったクリスが評価されています。

上記のように海外でも弱いものイジメのお笑いはたくさんあるのですが、なぜ「日本のお笑いは弱いものイジメだ」「海外ではそんなことない」のような主張があるのでしょうか

日本も海外も同じことがあるのに偏見が生じる

 海外にも日本と同じようなお笑いはたくさんあります。私はドイツに5年住んでいますが、ドイツでもお笑いの話をすると「お笑いはどこか必ず他人をバカにする要素を含んでいる」と言うことは共通理解としてあります。
 私は結局どこに行っても人間が持っている感情は同じと思っています。国や文化で表現方法が違うだけという人類普遍主義的な考えを持つようになりました。一方「海外はこんなにも違う」「日本は特殊で変な文化の国」だとと主張する人たちもいます。

なぜこのような偏見を持つ人がいる理由ので可能なものは、

:ネタでやっている 
Xでいういわゆる釣りアカウントを運営していて、注目を集めるためにやっているパターン。失われた30年で日本人が自らの社会に自信を失っている中、日本を叩く内容の投稿で注目を集めているだけ。逆に日本経済が好調な時はジャパン・アズ・ナンバーワンと言う本が流行ったり日本礼賛が流行ってました。社会のトレンドに乗っかった人たち。

日本在住者

:海外を知らない
「日本のお笑いは弱いものイジメだ。アメリカでは権力者を揶揄することがお笑いだ」など主張しますが、そもそも日本にしか住んだことがなく外国語もできない。日本に入ってくる海外のキラキラ情報に踊らされている人たち。

海外在住者

:そもそも海外の社会を理解していない。
外国人の恋人にくっついて移住したパターンの人に多いですが、配偶者にくっついて来ただけで英語も現地語もロクに喋れずに仕事も簡単なパートの仕事しか出来ずに現地社会に溶け込めていないパターン。自分を愛している人がいると言う圧倒的環境バイアスがある中で、その幸福を移住先の国の文化のせいだと勘違いしている人々。
私が先にあげた海外の人をバカにしたお笑いも、この人たちは現地人と同じ社会認識を持っていないので理解できないでいます。

:精神障害やトラウマを抱えている
日本に生まれながらも日本で社会生活に失敗した人々が海外に移住して理想郷を追い求める人々が多くいます。彼らにとって日本での人生は「失敗」であったため、日本を蔑んで海外を礼賛することで精神的安定を保っています。海外にある弱いものイジメは自身のトラウマを想起させる可能性があるのでメンタル上でブロックされています(認知バイアスがかかっている)

結論

海外にも弱いものイジメのお笑いはたくさんあります。お笑いに他人をバカにする要素が多少なり入っているのはどこでも同じです。

「海外には弱いものイジメのお笑いはない」と言う主張はいわゆる「海外キラキラ」話の一つでしょう。

日本が経済・人口ともに衰退している中で自虐的な批判が流行るのは至極真っ当なことでしょう。しかしながらあまり海外に理想を抱きすぎないように。


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