見出し画像

ラーニングマネジメントシステムのSoRとSoEを考える

システムの捉え方に、SoR、SoE、さらにはSoIといった捉え方があります。今回は、ラーニングマネジメントシステム(LMS  Learning Management System)をこの観点から考えてみました。

まず最初に、Microsoft Copilotに「SoR, SoE, SoI とは?」と質問したら、次のように答えてくれました。


<MS CopilotによるSoR, SoE, SoIの説明>
もちろんです!「SoR」「SoE」「SoI」とは、情報システムを区分するための分類法です。それぞれ異なる目的を持つシステムで、以下のように分類されます

  • SoR (System of Record):データを正確かつ効率的に記録・蓄積するシステムです。企業内部で業務の遂行に用いられ、会計システムや基幹系システムなどがこれに該当します。SoRは静的なシステムであり、データ構造は設計段階から大きく変化しません。

  • SoE (System of Engagement):顧客や組織との接点を構築・強化するためのシステムです。顧客視点で物事を捉え、顧客との関係構築を行うために重要です。近年、顧客ニーズの変化に伴い、企業は顧客視点でシステムを設計する必要があります。

  • SoI (System of Insight):情報分析による有用な洞察を獲得し、新たなアイディアを生み出すためのシステムです。顧客の行動履歴データを解析したり、戦略策定に向けた仮説や洞察を導く役割を果たします。SoIはこのSoRとSoEを組み合わせたシステムと言えます。

これらのシステムは相互補完的な関係にあり、顧客志向のビジネスを実現するためには欠かせない存在です。顧客ニーズの多様化が進む現代において、SoIの導入は企業の明暗を分ける重要な要素となっています。



この理解の定義の下で、例えばラーニングシステムを考えてみましょう。
SoRとしてのラーニングマネジメントシステムは、研修を確実に実施するためのオペレーションシステムと捉えることができるでしょう。ですから、SoRのラーニングマネジメントシステムのユーザーは研修運営者・研修管理者と想定されます。そして、実施した研修の受講記録は確実にトラッキング可能な状態で保管される必要があります。このようなデータの蓄積は、例えばISO9000が求める品質マネジメントシステムが有効に機能しているかどうかのエビデンスとして受講記録が求められる時に役立ちます。また、研修運営者にとっては期日までに必須受講対象者が確実に履修すべく、その履修状況をモニタリングするために、ここでも確実な受講データの管理が求めらます。そうなると、ふと疑問に思うことは、SoRとしてのラーニングマネジメントシステムは誰のためのシステムかという視点で捉えると、受講者はユーザーではないということ?と考えたくなります。

一方、SoEとしてのラーニングマネジメントシステムを考えてみます。上述のMS Copilotが回答してくれた System of Engagement の内容から、SoEとしてのラーニングマネジメントシステムの役割は「顧客や組織との接点を構築・強化するためのシステム」ということになります。もうちょっと読み砕いてみると、顧客は社員、組織は事業部や部門、営業部といった組織と置き換えることができるでしょう。こうした社員や組織との接点を構築・強化するということはどういうことでしょうか。誰が、接点を構築・強化する、のでしょうか?
私は、「この誰が」は企業組織においては「会社が」ということだと考えています。つまり、会社が社員や組織と「ラーニング」に関して接点を持ち強化する、ということになります。社員はSoEとしてのラーニングマネジメントシステムにおいて、はじめてユーザー(顧客)となるわけです。

先程のSoRの視点では端的には受講管理システムとしての機能、性能が重要になると述べました。
SoEの視点では社員と組織との接点作り、関係強化ということになるので、ラーニングという学習の機会・プロセスを通じて社員が何らかの良い体験をする、組織にとっては組織が元気になるといったような効果をもたらす機能が求められます。端的に言えば、体験価値を提供する機能が重要になる。

体験価値とは何でしょうか。従業員体験価値=Employee Experience、略してEXとも言われます。昨今、デジタルマーケティングではAIDMAやAISASからさらに進んでDECAXと言われています。


<MS CopilotによるDECAXの説明>
DECAX
は、消費者の購買旅程を5つの異なるフェーズに分けて表現するモデルです。それぞれのフェーズを詳しく見てみましょう:

  1. Discovery (D): このフェーズでは、消費者はGoogle検索、ソーシャルメディア、その他のオンラインプラットフォームを通じて製品やサービスを発見します。従来のモデルとは異なり、企業が積極的に消費者にアプローチするのではなく、DECAXでは消費者が自然に高品質のコンテンツを見つけることが重要です。

  2. Engage (E): 発見の後、消費者はブログ、自社メディア、YouTube、ソーシャルメディアなどのコンテンツと関わります。企業は一貫して関連情報を共有し、信頼を築ることで関係を構築します。長期的なエンゲージメントが重要です。

  3. Check ©: 関係が深まると、消費者は特定の製品やサービスに興味を持ちます。企業や製品について調査し、情報を確認します。信頼を築するために重要なフェーズです。

  4. Action (A): 消費者は製品やサービスが自分のニーズに合うことを確認したら、行動を起こします。購入することやカートに商品を追加することもこのフェーズに含まれます。

  5. eXperience (X): 購入後、消費者は製品やサービスを体験し、ソーシャルメディアでその体験を共有することがあります。ポジティブな共有はDECAX内で好循環を生み出します 。

DECAXの重要性は、情報過多のインターネット時代に適応できる点にあります。従来のアプローチとは異なり、DECAXは消費者の視点から始まるため、コンテンツマーケティングにおいて強力なツールです。ただし、企業は注意が必要であり、eXperienceフェーズでネガティブなレビューも出てくる可能性があることを理解する必要があります 。
DECAXはいくつかのモデルのうちの1つであり、それぞれ独自の強みと制限があります。これらのモデルを理解することで、マーケターは消費者の購買旅程全体で効果的な戦略を立てることができます 。 



ラーニングコンテンツも必修科目としてデリバリーされるものもあれば、選択科目としてデリバリーされるものもあります。必修科目の研修においてはSoRとしての機能が重要になるでしょう。とにかく、必修なので、受講対象者に確実に受講させるオペレーションを支えてくれるシステムが求められます。
一方、選択科目の研修やラーニングコンテンツはどうでしょうか。
選択科目なので、何らかの動機が働かない限り、社員はポチっと申し込むというアクション(DECAXの4つ目、A=Action)を起こしてくれません。
ということは、Aの手前の、D(=Discovery)、E(=Engage)、C(=Check)をラーニングシステムに作りこんでおくことが大切だと理解します。

さて、このような理解を持って、現状のラーニングマネジメントシステムをレビューしてみます。システムはSoEの機能、つまり、DECAXの各フェーズで使える機能を有しているにも関わらず、実際は使っていないままになっていたりしないでしょうか。また少し旧いラーニングマネジメントシステムであると、そもそもDECAXの各フェーズで使えそうな機能が揃っていないかもしれません。

一つ一つのコンテンツに、どんな種類のコンテンツなのか、どんな領域の知識が得られるのか、どのレベルの人が学習対象のコンテンツなのかといったタグ付けがされていれば、社員はラーニングマネジメントシステムの検索機能を使って自分の関心や求めるレベルに沿ったコンテンツを”発見”することができるようになります。
ただ、このタグ付けも、研修運営者・管理者目線での情報だけでなく、受講者視点(社員視点)での情報の両方でメンテナンスされていないと、社員が発見することは難しくなるかもしれません。

自分が必要となるラーニングコンテンツに出会うために、どのような導線設計が求められるか。これを考えるとき、私は Employee Journey Map を作ってみたらよいのだろうと考えています。実のところ、これもマーケティングの知見からの流用ですが、、、。社員は顧客であるという立場に立てば、そのカスタマージャーニーマップを考えるのは至極当然と言えば当然。言わずもがなですね。ここでも、漠然と「社員」という言葉で一括りにするのではなく、想定する社員像はできるだけ具体的に設定する方がジャーニーマップは描きやすいでしょう。ジャーニーマップが描ければ、どこでどのような情報や学びが必要になるのか、接点とコンテンツのイメージが湧いてくるのではないでしょうか。

自分の成長や学習に資するラーニングコンテンツを発見できるラーニングマネジメントシステム。そして、自分が受講したあとに残したレビューが他の受講者にも参考になり、他の社員のActionすなわち受講するという行動を誘発するシステム。そのような、ユーザーの学習体験が他のユーザーの学習体験にもつながるという学習のループを支えるラーニングマネジメントシステム。

ラーニングマネジメントシステムは1枚のコインである。そう考えると、いままではSoRという表面だけの機能を使っていたかもしれません。
これから従業員体験の向上を考えるならば、今までは裏面の機能と思っていて使い込んでこなかったシステムの機能をSoEという観点から発掘し、いよいよ本格的に稼働させるときがやってきたのではないでしょうか。

そして、忘れてはいけないことは、システムがSoEの機能を存分に発揮するにはSoRとしての機能をしっかりと使えることが前提でもある、という点です。DECAX視点でSoE機能を使いこなすためにはデータの蓄積も必要です。データがなければ、どんなSoE機能も十分に実力を発揮することはない。データがなければ何もできないというのも事実であると私は認識しています。

さて、ここまで長々と書いてきましたが、System of Insight(SoI)の話がどこにも出てきておりません。
単に受講状況を示すようなダッシュボードがSoIに該当するとも思えません。上述したMS Copilotの解説では
「有用な洞察を獲得し、新たなアイディアを生み出すためのシステム」
とあります。
新しいアイディアを生み出すためのシステム。
ラーニングマネジメントシステムは、そのような目的に資する機能を有しているものなのかどうか。どうでしょうか。

ここは私ももう少し深く考えてみたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?