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エアコン(3) ~ヒートポンプの回路~

割引あり

前回、ヒートポンプの仕組みについて解説しました。次の図のようにシリンダー内の空気を圧縮したり膨張させたりして熱を吸放熱させることを説明しました。

熱を低温から高温に流すしくみ

ここで効率的に熱を運ぶために、温度を上げて熱を蓄えるのではなく、蒸発潜熱を活用して熱を蓄えることを説明しました。今回、この圧縮、放熱、膨張、吸熱のサイクルを蒸発潜熱を用いて書き換えたいと思います。

蒸発潜熱を活用したヒートポンプサイクル

それでは、先ほどのシリンダーを使ったサイクルの図を、少しリアルな温度に書き換えたいと思います。蒸発潜熱を効果的に使うためには、蒸発したり凝縮したりする沸点がちょうど暖冷房に適した温度帯におさまっていることが重要です。

沸点と圧力との関係

水の沸点は大気圧で既に100℃です。一方、空調で使用する温度は暖房でー10℃〜30℃程度、冷房で20℃〜50℃程度なので、暖房利用を考えると大気圧下でもっと沸点が低い物質を選ばなければなりません。また、空気の沸点は大気圧下で約−190℃ですので、今度は低すぎることになります。適切な物質を選ぶことが重要です。

ここでの説明は、エアコンでよく使用される冷媒R410Aを例に説明したいと思います。また、シリンダー内に詰める物質を「冷媒」と呼びます。

まず、室内に置かれたシリンダーを圧縮します。ここでどの程度まで圧縮して圧力を上げるのかは、沸点を何度にしたいかによります。圧力を上げれば上げるほど沸点は上がります。逆に圧力を下げれば下げるほど沸点は下がります。(富士山の山頂で水の沸点が100℃より下がるのはよく知られた現象です。)

R410A冷媒の気圧と沸点との関係

今回、例に挙げてる夏の冷房では、室外の温度は35℃ですから、室外で放熱することを考えると、これよりも少し高い温度にしたいとなります。仮に圧縮後の温度を50℃だとします。50℃まで温度が上げたとして、沸点は35℃から50℃の間にすることで蒸発潜熱を効果的に使用したいので、それなりの圧力まで圧縮します。例えば沸点を40℃にしたいとすると、図からおおよそ20~25気圧ぐらいまで圧縮できれば良いことがわかります。圧縮できたら、このシリンダーを室外に持っていきます。

サイクル(R410A冷媒バージョン)(冷房)

熱を低温から高温に流すしくみ(R410A冷媒バージョン)

シリンダーを室外に運んだ後、このシリンダーを放置します。圧縮した直後は気体なので、放熱が始まると温度が下がります。しばらく温度は下がるのですが、沸点まで到達すると、気体から液体に変化していきます。この変化を凝縮と呼びました。凝縮すると、気体が徐々に液体に変わっていきます。気体と液体が混じった状態です。気体と液体が混じった状態の物質があった時に、どの程度液体の割合が多いのか少ないのかを表す指標を「湿り度」と呼んだりします。最初はすべてが気体ですが、熱を奪うと徐々に気体が液体に変わっていき「湿って」いきます。

放熱時の潜熱利用

圧縮した冷媒の沸点が仮に40℃だったとします。そうすると圧縮されたシリンダーを室外35℃の下に放置すると、最初50℃だったのが徐々に温度が下がっていきます。そして40℃まで到達すると一旦、温度低下はそこでストップして、40℃を維持しながら気体が液体に変化していきます。そして液体に変化し切ったら、あるいは、湿りきったら、あるいは、蒸発潜熱をすべて放出し終わったら、再び液体として温度が低下していき、室外の温度35℃まで到達すると放熱が終了します(次図)。

放熱時の潜熱利用

35℃まで冷え切った冷媒は高圧な液体の状態になっています。この液体を膨張させます。なお、この膨張は圧縮時の(可逆的な)断熱圧縮とは少し異なり、ジュール・トムソン膨張とも呼ばれます(※1)。ここで、圧力が急激に下がり、温度が下がります。また、すべて液体になっていたものの一部が気化し、気体と液体の混合状態、湿った気体になります。室内の温度は27℃でしたから、ちょうど冷房が効くように、沸点が20℃になるような圧力まで下げたとします。膨張して低圧になった冷媒を再び室内に移動させます。

吸熱時の潜熱利用


室内の温度は27℃で、シリンダー内の冷媒は20℃ですから、室内の空気からシリンダー内部に熱が移動する、つまりシリンダーから見ると吸熱します。シリンダー内は少し湿った気体ですから、完全に乾くまで20℃を維持し続けます。そして完全に乾き切った、つまり全部気体になると、温度が上昇し始め、27℃になった時点でで吸熱が止まります。

吸熱時の潜熱利用

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