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エアコン(4)~暖房と冷房の切り替え・圧縮機~

割引あり

これまでヒートポンプ回路について説明してきました。前回、より現実的な冷媒(R410A)を想定した温度設定に説明を変更し、さらにこれまで便宜的にピストンを用いて回路の説明をしてきたところを、実際と同様に冷媒が圧縮機・熱交換器・膨張弁・熱交換器を通る説明に変更しました。

ヒートポンプサイクル(冷房版)

圧縮機熱交換器膨張弁熱交換器、この4つの部品がエアコンのヒートポンプサイクルを理解するうえでキモとなります。

これらの部品を説明する前に、ここで説明している図は冷房を前提とした図でしたので、暖房を前提とした図の方も書き換えたいと思います。

暖房と冷房の切り替え

ヒートポンプサイクル(暖房版)

書き換えた図がこちらになります。

ヒートポンプサイクル(暖房版)

基本的には、暖房であっても冷房であっても、吸熱する熱交換器と放熱する熱交換器の場所が室内と室外で異なるだけで、圧縮機と膨張弁と2つの熱交換器からサイクルが成り立っているのは同じです。また、暖房と冷房では冷媒の利用する温度帯が異なるのですが、これは圧縮機の回転数と膨張弁の開度で圧力を適切に制御することで実現しています。

ところで、少し話は変わりますが、昔のエアコンは「クーラー」と言っていたように、冷房専用機でした。暖房はもっぱら、ガスや石油のファンヒーターや温水機など、燃料を燃焼させて熱を作る方法や、こたつ、電気カーペット等、電気を発熱させて熱を作る方法が一般的でした。しかし、ヒートポンプ技術というのは、低い温度から高い温度に熱を移動させる技術ですので、暖房にも使うことができます。冷房時は室内の温度が低く、室外の温度は高い、暖房時は室内の温度が高く、室外の温度が低い、だけです。これだけ見ると、ヒートポンプ技術を暖房に適用させるのは簡単なように思います。

冷房専用機から暖冷房併用機へ

しかし、暖房と冷房とで異なる点が2つあります。

1つ目は室内外の温度差です。冷房の場合は例えば、室内27℃、室外35℃というように、温度差は10℃前後です。猛暑日でも20℃まではいかないでしょう。一方で、暖房の場合は室内22℃、室外0℃というように、平気で温度差が20℃を超える場合が頻発します。ヒートポンプは温度が低い所から高い所に熱を流す技術ですが、この温度差が大きければ大きいほど効率が落ちます。温度差がなぜ効率に効くのかは別の機会に説明したいと思いますが、いずれにせよ、温度差が大きい場合をヒートポンプは苦手としています。従って、暖房時に単にヒートポンプを利用するだけでしたら簡単ですが、効率を上げながら運転させるには、それなりの技術開発が必要でした。

もう1つの違いを説明します。暖房のサイクルの場合の室外の熱交換器に着目してもらいたいのですが、低い温度の外気から熱を奪うためには、冷媒の温度を下げないといけないということです。

ヒートポンプサイクル(暖房版)(再掲)

ここの例では、冷媒の温度は0℃となっていますが、場合によっては室外(外気)温度は氷点下のマイナスになる場合があります。エアコンに使用している冷媒は0℃を下回っていても問題なく動きますが(融点が0℃を下回っている)、問題は、熱交換器の表面です。冷媒の温度が0℃を下回ると、当然、室外機の熱交換器の表面温度も0℃を下回ります(※1)。冬期の外気はもともと水蒸気をほとんど含んでいないとはいえ、場合によっては室外機で結露することもあります。室外機の熱交換器の表面で結露が起こり、表面温度が0℃を下回っていると、結露した水が氷になります。これをと呼んだりします。室外機の表面に霜が付くと、著しく熱交換をする能力が減るため、なるべく霜がつかないようにエアコンメーカーは工夫をしているのですが、それでも霜がついてしまった場合は、霜取り運転という暖房時特有の運転モードに入ります。これが冷房には無い暖房の難しさです。なお、霜取り運転のメカニズムについては、またの機会に説明します。

冷房サイクルと暖房サイクルの違い

さて、温度などの情報を削除して、圧縮機、膨張弁、熱交換器2つのみを記したのがこちらの図です。

冷房のサイクルと暖房のサイクルの違い

同じ機器で暖房も冷房も切り替えてどちらも実現しようとすると、図に挙げたような、このままの冷媒の流れ方ではまずいです。余計な部品が増えれば増えるほどコストアップにつながりますので、なるべく共通の部品構成・配置にするのがベターです。そこで、この暖房用と冷房用の2つの図を見比べてみると、暖房用の場合に冷媒が時計回りに回っていたのを逆にする、反時計回りに回してあげると、冷房の場合とほぼ同じになることに気づきます(次図)。

冷媒の流れる向きを暖房側のみ逆にした結果

この図を見ると、各パーツの配置が同じになっているのに気づきます。異なるのは冷媒の流れる向きだけです。つまり、冷房と暖房のこの結果から、冷媒の流れる向きを逆にするだけで、熱の移動する方向を逆にできるということになります。

冷媒の流れる向きを変える仕組み

ここで、少し細かい話をします。

熱交換器はフィンがついた配管なので、どちらから流しても大丈夫です。膨張弁も、名前に「膨張」と付いているものの単なる電子弁のため、どちらから流しても大丈夫です。一方で、圧縮機は入口と出口が決まっているため、逆流させることはできません。それを解決するのが四方弁です。

四方弁

四方弁とはこのような形をしており、4つの配管が接続されます(次図)。

四方弁

中には可動するU字官のような弁が入っており、これがスライドすることによって、中を通る流体の流れを変えることができます。四方弁の手前、下側の配管は、圧縮機の出口とつながっており、圧縮機からの冷媒が戻ってくる配管となっています。四方弁の上側の3つある配管のうちの真ん中は、圧縮機の入り口とつながっており、圧縮機へ冷媒が流れる配管となっています。

四方弁を左側にスライドさせる(図の右上)と左側の管からきた冷媒を圧縮機に、圧縮機からきた冷媒を右側の管に流すことができます。四方弁を右側にスライドさせる(図の右下)と右側の管からきた冷媒を圧縮機に、圧縮機からきた冷媒を左側の管に流すことができます。

それでは、この四方弁をさきほどのサイクルに組み込みます。

四方弁による冷媒の流れる向きの切り替え

流れる向きを暖房と冷房とで追っていってください(図中、赤色(暖房時)と青色(冷房時)の線)。暖房時と冷房時で四方弁の弁の位置を変えるだけで、圧縮機の中を流れる冷媒の向きは変わっていないのに、サイクル全体の冷媒の流れる向きは逆になることがわかるかと思います。

エアコンには、四方弁を加えたこれらの5つのパーツ以外にも、例えば圧縮機を保護する目的のアキュムレーターや不純物を取り除くストレーナーなどの細かい部品がありますが、熱やエネルギーの分野では圧縮機、放熱側と吸熱側の熱交換器、膨張弁、四方弁を理解することが重要です。なお、熱交換器の説明で触れますが、熱交換器の側にある室内機・室外機のファンも重要な要素となります。

それでは、次から、各パーツの詳しい説明をしたいと思います。

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