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ちいさいおうち

[バージニア・リー・バートン/文・絵  石井桃子/訳  岩波書店]

明るい青の表紙の色を見れば、誰でもこの絵本を思い浮かべるでしょう。石井桃子訳の丁寧な日本語のリズムのなんと心地よいことか。できるなら誰かにゆっくり読んでもらいながら、自分の膝にこの絵本を載せてじっくり隅々まで眺めていたくなる本です。     

 農家の庭先のドレスとタキシード姿の 母さん父さんと3人の子どもたち。納屋が建って馬や牛が肥り畑の作物は育ちりんごの実が熟していく。お日様と月が何度もめぐって四季が過ぎ子どもたちは成長し、馬車が自動車に変わっていく時の流れをちいさいおうちはじっと眺めています。ひなぎくの咲く丘は削られて道路になり畑は家々の立ち並ぶ町へと変わり、やがてビルの立ち並ぶ高架線と地下鉄とそして人も走る街へと変貌していきます。  

 第二次大戦中に描かれたこの絵本の主題は決して古びることはありません。今なお求められる生き方とも言えるでしょう。もしかして子どもよりも大人のための本なのではないかしらと考えたりします。けれど、子どもの頃この絵本をゆったり読んでもらった時にまかれた心の種は、ずっと埋まっていることでしょう。そしてその芽はやがてゆっくり育っていくことでしょう。大人は子どもと一緒に読むことによって、そのゆったりとした未来の時間も手にいれることができるのです。この一冊の絵本を読むことによって。

               


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