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ジャグの鼓動 〜序章〜前編

小さい頃から人と深く関わるのがイヤだった  人と同じ事をするのがイヤで他人に対して攻撃的な感情が抑えられない  

僕は昔からそうだった     


これは僕が20代前半の頃の話

当時僕はパチスロで生活をしていた。その頃は爆裂AT機が数多く設置され、またストック機が出始めの、まさに4号機パチスロバブル真っ只中。    

僕が主力機種にしていた初代北斗も、各ホールに50〜100台程の設置があり毎日6が使われていた。今とは違ってホールに活気があり、パチスロの未来は明るい希望しか見えなかった。   

パチスロで生活していた僕も、その恩恵に預かり、毎日のようにホールへ通い日当4、5万を稼いでいた。たかだか20〜30万でサラリーマンをやってる奴らの気が知れなかった。       


ある日、いつものように北斗の高設定を掴んで、計数機に3000枚程のコインを流していた。   

店員に会員カードを渡そうと財布の中を見たら、アレ、アレ、カードがない。         どうやら忘れたようだ。仕方ないので、店員にレシートで出すようにお願いする。      『余りどうしますか?』店員からの呼びかけに、計数機横の募金箱を指差しかけたその時、ふと隣の島のジャグラーが目に入った。  

当時の爆裂AT機、ストック機全盛時代において、ジャグラーはまさにジジババ、あるいは初心者専用の機種であった。             もちろん存在は知っていたが、ほとんど触った事がなかったし、ジャグラーを打つ人間は、パチスロがヘタクソという偏見すら持っていた。

ただ、何故かこの時僕は、直感的に余りコインで打ってみようと思ったのだ。         店員から7枚の余りコインを受け取り、1番近くのジャグラーに座ってコインを投入した。    レバーを叩いて三つの停止ボタンを押すが光らず、特に何も思わずもう一度レバーを叩く、第3停止ボタンを離す、その瞬間左下のGOGOランプが光った! 

今思えばこれが僕の人生での初ペカリ。    当然この時はそんな事を考える由もなし、ラッキー!としか思わずササッと七を揃える、BIGだった。『さすがジャグラー簡単やな』とBIGの消化を始めた。

その時

『兄ちゃん凄いなぁ たった2gでBIG当たったか』

いきなりの声にちょっとびっくりしながら横を見ると、声の主は人の良さそうな爺さんだった。 

満面の笑顔で『やっぱ上手い人は違うなぁ。俺何かコレやで』と言って上のデータカウンターを指差した。指差されたデータカウンターを見ると980の数字が刻まれていた。                              『こんな低設定丸出しの台打ってどうするつもりや』僕は心の中でそう思いながらも、軽く会釈だけして淡々とBIGを消化し、終了後即ヤメでその日は帰った。

次の日、コインを2000枚程流し、忘れずに持ってきた会員カードに貯玉して帰ろうとした時、ふとジャグラーコーナーにいる昨日の爺さんが目に入った。どうやらGOGOランプが光っているが、ボーナスを揃えられないようだ。

昔は今と違って、店員が揃えるのはOKだったし特に気にする必要はなかったが、昨日の爺さんの笑顔が妙に頭に残っていた僕は、台まで行きボーナスを揃えてあげた。BIGだった。        

爺さんは昨日と同じ満面の笑顔で『兄ちゃんありがとう!』とお礼を言って嬉しそうにBIGを消化し始めた。僕はそのまま何も言わずに帰った。

その次の日、いつものように北斗を打っていると、昨日の爺さんが北斗の島に来て、僕を見つけるなり『よー兄ちゃん昨日はありがとう』とコーヒーを差し出してきた。           僕は『わざわざよかって。揃えられんのやったらいつでも揃えてやるけん』とコーヒーを受け取った。

それからその爺さんとはちょくちょく話をするようになり、誘われて昼飯等も一緒に食べるぐらいまでになった。爺さんの名前は『大山さん』で、今は年金暮らしで奥さんと2人暮らしをしており、パチスロを打つのが唯一の趣味だと言った。

何故か僕はこの大山さんにかなり気に入られ、毎日のようにホールで話しかけられるようになり、しまいには家に夕食を招待された。 

さすがそこまではと何度も断ったが、どうしても来てほしいとあまりにしつこかったので、何度か夕食をご馳走になった。           奥さんにも紹介され、一緒に酒を飲んで大山さん家に泊まる事もあった。

そんなこんなで半年が経った頃には、僕と大山さんはすっかり仲良くなっていた。

ただ大山さんはジャグラーのいわゆるオカルト打ちだけしかしておらず、ハマり台を『7がいっぱい溜まっとる』とか、連チャン即ヤメの台を『まだまだ7が出きっとらん』とか、設定無視で打っている大山さんは明らかに負けていた。      

僕はそんな大山さんが心配で、パチスロには設定がある事、高設定を打たないと必ず負けるように出来ている事、を何度も説明したが、大山さんは全く聞く耳を持たなかった。

そんな日々が続いたある日、その日僕は珍しく北斗で打ちあぐねていた。           狙い台は外れっぽく、他の高設定と思わしき台は他の専業に抑えられていた。他に打つ台もなく、仕方ないので早上がりしようとした僕に、大山さんが『兄ちゃんたまにはジャグラーを一緒に打たんか?』と言ってきた。 

いつもなら断るのだが、この時は大山さんの押しに負けて並んで打つ事にした。大山さんは何故かめちゃくちゃ嬉しそうだった。

ジャグラーを大山さんと並んで打ったが、僕の台は好調にボーナスが当たり、どんどんコインが増えていった。それに引き換え大山さんの台は全く光らず、どんどんg数が増えていく。      しばらく打っているとようやく大山さんの台が光った、丁度コインがなくなり追加の千円を入れようとしたので、それを制してコインを1枚入れてボーナスを揃えてあげた。BIGだった。      

大山さんはいつもの満面の笑顔で『兄ちゃんありがとう』と言ってBIGを消化した。       消化したあと、コインを1枚手に取り『借りたコインちゃんと返すわ』と差し出してきた。

僕は『1枚ぐらいよかって』と拒んだ。     大山さんは『そしたらこのコインお守りで持っとくわ、これでいっぱい勝てるようになったら最高や』と嬉しそうにコインをポケットに入れた。

後編へ続く

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