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タバコ

タバコについて初めて自分の考えを持ったのは、おそらく高校生の時だと思う。
当時バンドを組んでいた僕の周りにはタバコを吸う奴ばかりだった。

だから逆張りをした。

”20歳になるまで酒もタバコもやらない。”

これがタバコに対して最初に下した決断だった。

20歳を迎え、酒もタバコも嗜むようになった。
お酒は飲めば当たり前のように酔っ払えるが、タバコの良さはイマイチわからなかった。

僕にとってのタバコの魅力は格好良さだった。

少し潰れたソフトパッケージ、緑色のボックスロゴ、こちらも少し曲がったタバコに100円ライターで火を点ける。(ライターは100円では買えなくなったが)
いつか見た映画の主人公たちもみんなそうやってタバコを嗜んでいた。

僕はタバコに依存していなかった。
ニコチンの危険性がうるさく騒がれる現代においても僕がタバコを吸っていたのは、依存心から来るものではなく先述の通りかっこいいと思う憧れからだ。

だからやめる理由も無かった。



先日コンビニでタバコを買った。
理由は無かった。

理由は、無かった。

自分が惰性でタバコを買ったことを初めて認識した。

なるほどこれが依存性ってやつか。
僕はそれを最後の一箱と決めた。
タバコに対して僕が下す最後の決断だ。

決めた途端に妙に寂しくなった。
最後の一本を吸い終えた時、どんな気持ちになるのだろうか。
楽しみでもあり、不安でもあった。

だが別れはそんな贅沢なものでは無かった。

出先にタバコを忘れてきた。

余りにも突然すぎる別れに一瞬戸惑ったが、すぐに納得することにした。
思えば自分の思い通りになった別れなど無い。


解説
タバコを止める。これだけの事を大袈裟に”別れ”と評する著者は、そのように自ら感傷に浸ることでタバコと決別する決意を固めたのでは無いだろうか。これは禁煙に対する全く新しいアプローチとも取れる。
最後の一文で著者は過去の恋愛に思いを馳せ、そこにタバコ(今回の場合はhi-lite menthol)を加え、その煙を思い出に閉じ込めたのであろう。

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