シネマ小並館 その10:街と男と女の重力場 『シン・シティ』星3.5

dTVで視聴。基本的にロバート・ロドリゲスの映画はハズレなしと思う程度には好きなんだが、これはまだ観てなかったので(というかまだまだ観てないのはある)。ってこの映画の場合は原作者のフランク・ミラーとの共同監督作だけど。

この映画は、通称『シン・シティ』を舞台にした『一夜を共にしその夜に殺された行きずりの女の仇討ちをする荒くれ者の話(マーヴ編)』、『警察と武装娼婦との抗争に翻弄される男と女の話(ドワイト編)』、そして『権力者の息子にして強姦魔の男と老いた(元)刑事との、ひとりの若い女をめぐる8年ごしの戦い(ハーティガン編)』の三本のエピソードで構成されている。

全編白黒+パートカラー、背景のほとんどは合成という、映像的にはかなり特徴的な映画である。
それ以上に驚いたのは、各エピソードの主人公によるナレーションの多さ。吹き替え版だと常にナレーションが入ってるというくらいである。原語版(字幕)だと幾分緩いものの、十分すぎるほど多い。それゆえ最初は面食らった上に『多言すぎて入り込めないなぁ』とすら思った。
ただ、マーヴ編に入るとかなりアクションが多くなり、にわかに盛り上がってくる。

ハーティガン編前半の終わりあたりで『こんなに撃たれてるのになかなか死なないとは』と(いい意味での)違和感が出はじめ、さらにマーヴ編に入ってさらにその疑いが強くなった。

こいつら、死なねえんじゃねえか?

もともと漫画(グラフィックノベル)を原作としてるからなのかはわからないが、とにかくこの映画に出てくる人間、特に男はなかなか死にそうにない。というか実際『いやいやいやいやこれは死んでるだろ!』というシチュエーションでもだいたい死なない。たとえば車に三回連続ではねられても死ななかったり、割と至近距離で爆弾が爆発しても死ななかったり、拳銃の弾を六発くらい、いやそれ以上食らっても手術すれば問題なかったり、といった具合。まあ、絶対に死なないわけではないんだが(ザコは死ぬし、主人公たちの側の人間もけっこう死ぬ)、なんの説明もなく超人クラスの生命力を持ってるように見えてしまう。ゆえにときどきギャグに見えてしまうのだが…特にマーヴがw

肉体だけでなく、精神的にもかなり強いやつらばかりである。マーヴは死すら全く恐れずに復讐を粛々とこなすし、ドワイトも終始冷静さを失わない。ハーティガンも収監された8年間『手紙』だけを心のよりどころとして生き延びる程度に、強靭な精神を持っている。
そしてそれは女とて例外ではない。常人なら発狂して正気に戻れないような事態に陥ってもひとしきり絶叫したら一応正気に戻ったりするし、ハーティガン編の、いや、全編通してのキーパーソンでもあるナンシーも、賢い上に肉体の責め苦にも耐え抜いてしまえるくらい強い。
男も女もむやみに強いのが、シン・シティの人間らしい。

かといって、そこにドラマがないのかというとそうでもない。時折見せる迷いや心の揺れ、強力な敵や汚れた権力との対峙、そして男と女の関係。
男女間には微妙な距離感があるものの、基本的に男は自分や愛する女のために力を行使し、女も同じく自分や愛する男のために戦う。
みんなが心の安らぎを求めつつもかなわないシン・シティの『街の重力』と、結ばれたいと思いつつ結ばれることもままならない『男と女の引力』が、ドラマを動かしているようにも思える。

そういった『それぞれの心の迷い』の演出としてなのか、各エピソードには『現実なのか幻覚なのかよくわからなくなる』シーンが入っている。
マーヴ編の場合、精神科医から処方された薬が手に入れられなくなったために『自分は狂っているのではないか? 黒幕の見当も狂ったが故に見当違いなのではないか?』と疑うところがある。
ドワイト編の場合はストレートに、切迫した状況下で『死んだはずの男が話しかけてくる』という幻覚を見る。ちなみにこのシーンだけロドリゲス監督の盟友で有名なタラちゃんが監督してるらしい。
ハーティガン編は『収監中のある日悪臭を放つ黄色い男が姿を現し、その後誰かの"一部"の入った封筒が届く』というシーンがある。というかその黄色い悪臭男(イエロー・バスタード)が実際にラスボスなので現実ではあるのかもしれないが、いかんせん唐突だしシュールなので幻覚じみている。

幻覚的な何かとの対峙は、自身との対峙の象徴でもあるのではないか、と自分は考える。戦いの最も重要な場面における最大の敵は、自身の心の中にいる、みたいな。

…と書くとみんな立派に見えてしまうのだが、各エピソードの主人公やその味方は、決して正義の味方や善人ではない。なにしろ、みんなおのおのの仇を討ち取るとき、快楽を感じているくらいなので。まあ、だいたい敵は権力者(しかも相当ろくでもない連中)だから、なのかもしれんが。

ちなみに気になった点がひとつ。各エピソードの主要な敵は、首をちょん切られたり頭を粉砕されたりと、首をやられていることが多いのだが、なぜなのだろうか。みんな権力者なので、『頭をとる』という意味合いがあったりして?

各エピソードのレビューも書きたいが、あとで追記することにして、全体の評価を書いておく。星は5つ中3.5。どれだけロバート・ロドリゲスが監督として関わってるのかわからんけど、やっぱりハズレなしだった。

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