シネマ小並館 その5:深い哀愁のおっさん二人『イギリスから来た男』(星3)

dTVで視聴。とりあえずソダーバーグの映画は『ソラリス』くらいしか観てないので観てみた。原題は『THE LIMEY』で、意味としては『イギリス男』的な感じらしい。邦題は原題とそんなにかけ離れていないっぽい。

アメリカ在住の娘が事故死したと聞いてアメリカまでやってきたイギリス男。その死に疑いを持ち、娘の友人とともに背後関係を探ると案の定…といった話。

しかしテレンス・スタンプ演じるウィルソンが渋い渋い。凛とした存在感と哀愁が満ち満ちている。ムショ暮らしが長く、娘と長く一緒にいられなかった彼が最後にできたことが、彼女がなぜ死ななければならなかったのかを追うことである、という悲しさ寂しさやるせなさ。
『犯人』を追いつめたところで知った、娘が死の間際の振る舞いも、彼の心の失われたピースを埋めるとともに、彼を打ちひしいだのではないか。
自分はよく知らなかったんだけど、テレンス・スタンプはあっちではかなり有名な俳優さんらしい。

一方、ピーター・フォンダ演じる敵役(?)のテリーも、どことなくウィルソンとはまた違う哀愁を帯びている。一応敵役ではあるものの、あんまり悪くなさそうな感じなのだ(でも恋人が死んでから割とすぐに新しい恋人を作ってたりするのはどうかと思ったり思わなかったり)。なんというか、満たされないものを抱え続けているのに、満たされないまま名誉を得てしまい、思えば遠くへきたもんだ…的な寂しさがある。恋人にというか66~7年ごろの話をするあたりとか、セーフハウスで恋人とハンモックに揺られてるあたりの雰囲気にそれを感じる。
ちなみにおれもよく知らなかったけど(そんなヤツがえらそうに映画評書いてていいのか?)、60年代後半あたりというと、ちょうど演者のピーター・フォンダがバイク映画で評判を得ていた時期だったとか。演者本人と重なるところがあるからこそ、なのかもしれない。

演出的には時間軸が若干シャッフルされており、(大きくかき回されたりひねってあるわけではないが)この映画全体が基本的に今起こってることなのか、それとも回想なのかが気になってしまう感覚がある。
劇伴はソダーバーグ作品では常連らしいクリフ・マルティネス。自分が観たことのある『ソラリス』よりは控えめな感じだが、ミニマルで端正な印象なのは同じ。

星はだいたい3つというところ。おっさん好きなら。

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