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日本とフランスのガイド資格事情

日本の通訳案内士とフランス政府公認ガイド。2つとも国家資格制なのですが、その資格取得から適用範囲まで比べてみると両国のガイド資格に対する姿勢が見て取れます。その違いを比べてみましょう。

通訳案内士について

日本では外国人を観光地で報酬を得て案内する場合は通訳案内士資格が必要で、そのためには通訳案内士試験に合格する必要があります。例年8月に行われる筆記試験(外国語、地理、日本史、一般常識)と外国語での口述試験で構成されています。現在10ヶ国語(英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、韓国語、タイ語)での試験があり、一度どれかの言語で合格すると2ヶ国語目以降は外国語の筆記・口述試験のみの受験でその言語のガイド証を取得することができます。

通訳案内士のことを民間の外交官という呼び方をすることがありますが、ツアーの際にお客様の日本人や日本の印象はガイドによって大きく左右されます。実際に就業にあたっては、ガイディング以外にも言葉が分からないお客様をおもてなしをすることも業務の一つです。言語、食事、思考方法、習慣の違う国に滞在することは楽しい反面やはりストレスも溜まります。そういった文化や風習の違いをしっかり説明して、旅行を快適なサポートをすることは、ある意味で歴史的建造物の建築年や詳細よりも重要だったりするのかなと思います。

フランス政府公認ガイドについて

フランスのガイドはguide-conférencierと呼ばれます。以前は自治体ごとに試験を主催していて、ガイドできる範囲もその該当地区のみで何種類かのガイドが混在していたようですが、2011年に法律が改正されてからはフランス全国で就業できるguide-conférencierに一本化されました。現在では大学あるいは大学院で1年間所定のコースに通う必要があり、カリキュラムは美術史、歴史、語学など学習内容は多岐にわたります。また母国語以外に2つの外国語が必修です。大学によって必修の言語は異なりますが、日本語がカリキュラムにない場合はフランス語と英語に加えてもう1ヶ国語が義務付けられるので、母国語がフランス語でない日本人にとっては大学選びは重要になります。

日本との違いとしては、フランス人がフランスをガイドするのにもガイド証が必要になることです。つまり母国語で同国人を案内するのにもガイド免許が必須です。フランスのガイドは前提として外国人を案内するというより言葉を問わず文化財(建築、絵画、彫刻など)を解説する知識が要求されます。フランス語でconférencierは講演者という意味で、観光地にとどまらず、例えば美術館などで学芸員の代わりに専門的な絵画や彫刻の解説をするのも仕事の一つだからです。

興味深いのが、通訳案内士資格を管轄しているのが国土交通省の観光庁なのに対し、フランス政府公認ガイド資格は観光庁と文化・通信省の名の下に発行されるということです。ここからもガイドに対する両国の考え方が伺えます。

資格取得後の就業

日本とフランスのガイド資格を取り巻く環境は、その後の就業に関しても事情が異なります。

原則的に両者ともフリーランスで働くことになります。日本の通訳案内士の場合は主に旅行会社でツアー毎に業務を請け負うか個人で事業を展開するのが主流です。去年くらいから訪日観光客数が飛躍的に伸びていますし、東京オリンピックに向けてさらに需要が高まることが予想されます。また、通訳案内士資格は唯一の外国語関連の国家資格なので、仕事で通訳や翻訳などをするためのステップアップにも役立ちます。

それに対してフランス政府公認ガイド(guide-conférencier)は通訳案内士のように旅行会社と働く以外に美術館や博物館、観光案内所なども雇用先となり得ます。例えば、観光案内所は日本と違い有料の1〜2時間で数ユーロ(約600〜800円くらい)のガイドツアーを運営しています。美術館や博物館も入場料とは別料金で展示物のガイドによる解説が聞けます。また、フランス国外へのツアーに添乗するガイド(guide-accompagnateur)として働くことができるようになります。ただ、この場合は現地の観光地ではガイド免許がないので、その国の有資格ガイドが案内することになります。なので、どちらかというとガイディングスキルよりも通訳や添乗員としての能力が必要になります。

こうして見てみると一口でガイドと言っても国によって随分違います。日本でフランス人を、フランスでフランス人と日本人やその他の国の方をガイドをしてみて思うことは、同じものを見ているのに文化や文明が違うとこうも見方は変わるものかということです。だからこそ、説明する文化財についての情報はもちろん話をしている相手の文化や背景を知ることが良いガイディングに繋がるのではないかと思います。そのためには日々勉強ですね。


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