見出し画像

印刷のNewNormalを考える〜大量生産の時代はもう戻らないかもしれない

コロナウィルスで日本だけでなく、世界中が自粛ムードになる中で、自分自身が家業である布の印刷工場の後継ぎであり、今は印刷業のDXを実現するためにスタートアップに身を置く身としては、できれば悲観的なシナリオではなく、なるべく楽観的に考えたくなるろころです。今回は、自分の業界や地域だけでなく、お客さんも、従業員も含めて、世界中みんなが同じ課題意識を共有したという意味では、これまでにないインパクトがあります。

その中で唯一のチャンスでかつ生き残るヒントは、アフターコロナにむけて自分たちの業界のニューノーマル(NewNormal)がどうなるのかをどこまで解像度高くみることができて、そこに手を打てるのかだと思っています。

そもそも厳しい業界の中でこれまで地道に土を耕し、種を撒いていたかがとわれる時でもあり、もし準備していなかったとしても、こうなってしまった以上変わらざるをえない状況でこれからどう動いていけるかが試されています。なので、自分自身の考えの整理としても印刷業界に起こることを考えていきたいなと思ってます。

画像3

これまでは営業マンが対面で受注する印刷業界

印刷通販サービスは伸び盛りで、プリントパックさんやグラフィック、プリントネットさんのような製造直販系の印刷通販が伸びていて、ラクスルさんのような自分で工場を持っていなくても、最安値で仕事をあつめて全国の工場へ製造を委託するような外注型の印刷通販も増えています。

スクリーンショット 2020-05-07 20.41.26

ですが、印刷通販は印刷業界規模の中ではまだまだ5%程度と言われていて、それ以外はいまだに営業マンがいて、電話やメール、FAXなどをベースに仕事を受注しています。そんな多くの印刷会社はWEBサイトや受注システムなどのIT投資に対してはかなり消極的で、投資は印刷機などの設備に偏っています。

この投資への考え方は、「投資=お金を産むもの」と考えたときに、「印刷機はお金を産むが、システムはお金を産まない」というこれまで当たり前だった(と信じている)思想が根強くあると思っています。

なかなか増えない印刷産業のデジタルプリント

みなさんが家で使うプリンターは当たり前のようにデジタルプリンターでフルカラーで印刷できますが、こと印刷産業においては紙では3%程度、布という中では7%程度と言われています。

デジタル印刷以外では、紙ではオフセット印刷やグラビア印刷、パッド印刷などの印刷方法で、布もシルクスクリーン印刷や、ロータリー捺染など、印刷する版を作って、大量にインクを使って印刷する方法が主流です。

画像4

ネット印刷が小ロットも対応しているのは、名刺などでも多くの注文を一緒にまとめて作ることで小ロットを実現しているだけで、結局は大量生産方式で、排水や廃棄物がおおいなどの問題も抱えています。

スクリーンショット 2020-05-07 20.41.12

布の印刷の中でもアパレルはデジタル化が遅れていますが、一部ではZARAのようにデジタル染色による新しい生産を始めていたり、ユニクロさんのUT-meのようにTシャツへのDTG(Direct to Garment)印刷に取り組んでいますがまだまだ小さいビジネスです。ですが、スポーツユニフォームやソフトサイネージと呼ばれる広告業界ではデジタル化がかなり進んでいます。

なぜデジタルが遅れているのかというとデジタルならではの新しいビジネスを生み出すことができず、デジタルプリンターを導入する理由は、ロットが減り採算が合わない量産仕事を対応する為であり、デジタルプリントだからこそできる小ロットで新しいビジネスが生まれない理由かもとも思っています。

大量生産はどんどん少なくなっていき、大量廃棄を前提にしたビジネスが変わっていく

これまでは、営業マンはお客さんとの人間関係をいかに密に築くかが大切でした。それだけ手間をかけても1案件あたりの製造数がおおければ採算似合いました。その大量生産は年々少量になってきて、さらに印刷通販をはじめとして価格競争になってくるとこれまでのやり方では利益が全く出ない仕事の割合が増えてきました。

その傾向はこれからも続き、その上でSDGsをはじめとした持続可能な物づくりへの圧力が高まり、その中で大量生産で最安値で作り余ったら廃棄するビジネスモデルは変化を迫られるので、これまでの美味しい仕事は減っていくと感じます。

工場に必要な製造に注力する為のシステム思考

大量生産が減るという前提を考えていくと、必然と小ロットにいかにたえられる受注体制と収益構造にしていくかが重要になります。そこで一番ネックになるのが、これまでは一番重要だと思われていた営業マンという存在です。お客さんが工場に製造を頼んで製造する中で、見積もりや仕様の確認、データのチェック、社内への指示書など複雑な流れや煩雑な書類が大量に発生します。

ondeプリンター

印刷工場の仕事は製造することであり、システムを作ることではありませんが、いかに本業である製造に注力できるような仕組みをシステム化できるかを考えることがこれまで以上に重要ではないかと思っています。

高品質信仰でなく魅力品質を追求する

2020年の念頭のnoteにも書いたのですが、印刷技術が進化したことで印刷の品質は劇的にあがっていて、印刷のクレームは本当にこの数年で減ってきています。そしてデジタル印刷の弊害としてあるのは、工場ごとの技術の差が出しにくくなることです。印刷の設定や設備の条件がデジタル化になることは即ち印刷条件が数値であらわせられるパラメーター化されると言うことになります。

そうなったときに、『ソフトウェア・ファースト あらゆるビジネスを一変させる最強戦略』(及川卓也著/日経BP刊)でも紹介されているこれまでにできなかったことができることでうまれる魅力品質をいかに高めていけるかが重要になってきます。

画像7


自立分散した協同組合的工場ネットワーク

もう一つは印刷と一口にいっても、実はとても細分化されています。染色業界では、綿かポリエステルかナイロンか?によって工場は違い、顔料か、染料かもっと違うインクかによって印刷機械が変わり、大口専門工場か、小口専門工場かによって得意な製造設備が変わってきます。それは複雑なマトリクスになっています。

それをこれまでは手配する商社や代理店、ブローカーの人が持っているコネクションやネットワークがありました。それがだんだん弱くなり、ネットで工場を探すようになりました。ただ、下請けなどの仕事をしているいい工場は実はWEBではなかなか見つけることができません。

いまこそ、これまで陰でものづくりを支えていた全国の工場の中でも先進的にデジタルプリントに取り組んでいる工場が、お互い依存することなく、自社が得意な分野の注文を担当できるような共同組合的な工場ネットワークが必要になると感じています。

印刷や製造はよりパーソナルな方向に進み、余分なものは作らない時代になっていく

コロナウィルスを乗り越えた末に製造業にとって新しい時代がくるときに、果たしてこのまま製造工場は生き残れるのでしょうか?

哲学者のハーバート・スペンサーが提唱してダーウィンが「種の起源」で取り入れた「適者生存」という言葉があります。生存競争において、ある環境に最も適した生物が生存し得るという考えがあるのですが、いまこそまさにそれが試されているのではないかと思っています。

シルク伝達

これまでの経済成長が永遠に続くと思っていた考え方が根本から変わる可能性がある世の中になると、ものづくりもそれにあわせて対応していくことが必要となります。タブレットやWEBでもデザインが簡単に作れるようになってきたのもこの数年で、のぼり旗もあっという間にプロっぽいデザインが作れるサービスもあります。

またデジタルプリント技術が発達してそれぞれの製造業の分野に特化した面白い印刷方法やデジタルプリンターも登場してもはや印刷会社だけが印刷するのではなく、さまざまな業種が印刷をビジネスにすることができるようになりました。

その中で印刷業がこれからどう生き残っていけるかをそれぞれ各社が真剣に考えて新しいサービスを作っていけたら楽しい印刷がもっと広がるんじゃないかなと思っています。

新しい印刷サービスを立ち上げています

ということで、今僕達は日本中の工場をWEBでつなげて1個から印刷できるサービスを作っていますので、最後にちょっと宣伝ですが、是非登録をおねがいします。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?