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「ヒゲ追い祭」

奇祭まみれ7
「ヒゲ追い祭り」

「生やす抜け作 見る抜け作 同じ抜け作 生やさな損損」
四国の2大祭りと言えば「阿波おどり」と「ヒゲ追い祭り」の二つである。
阿波おどりの「踊る阿呆に・・・」という有名な謡は、実は「ヒゲ追い祭り」の「生やす抜け作」のほうが起源が古いことは意外に知られていない。「阿波おどり」が徳島市内の市街地を練り歩くのに対して、「ヒゲ追い祭り」は日本最後の清流、四万十川の流れの穏やかな上流で行われる。

祭りの仕方も「阿波おどり」とは大きく異なる。まず「和尚」と呼ばれる祭りの主役が、四万十の上流よりバッシャバッシャとやや大げさに水しぶきをたてながら下流に向かって飛び跳ねていく。首からは、紐に通した空き缶を左右に3本ずつ下げており「和尚」の動きに合わせて音を立てて揺れ動く。近年では鯖缶の空き缶が四万十の清流によく響くとのことで好まれているらしい。「和尚」の動きと缶の音色に合わせて、川沿いにいる参列者が「ヒゲのお恵み おひとついかが」と「和尚」に向かって叫び続けるのである。

踊りと掛け声の熱気が高まったころを見て、「祖谷のかづらの渡し船」の掛け声とともに「和尚」がヒゲを抜いて川に流す。すると、参列者は堰を切ったように一斉に川になだれ込む。清流に浮かぶヒゲを一心不乱に探し出すのだ。参加者の手には、それぞれ思い思いの缶が握られており、最も多くヒゲを集めたものが、次の年の「和尚」に選ばれるという。参加者が使用する缶では、ホールトマト缶の受け口がもっとも掬いやすいと人気だ。次の「和尚」となったものは、その日から「ヒゲ追い祭り」に備えてヒゲを生やし続ける。ひげ抜きの瞬間はかなり痛いらしいが、今のところ辞退者は出ていない。

翌年の「和尚」が決まると、その年の「和尚」は役目を終える。最後は全員で集めたひげを一斉に空高く放り投げて祭りは終わる。空に飛んでいくひげが、やがてその年の稲として大地に根付くという祈りが込められた、神話に基づく伝統行事の一場面である。

余談だが、地域の寄り合いには歴代の「和尚」の写真が飾られている。17代目「和尚」は、歌手の「尾崎紀世彦」に瓜二つだそうだ。

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