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「蒸発祭」

奇祭まみれ6
「蒸発祭」

「Disappear Like Fog」:霧のように消えてなくなれ
今では「D.L.F」と略されるこの言葉は、蒸発祭でいつしか唱えられるようになった言葉である。

ウイスキーの産地として有名なスコットランドのハイランドにおいて、ウイスキーは神の息吹が宿るものとして地域の住人達に古くから親しまれてきた。中世よりこの地域で行われていた「蒸発祭」では、ハロウィンの時期に合わせて、カボチャのランタンの口に直接ウイスキーのボトルを含ませ、ランタンの中をウイスキーで満たすという変わった祭事である。カボチャの中に満たされたウイスキーが蒸発するのを見ながら祈りをささげることで、参加者の過去を昇華させるという、いわば「懺悔」のような機能がそこにはある。

「蒸発祭」の由来は諸説あるが、有力なものとして、ある蒸留所のオーナーが革靴の中にウイスキーを注ぎ、その蒸発の具合でその年のウイスキーの出来を判断したことが始まりと言われている。ワインの「ボディ」に対応するように、ウイスキーの口当たりのことを「シューズ」というが、これはその名残である。ちなみに口当たりの重たいものから「パンプス」「ローファー」「オックスフォード」と3つの大枠があり、「フルパンプス」から「ライトオックスフォード」まで合わせて9種類に分けられる。

R.I.Pとは「rest in peace」=「安らかに眠れ」という祈りの言葉として有名である。同様に、ウイスキーの味の決め手となる蒸留樽には「D.L.F」=「Disappear Like Fog」=「霧のように消えてなくなれ」の文字が刻印されている。地域での「蒸留祭」の祈りが、ハイランドウイスキーの隠し味となるのである。
「でも、本当になくなってしまったら困りませんか」と問われた、ある蒸留所のオーナーはスコットランドジョークでこう返したという。
「うちのウイスキーのシューズは穴開きなんだ」ってね。

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